モトローラの折りたたみスマートフォン「razr 40 ultra」が8月25日に発売されました。縦折りタイプの折りたたみスマートフォンは少しずつ普及し始めた印象はあるものの、まだまだ高価で手の届きにくい存在です。
ところが、本機種は条件次第では109,800円という通常のハイエンドスマートフォンよりも安いぐらいの価格で手に入ってしまう戦略的な値付けのおかげもあって、初回入荷分が早々に売り切れてしまうほどの好調な滑り出しを見せています。
もちろん、人気の理由は「比較的安いから」だけではありません。発売に前後して1週間ほど実機を試用する機会を得たので、その魅力をお伝えします。
国内通信事業者ではIIJmioが独占提供、MNPで驚きの価格に
本題に入る前に、やはり「折りたたみスマホがそんなに安く買えるのか」という点が気になる方も多いと思いますので先に説明しておきましょう。
まず、モトローラ公式オンラインストアにおけるrazr 40 ultraの販売価格は155,800円。家電量販店でもほぼ同様の価格設定の店舗が多く、ポイント10%還元のところなら実質14万円程度といったところです。この時点では競合機種と比べて極端に安いわけではないのですが、そもそも国内でキャリアを介さずに販売されるフォルダブルスマートフォン自体が珍しいこともあり、通常価格の店舗でも品薄となっています。
razr 40 ultraは日本国内の通信事業者としてはインターネットイニシアティブ(IIJ)が独占販売しており、IIJmioでの販売価格は139,800円、10月31日までは119,980円と他の販売チャネルと比べて安めの価格設定です。さらに、「ギガプラン」の音声SIMをMNPで契約すれば割引が適用され、冒頭で触れた109,800円の特別価格で手に入ります。
単純比較はできませんが、たとえば同じSoCを搭載する非折りたたみのNothing Phone (2)が79,800円~109,800円であることを考えても、ほとんど「折りたたみの価値」に追加コストを払うことなく体験できるバーゲンプライスと言えます。折りたたみスマホに興味を持ちつつも値段を見て尻込みしていた方にとっては絶好の機会ではないでしょうか。
縦折り型としては新しい「閉じても使える」体験
かくいう筆者にとっても、折りたたみスマートフォンは高価で手の届かない存在ではありますが、仕事柄一度は所有してじっくり試しておかなくてはと思い、出始めの頃に「Galaxy Z Flip」を買ってみたことがあります。3年前の当時で18万円ほどしたことを考えると、これだけ色々な物が値上がりしているなか、技術の進歩による値下がりがここまで勝っている製品ジャンルは他にないのではないだろうかと驚かされます。
それはさておき、同じ縦折りのフリップスタイルの機種を使っていた経験からすると、razr 40 ultraの大型サブディスプレイはとても新鮮かつ実用性の高い差別化のポイントだと感じました。
折り曲げられる特別な有機ELディスプレイを用いたフォルダブルスマートフォンは、閉じた状態で普通のスマートフォン、開くとタブレットのような大画面になる「横折り型」と、開いた状態で普通のスマートフォン、閉じた状態では通知チェック程度の機能になる「縦折り型」に大別できます。
言ってしまえば、普通のスマートフォンにない体験価値をより明確に打ち出せるのは高価な横折り型のほうです。縦折り型にもハンズフリー自撮りなど限られたシーンにおける利点がないわけではないものの、目新しさやファッション性が先行してきた部分は否めず、むしろ「いちいち開かないと使えない」不便をあえて楽しむぐらいがちょうどいいアイテムでした。
しかし、普及期に入ってその流れは確実に変わってきています。razr 40 ultraやGalaxy Z Flip5、日本未発売のOPPO Find N2 Flipやvivo X Flipなど、各社ともにサブディスプレイを大型化し、縦折りスマホの最大の弱点だった「閉じた状態での使い勝手の悪さ」を改善する方向に舵を切ったのです。
razr 40 ultraはその中でも特に大きなサブディスプレイを搭載しており、3.6インチのサブディスプレイはメインカメラを囲んで外装の片側ほぼ全面を覆うほど。
