藤井聡太七冠の活躍により大きな盛り上がりを見せている将棋界。藤井七冠は現在王座のタイトルに挑戦中で、もしタイトルを奪取すれば全八冠制覇という大偉業を成し遂げることになります。まさに一人勝ち状態の藤井七冠ですが、彼は将棋というゲームについてどう考えているのでしょうか?
将棋は二人のプレイヤーが交互に駒を動かし、相手の玉を「詰み」(どう応じても玉が取られてしまう状態)にしたほうが勝ちになるもので、ゲーム理論上は「二人零和有限確定完全情報ゲーム」に分類されます。 これは、プレイヤーが二人で、利害が完全に対立し、有限で、偶然の要素がなく、すべての情報が開示されているゲーム、という意味です。 将棋の指し手の組み合わせは10の220乗あると言われますが、「二人零和有限確定完全情報ゲーム」である以上、理論上は「先手必勝」「後手必勝」「引き分け」のどれかに決まります。 分岐の数が膨大であるため、最新のコンピュータをもってしても全てを計算し尽くすことはできませんが、どういう結論になるか予想することはできます。
それでは、現在最強のプレイヤーである藤井七冠は、この「将棋の結論」についてどう予想しているのでしょうか?
将棋の結論は「先手勝ち?」「それとも引き分け?」
9月11日に発売された『藤井聡太完全データブック 令和5年度版』(日本将棋連盟発行)の巻頭インタビューで藤井七冠はこのように答えています。
――昨年度の将棋界全体の先手勝率は5割2分となっています。将棋をゲームとして考えた場合、この差はどう思いますか。
「そうですね……。これまで統計的に互角の範囲なので問題はないと思われていたわけですけど、やっぱり突き詰めて考えた場合に、それとは違った問題になってくるので……。ただ、プロの公式戦では24点法を採用しているので、結論としては『引き分け』になる可能性が高いと思います」
――将棋の結論は先手勝ちではなく、引き分けですか。
「24点法なら相当、余裕があるはずなので」
藤井七冠の考える将棋の結論は「引き分け」でした。 そして、その理由は「プロの公式戦では24点法を採用しているため」です。
藤井七冠の結論は「引き分け」。その根拠とは?
この部分を理解するために、「24点法」について簡単に説明します。将棋はお互いに決め手を与えずに指し続けると双方の玉が相手の陣地に侵入する「相入玉」と呼ばれる状態になることがあります。相入玉になると、お互いの玉が強力な成駒で守られるようになるため、「詰み」によって決着することができなくなります。
そうすると、今度は詰み以外の要素で勝敗を決することになります。それがお互いの駒の点数です。飛車、角という大駒を5点、それ以外の駒を1点として、24点に達していない方が負け、逆に31点以上持っている方が勝ちになります。 ただし、両者とも24点~30点の範囲内に収まっていることもあり、その場合は引き分けとなります。 24点が勝敗の境目になるため、このルールを「24点法」といい、現在プロ公式戦で採用されています。
将棋は初期状態ではお互いに27点を持っています。そこから戦いを経て「相入玉」になったときに、駒の損得がプラスマイナス3点以内に収まっていれば引き分けになる、ということです。 この「プラスマイナス3点以内」という部分について、藤井七冠は「相当、余裕があるはず」と言っているのです。つまり、引き分けになる範囲が広い、ということですね。
おそらく藤井七冠には「将棋はお互いが最善手を指し続けて互角の状態がずっと続けば相入玉になり、駒の損得もプラスマイナス3点以内に収まるはずだ」という感触があるのでしょう。
そしてそれが、藤井七冠の目指す姿でもあると思います。
藤井七冠は以前、別のインタビューで「ずっと互角の形勢が続いていくのが将棋の理想」という話をしていました。お互いが最善手を指し続けて、どこまでいっても差がつかない。それは将棋の究極形で、将棋の神様同士の対局といってもいいかもしれません。
「もし将棋の神様がいるのなら、一局お手合せ願いたい」というのは藤井七冠の有名なセリフですが、自分も将棋の神様の領域に近づいて、どこまでいっても差がつかない将棋を指したいという意志を感じます。
そう考えると、藤井七冠が「将棋の結論は引き分け」と予想するのも納得できる気がします。
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『藤井聡太 完全データブック 令和5年版』
発売日:2023年9月11日
価格:1,380円
発行:日本将棋連盟
販売:マイナビ出版
B5判128ページ
本書はタイトル戦でいまだ負けなし、八冠制覇へと突き進む藤井聡太竜王・名人の将棋を、「棋戦」、「対戦相手」、「戦型」など、さまざまな角度から分析して紹介するものです。名局解説では同世代の伊藤匠七段が、藤井将棋のすごさをプロの視点から解説しています。そして巻頭インタビューで藤井聡太竜王・名人が語った、「うれしかった最年少記録」とは? ぜひ本書を読んで、藤井将棋の魅力をさらに感じてください。