阪急電鉄は、建設中の「なにわ筋線」に直通する構想を持っている。新大阪駅から十三駅を経て、大阪駅(うめきたエリア)の地下ホームに至る新線を建設。「なにわ筋線」経由でJR西日本と南海電鉄に乗り入れ、関西空港駅へ向かう。最近の報道で、「なにわ筋線」への直通列車は特別料金不要の急行を検討していることが明らかになった。

  • 「なにわ筋線」(赤線)と「阪急なにわ筋連絡線」(マルーン点線)。「伊丹空港連絡線」を見据えると、陸と空の連携が見えてくる(地理院地図を加工)

阪急電鉄が後から相乗りするように見えるが、じつはJR西日本と南海電鉄にも利点がある。キーワードは「伊丹空港(大阪国際空港)」だ。

「なにわ筋線」は、大阪駅(うめきたエリア)とJR難波駅および南海本線の新今宮駅を結ぶ新たな鉄道路線として建設が進められている。大阪市中心部は碁盤の目状に道路が配置され、南北方向は「筋」(御堂筋、谷町筋、堺筋、四つ橋筋など)、東西方向は「通」(中央大通、長堀通、千日前通など)の付く主要道路が多い。なにわ筋は四つ橋筋の西側に位置する道路で、その地下に「なにわ筋線」が建設される。

周辺に大阪市の南北または東西を結ぶ路線が多数あり、必ずしも鉄道空白地帯とはいえない「なにわ筋線」だが、大阪のさらなる発展に向けた重要な役割を与えられている。大阪(梅田)と難波という主要ターミナル駅を結ぶだけでなく、北は東海道新幹線と接続する新大阪駅、南はJR線・南海線直通で関西空港駅を結び、新大阪~関西空港間を直結する路線になる。経由地となる中之島周辺の開発にも期待がかかる。

中之島は江戸時代に米問屋が活躍し、諸国の各藩が蔵を置き、「天下の台所」と呼ばれた大坂の中心地だったが、現在は開発が落ち着いている。中之島駅を発着する京阪電車と「なにわ筋線」が連絡することにより、発展の加速を期待できる。1989(平成元)年の運輸政策審議会答申第10号「大阪圏における高速鉄道を中心とする交通網の整備に関する基本計画」では、「2005年までに整備すること適当」と盛り込まれた。2004(平成16)年の「近畿地方交通審議会答申第8号」で、「京阪神圏において、中長期的に望まれる新たな鉄道ネットワークを構成する路線」とされた。

その後、国土交通省の調査を経て、2014年度から大阪府、大阪市、JR西日本、南海電鉄が事業化に向けた検討を開始した。

■阪急電鉄も参画、「なにわ筋線」乗入れにこだわった理由

一方の阪急電鉄も、1989年の運輸政策審議会答申第10号で、北梅田(梅田貨物駅再開発地区)と十三を結ぶ新路線が盛り込まれていた。広大な梅田貨物駅の跡地を再開発するにあたり、阪急電鉄の駅からも線路を引こうという目論見だった。阪急電鉄の神戸本線・宝塚本線・京都本線から直通すれば、北梅田で「なにわ筋線」に乗り換え、関西国際空港にもアクセスできる。

この構想は、2004年の「近畿地方交通審議会答申第8号」で「西梅田・十三連絡線」とされ、四つ橋線と阪急神戸線の直通運転ルートになった。その後の検討で、四つ橋線と南海電鉄を汐見橋駅で接続する案もあった。「なにわ筋線」が進展しなかったため、代替案として検討された。

ところが、前出の通り2014年から「なにわ筋線」の事業化に向けた検討が始まった。阪急電鉄は四つ橋線と接続するつもりだったが、梯子を外された形になってしまう。

これを受けて、阪急電鉄は十三駅と北梅田駅(現・大阪駅うめきたエリア)を結ぶ路線に立ち戻る。ただし、標準軌の阪急電鉄に対し、「なにわ筋線」はJR西日本・南海電鉄ともに狭軌のため、直通運転はできない。そこで阪急電鉄は大きな決断を下した。十三~北梅田間の新路線は狭軌とし、「なにわ筋線」に直通する。阪急電鉄の神戸本線・宝塚本線・京都本線との直通運転はあきらめ、十三駅で乗換えとする。さらに、かつて計画した十三~新大阪間の路線を狭軌路線として再起動し、新大阪~十三~北梅田間の新路線を建設する。

この方法は良くできている。十三~北梅田間を標準軌で建設した場合は北梅田駅で、狭軌で建設した場合は十三駅で乗換えとなり、いずれにしても1回は乗換えが必要になる。とはいえ、標準軌で建設した場合でも、神戸本線・宝塚本線・京都本線の3方向からすべての列車が北梅田駅に乗り入れるはずもない。

そうなると、標準軌案は北梅田駅への直通で乗換え1回か、十三駅と北梅田駅で乗換え2回のパターンができる。一方、狭軌案は3方向の全列車が十三駅での乗換え1回で済む。これが自社の規格を曲げてでも「なにわ筋線」乗入れにこだわった理由のひとつだろう。

2017年5月、大阪府、大阪市、JR西日本、南海電鉄、そして阪急電鉄を加えた5者で「なにわ筋線の整備に向けて」の報道発表を行った。「なにわ筋線」自体の枠組みは変わらず、新たに「阪急なにわ筋連絡線」の検討調査が盛り込まれた。