Galaxy Z Flip5のカバーディスプレイ(3.4インチ)もサイズ的には近いのですが、ソフトウェアの面で両社の見せ方が少し違います。Galaxy Z Flip5は外側画面での通常アプリの起動はラボ機能扱い、いわば「ある程度分かっている人、どうしてもやりたい人はやってもいいよ」というニュアンスで、ウィジェットを主体とする従来の小さなカバーディスプレイの延長線上という考え方です。
そちらと比べると、razr 40 ultraはサブディスプレイ用のアプリランチャーに追加する必要はあるものの、基本的にどんなアプリでもどんどん使ってくれというスタンス。もちろん、サイズや縦横比がメインディスプレイとは大きく異なりますから、実用的かは物によるのですが、やろうと思えばSNSでもゲームでも外側画面で開けてしまいます。
面白がってあれこれと試してみたなかで、特に気に入ったのは「Google マップ」と「PayPay」。まずGoogle マップで言えば、普通のスマートフォンを取り出して見るほど大げさではなく、スマートウォッチの小さな画面よりはずっと実用的。懐中時計のような感覚でさりげなく地図を確認できる独特の使い勝手が気に入りました。
そしてPayPayのようなコード決済とも相性が良く、スマートにバーコードを表示してレジにかざせます。ミドルレンジの「moto g53j 5G」やミドルハイの「motorola edge 40」にFeliCaが搭載される一方で本機種はFeliCa非対応なのが残念ではあるのですが、閉じたままでもコード決済ができる使い勝手の良さに加え、クレジットカードなどのNFC決済には対応しているので、日常的に電車に乗る人(交通系ICが必須の人)を除けば案外事足りるかもしれません。
ベンチマーク、カメラなど基本の使い勝手をチェック
目を引く折りたたみギミック、そして独特なサブディスプレイの利便性と、飛び道具的な魅力は確かですが、そうは言ってもスマートフォンは毎日使う道具。基本的な使い勝手も気になるところです。
ここでrazr 40 ultraのスペックを見てみましょう。
- OS:Android 13
- SoC:Qualcomm Snapdragon 8+ Gen 1
- メモリ(RAM):8GB(LPDDR5)
- ストレージ(ROM):256GB(UFS 3.1)
- メインディスプレイ:6.9インチ 2,640×1,080(フルHD+)pOLED 165Hz
- サブディスプレイ:3.6インチ 1,066×1,056 pOLED 144Hz
- アウトカメラ:約1,200万画素 F1.5(広角)+約1,300万画素 F2.2(超広角)
- インカメラ:約3,200万画素 F2.4
- 対応バンド(5G):n1/n3/n5/n7/n8/n20/n28/n38/n41/n66/n77/n78/n79
- 対応バンド(4G):1/2/3/4/5/7/8/12/13/17/18/19/20/25/26/28/32/34/38/39/40/41/42/43/48/66
- SIM:nanoSIM+eSIM
- Wi-Fi:IEEE 802.11a/b/g/n/ac/ax(2.4GHz/5GHz/6GHz)
- Bluetooth:5.3
- バッテリー:3,800mAh
- 充電:有線30W/無線5W
- 外部端子:USB Type-C(USB 2.0)
- 防水/防塵:IPX2/IP5X
- 生体認証:指紋認証、顔認証
- サイズ(展開時):約170.83×73.95×6.99mm
- サイズ(収納時):約88.42×73.95×15.1mm
- 重量:約188g
折りたたみスマートフォンとしてのrazrシリーズは本機種が4世代目にあたり、日本市場への導入は2世代目の「razr 5G」以来です。その2世代目までは、フォルダブルディスプレイという付加価値があるとはいえ、ミドルハイのSoCを採用しながら20万円近くと強気の価格設定で手を出しづらいプレミアム路線でした。
しかし現行の第4世代では、日本未発売の下位モデル「razr 40」も含めて、同等スペックの一般的な非折りたたみ型スマートフォンに数万円足せば買えるかも?と検討しやすい戦略的な価格となっています。
