永瀬拓矢王座に藤井聡太竜王・名人が挑戦する第71期王座戦五番勝負(主催:日本経済新聞社、日本将棋連盟)は8月31日に神奈川県秦野市の「元湯陣屋」で開幕。対局の結果、150手の熱戦を制した永瀬王座が防衛に向け好スタートを切りました。
運命の五番勝負はじまる
永瀬王座の名誉王座資格と藤井竜王・名人の八冠同時制覇を懸けた五番勝負は振り駒で先手となった藤井竜王・名人が飛車先の歩を突いてスタート。両対局者の息が合って戦型が角換わりに決まったところで後手の永瀬王座は早繰り銀の作戦を明かしました。双方の囲いが未完成のうちに右銀を7筋に繰り出したのが積極的な作戦です。
早々に両者の研究範囲を離れたか、昼食休憩明けからともに少考を繰り返す場面が目立つようになります。棒銀の要領で飛車先突破を目指す永瀬王座に対し、先手の藤井竜王・名人は盤上中央への角打ちで対抗。この角は後手の飛車先を押さえつつ、右辺の守備金にも狙いをつけた一石二鳥の手です。
永瀬王座渾身の勝負手
藤井竜王・名人にとって好調の時間帯が続きます。先に打った角を後手の金と刺し違えた藤井竜王・名人は、返す刀でこの金を拠点に打ち込み攻撃を続行。孤立する永瀬玉を寄せきるのは時間の問題かと思われましたが、ようやく手番を手にした後手の永瀬王座はここで渾身の勝負手を用意していました。
84手目(第71期王座戦五番勝負 第1局 主催:日本経済新聞社、日本将棋連盟)
図の△2六香が控室の検討陣を驚かせたタダ捨ての好手。形勢は難解ながら、以下▲2六同飛△6九角と進んでみると先手玉はグッと狭くなった印象です。この直後、どちらから打っても急所となる3四への桂打ちを実現したことで形勢の流れは徐々に後手の永瀬王座に引き寄せられました。
永瀬王座が後手番で先勝
延々と続く秒読みの中やがて後手玉にも詰めろがかかりますが、永瀬王座の対応は最後まで冷静でした。先手の攻めの要となる角を取り除くために丁寧に自陣飛車を打ったのが勝ちを急がない決め手。終局時刻は21時11分、最後は自玉の詰みを認めた藤井竜王・名人が駒を投じて永瀬王座の勝利が決まりました。
敗れた藤井竜王・名人は局後、「角を切ってと金作りを狙ったが、進んでみると攻め駒が少なくよい指し方ではなかったか」と振り返りました。永瀬王座の先手番で迎える第2局は9月12日(火)に兵庫県神戸市の「ホテルオークラ神戸」で行われます。
水留 啓(将棋情報局)
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