阪急電鉄は「なにわ筋線」計画に後から参入したように見えるが、もともと「なにわ筋線」と「阪急なにわ筋連絡線」は同時期に答申に盛り込まれていた。阪急電鉄側が狭軌に変更し、「なにわ筋線」直通の利を取ったというわけだ。

阪急阪神ホールディングスの長期経営計画「長期ビジョン -2040年に向けて-」の中で、なにわ筋連絡線・新大阪連絡線等の大規模プロジェクトは人口減少が加速しても相応の成長ができると期待している。

■新路線で「1時間あたり6本の急行」を運転

産経新聞は8月16日付で、阪急電鉄の専務取締役、上村正美(まさよし)氏のインタビューを掲載。新情報を引き出している。

新大阪駅から十三駅を経て大阪駅(うめきたエリア)に至る新路線について、「なにわ筋線」と同時期の2031年開業をめざす。「なにわ筋線」から関空方面はJR西日本と南海電鉄の両方に直通する。新大阪~関西空港間は1時間あたり6本の急行を走らせる。有料特急ではなく、特別料金不要の急行とした理由は通勤客を取り込むため。車両は狭軌対応の新型車両を投入した上で、保守は南海電鉄に依頼する。車体色はマルーンカラーとしたい。

じつは南海電鉄側も、阪急電鉄への乗入れを検討している。こちらも産経新聞が7月12日付で記事を掲載していた。南海電鉄は「なにわ筋線」の北側でJR西日本と阪急電鉄の両方に直通する。現行の関空特急「ラピート」(南海電鉄50000系)は運転席側に非常扉がなく、地下区間を走行できないため、新型車両へ置換えとなる。

阪急電鉄側の情報と合わせると、現行の「ラピート」にあたる有料特急はJR線経由で新大阪駅発着、現行の空港急行にあたる料金不要の列車は「阪急なにわ筋連絡線」を走ることになる。棲み分けはできたと言えそうだ。南海電鉄にとっては、JR西日本が混雑時間帯に有料特急の乗入れを拒む可能性を考慮し、阪急電鉄側に保険をかけたともいえる。

■「伊丹空港連絡線」の整備にも期待

JR西日本にとって、阪急電鉄の新大阪~十三~大阪間は競合する。かつて京都~大阪~神戸間で官営鉄道と大手私鉄が競合したように、新たなライバルの出現となり、JR西日本としてはおもしろくないかもしれない。

しかし、阪急電鉄による乗入れはJR西日本にも利点がある。阪急電鉄で伊丹空港(大阪国際空港)にアクセスできるからだ。現在、伊丹空港に直接乗り入れる軌道系アクセス路線は大阪モノレールのみ。ただし、蛍池駅で阪急宝塚線から乗り換えることで、大阪空港駅へ行ける。つまり、阪急電鉄が大阪駅(うめきたエリア)に到達し、JR西日本との相互直通運転が実現すれば、阪和線沿線などから伊丹空港への乗換えが容易になる。

南海電鉄にとっても、十三駅乗換えで伊丹空港をはじめ阪急電鉄沿線に行きやすくなる。阪急電鉄には「伊丹空港連絡線」の構想もあり、これが実現すればさらに利便性が向上するだろう。それだけに、阪急電鉄は「伊丹空港連絡線」の整備も進め、「なにわ筋線」プロジェクトにおいて存在感を高める必要がある。

■懸念事項は建設期間、接続部だけでも先行着手を

そうなると、阪急電鉄の「なにわ筋線」直通について、「2031年に間に合うか」という懸念がある。「なにわ筋線」は環境影響評価を済ませており、すでに着工している。一方、「阪急なにわ筋連絡線」は環境影響評価が未着手となっている。「なにわ筋線」の環境影響評価は2年かかり、工事着手から2年経過した。つまり、阪急電鉄側は4年も遅れていることになる。

「阪急新大阪連絡線構想」があった頃は高架線として建設予定であり、新大阪駅の御堂筋線ホームの上に準備空間があった。しかし、その空間はすでに新幹線ホームの増設に転用されている。新大阪駅付近の線路用地は残っているものの、十三駅付近の線路用地は売却された。つまり、「阪急なにわ筋連絡線」は全線地下で建設せざるをえない。

ちなみに、「なにわ筋線」は約7.2kmだが、「阪急なにわ筋連絡線」の新大阪~十三間は約2.3km、十三~大阪間は約2km、合計で約4.3kmとなる。距離が短い分、工期短縮となるか。

もっとも、同時開業できなかったとしても、「阪急なにわ筋連絡線」は大阪の交通ネットワークにとって重要な路線である。大阪ではいま、関空アクセス関連と夢洲関連の鉄道整備が進んでいる。「阪急なにわ筋連絡線」も関空アクセス関連の路線だが、伊丹空港関連プロジェクトにもつながる。大阪駅(うめきたエリア)との接続地点を先に施工して備えておけばいい。

今後は建設費用の負担問題を解決する必要がある。阪急電鉄が全額負担するか、あるいは「なにわ筋線」と同様に上下分離し、関西高速鉄道が鉄道施設を保有して阪急電鉄が運行するか。その枠組みが決まらないと、環境影響評価も始まらない。

「阪急なにわ筋連絡線」は伊丹空港を見据えてこそ効果を発揮する。阪急電鉄の負担を少なくして、その分を「伊丹空港連絡線」に向けてほしい。