CPU/GPUを内包するSoC(System on a Chip)は、最新世代でこそないもののハイエンドクラスのSnapdragon 8+ Gen 1を採用。上位SoCの高性能化・高価格化が進むにつれ、このような戦略をとるメーカーは少しずつ増えています。ヘビーゲーマーでない限り、処理速度に不満を感じる場面はほぼないでしょう。
4G/5Gの対応バンドも充実していますし、eSIMやWi-Fi 6E(6GHz帯)のような最新トレンドへの対応など、基礎的な部分での死角は少ない仕様です。あえて弱点を挙げるとすれば、折りたたみ端末ゆえに防水・防塵の保護等級は低いこと、スペックの割にバッテリー容量が少なめなことが挙げられます。
ディスプレイの表示品質は高く、メインの折りたたみ画面はDCI-P3 120%の高色域に最大165Hzのリフレッシュレート、HDR10+や10bitカラー対応とハイスペック。最近のモトローラ製スマートフォンのほとんどに搭載されているDolby Atmos対応のステレオスピーカーとあわせて、動画の視聴体験は非常に優れていました。
折りたたみ式である以上「折り目」の見え方が不安な方も多いかと思いますが、この点に関しては、世代を重ねてきているだけあって他社の折りたたみスマートフォンと比べても比較的目立ちにくいと感じました。正面から見る限りは、画面が暗転したときでなければほとんど折り目の存在を忘れて映像に没入できます。
一般的なスマートフォンと比べて縦長な22:9のアスペクト比を採用しているため、WebサイトやSNSのタイムラインをスクロールしながら読む時も快適ですし、YouTubeのライブ配信を見る際に横向きの全画面表示で使ってみると「16:9の配信画面+コメント欄」がほぼぴったり収まることを発見。これも人によってはかなり重宝しそうです。
ディスプレイ周りで少し惜しいポイントとしては、とても鮮やかなパネルを採用しているがゆえの事と思いますが、デフォルトの画質モード「ビビッド」では過剰に強調されたキツい色味に見えてしまいます。もう1つ用意されている画質モード「自然」ではかえって色味が抜けすぎて不自然に見え、中間の設定が欲しいと感じました。
実はサブディスプレイもハイスペックで、こちらも有機ELを採用しておりDCI-P3 120%/HDR10+という点はメインと同様。見かけによらず最大144Hzの高リフレッシュレート仕様のため、小さな画面で地図アプリなどが滑らかに動く様子は感動モノです。また、最大輝度はメイン400nitに対してサブ1,100nitと外側画面の方が明るく、日差しの強い屋外でポケットから取り出してサッと情報を確認するような使い方にも合っています。
カメラは外側に約1,200万画素 F1.5(広角)+約1,300万画素 F2.2(超広角)のデュアルカメラ、内側に約3,200万画素 F2.4という構成。閉じた状態でサブディスプレイを使ってアウトカメラをインカメラ代わりにすることもできるため、セルフィ―を撮る機会が多い方なら使い勝手は良いでしょう。
写りの傾向としては、彩度を高めに持ち上げたSNSウケの良さそうなチューニング。暖色系の照明の屋内などでは補正が効きすぎて扱いが難しい場面も見られました。シンプルな操作で見栄えのする写真が撮れるカメラアプリになっていますが、補正のON/OFFあるいは効き具合のコントロールに介入できるとなお良さそうです。
ユーザーインターフェースに関しては他のモトローラ製スマートフォンと同様に、メーカー独自のカスタマイズは控えめで素のAndroidに近いシンプルなものです。
サブディスプレイには独自のウィジェットやアプリランチャーがあり、単に時刻・天気・通知などを確認するだけではなく、メインディスプレイと同じように一般的なアプリを起動できます。
単に縦横比やサイズが特殊な端末として扱われるだけで、多少の表示崩れなどはあるにしても利用自体にアプリ側の特別な対応を必要とするものではないため、工夫次第で活用の幅は広がるでしょう。サブディスプレイの汎用性の高さは現在手に入る縦折り型のスマートフォンのなかでも特に秀でています。
キャリアモデルではないオープンマーケット向けの端末としては現状ほぼ唯一の縦折り型であること、購入方法次第では非折りたたみ型のハイエンドスマートフォンとさほど変わらない価格で手に入ることも含めて、これから折りたたみスマホデビューを考えている方にはおすすめできる機種です。