理化学研究所(理研)は9月8日、ホタル由来の発光遺伝子を導入することで、異なる波長で非常に明るく発光する2種の新しいマウス系統を開発し、生体深部組織の発光イメージング(BLI)を飛躍的に改善させたと発表した。
同成果は、理研 バイオリソース研究センター(BRC) 実験動物開発室の仲柴俊昭専任研究員、同・吉木淳室長、理研 BRC 疾患ゲノム動態解析技術開発チーム(研究当時)の阿部訓也チームリーダー(現・BRC 客員主管研究員)、理研 脳神経科学研究センター 細胞機能探索技術研究チームの宮脇敦史チームリーダーらの共同研究チームによるもの。詳細は、実験室でのモデル生物に関する全般を扱う学術誌「Lab Animal」に掲載された。
これまで動物個体の一般的なBLIでは、北米産ホタル由来の発光酵素であるルシフェラーゼ(Fluc)と、ホタル由来の発光基質のルシフェリン(D-luciferin)を反応させる生物発光システムが利用されてきた。しかしこのシステムでは、光の強度が弱いために生体深部観察には不十分で、哺乳類の細胞ではオレンジ色の単色でしか発光しないことも課題だった。そこで、より明るく光る発光システムを持つ生物種の探索や、FlucとD-luciferinの改変などの研究が活発に行われている。
そうした中で、オリンパス(現・エビデント)の研究チームによって、沖縄産ホタル由来のルシフェラーゼ「oFluc」がD-luciferinとの反応で従来の4倍~10倍も明るく発光し、その色が黄色になることが発見された。また宮脇チームリーダーらは、人工酵素「Akaluc」と人工基質「AkaLumine-HCl」を組み合わせることで、発光色が深赤色になり、BLIの効率が従来と比べて100倍~1000倍になる人工生物発光システム「AkaBLI」を開発済みだ。そこで今回はこれらの手法を用いて、全身で発光するマウス系統と、生体内でさまざまな細胞や組織を標識できるマウス系統の開発に挑んだという。
研究チームはまず、マウスゲノムにoFlucまたはAkaluc遺伝子を挿入し、「oFlucマウス」と「Akalucマウス」を新たに作出した。これらのマウスは、転写を防ぐ「薬剤耐性遺伝子カセット」によってルシフェラーゼの発現が抑制されているために発光しないが、「Cre-loxPシステム」の部位特異的組み換え技術を用いることで同カセットを取り除くことが可能だ。その結果、マウスの体内の多様な細胞や組織で、特異的にoFlucまたはAkalucを発現させて標識できるようになり、狙い通りに発光させられるようになるという。
そして実際、D-luciferinを投与した「CAG-oFlucマウス」は黄色に、AkaLumine-HClが投与された「CAG-Venus/Akalucマウス」は深赤色に発光し、しかもその発光強度は肉眼で観察できるほどだったとする。
続いて、光らないAkalucマウスやoFlucマウスと、生体内で特定の細胞や組織を特異的に標識できる「Creマウス」とを組み合わせてAkalucまたはoFlucを発現させ、生体深部組織の非侵襲的なBLIの実現可能性について検証を行ったという。
脳の一部の抑制性神経細胞を標識できる「Vgat-Creマウス」と交配させたところ、実際に神経細胞からの発光が確認された。なお、Akalucを用いたマウスの方がoFlucを用いたマウスよりも、脳からの発光シグナルが30倍以上も強かったが、これはAkalucの基質であるAkaLumine-HClが血液脳関門を通過して脳深部まで浸透しやすい一方、oFlucの基質であるD-luciferinは同関門を通過しづらいことが示されているとのことだ。