トヨタ自動車の新型「センチュリー」は、SUVなのかSUVではないのかとカタチの話題が先行しているが、ショーファーカーとして肝心な車内ははたしてどんな出来栄えなのか。発表会の展示車両に乗り込んでじっくり観察してきた。
京都迎賓館レベルの室内空間?
新型センチュリー内装デザインの思想は人中心。くつろぎと使い勝手の良さを考えて、「伝統の継承」と「進化」をうまくミックスした室内空間としている。
歴代センチュリー同様、水平、垂直の落ち着いたシンプルな空間が基本だが、日本の伝統工芸の手法を各部に用いながら、おもてなしの考え方を取り入れているのが「継承」の部分。一方の「進化」は、リアコンソールについている新機能や左右独立モニター、独立したコントローラーで操作できるリアシートなどから感じられる。
日本のおもてなしの考え方であるシンプルなミニマリズムが貫かれているところは、センチュリーの伝統を強く感じる部分だ。「例えば京都の迎賓館を訪れてみてみると、天皇陛下が国賓をお迎えしてお話しされるお部屋には、窓に障子があったり、一輪挿しの花瓶があったりとシンプルで、それゆえにエレガンスを感じることができてすばらしいんです」というのが担当者の話。実物を見学してイメージを頭に叩き込み、その考え方を日本の匠の技を使って新型の室内に取り込んだという。
例えば前後シートの間にある「タワーコンソール」の時計の盤面は、お皿の裏側にろくろを回して段差を作る「加飾弾き」という手法をヒントにして、円錐の盤面に段差を刻んでいる。コンソール自体は、楽器の製造技術をいかしてヤマハが手掛けているそうだ。ちなみにヤマハには、トヨタ「2000GT」のダッシュパネルを手がけた実績がある。
リアドアのトリムは、薄くカットした金箔を1枚ずつ変化させつつ貼りこむ「切り金」という手法を参考にしている。京都迎賓館でも使われている技術だ。それぞれのシートに織り込んだ菱形は、長寿への願いや縁起の良さを表しているとのこと。そこに刺繍メーカーの職人の手による「矢羽」をモチーフにしたシンプルなデザインを施している。日本の矢についている羽には運気を上げるという意味合いがあるらしい。
「欧州メーカーのラグジュアリーカーは、座面やドアパネルにコッテリとしたダイナミックなキルティングを施したりすることで、ストレートにデラックスさを表現しているものが多いです。それに対して、離れて見るとわからなくても、近くでよく見ると作り込みのすばらしさがわかるという、日本の匠の技を用いた細工が施されているのがこのクルマです。シンプルだけど奥深いところから、センチュリーらしいメッセージが生まれてくるんです。ひとつひとつの説明ができないものには価値がないんです」。内装担当者はこんな風に言い切った。
進化した部分は?
一方、大きく進化したのはリアシートの機能だ。セダンでは自分で足を載せなくてはいけないので少し使いにくかった前席背後のオットマンは、自然と足を押し上げてくれるスタイルに変更された。「アルファード/ヴェルファイア」と同じように、スマホ型のコントローラーが左右独立で装備されていて、試してみるととっても楽ちんだ。
大型パノラマルーフも標準装備で、リクライニングしながら外の景色が楽しめる。閉じて両サイドの調光ガラスを使用すれば、障子から木漏れ日が差すような状態になって、仕事に集中することができる。セダンから乗り換えると、世界が大きく変わるはずだ。
SUVとの違いは「セパレーター」の存在
新型センチュリーは5ドアハッチバックという形状を取りながらも、リアシートを倒して荷室とつなげればフルフラットになるという通常のSUVモデルのような2BOX構造にはなっていない。新開発の「ラゲージルームセパレート」構造を採用した3BOXスタイルなのだ。
リアシートの背後には、厚い隔壁に遮音機能付きクリア合わせガラス窓を取り付けたセパレーターが設けられている。荷室と客室をきちんとわけるという、ショーファーかーらしい考え方だ。セパレーターにはロードノイズを遮音したり、ボディ剛性を強化したりといった役割もある。このあたりが、センチュリーを単純なSUVだといわせない所以でもある。
あのロールス・ロイス「カリナン」も同じ構造になってたが、そういえば、Cピラーあたりを含めたセンチュリー全体のデザインも、なんとなくカリナンを彷彿させる仕上がりだ。「ミニカリナン」といったらトヨタに失礼かもしれないが、出来栄え自体はロールス・ロイスに匹敵するものといえそうだ。