クリエイターエコノミー協会は8月29日、「アドビと漫画家が語るAI最前線 ─ AIは創作のアシスタントになりえるか?」と題するイベントを開催しました。プロの漫画家はどのようにAIを駆使しているのでしょう?
プロの漫画家はどのようにAIを駆使しているのでしょう? そして、アドビが開発中のFireflyの特徴とは? 最前線の話題が盛り込まれた今回のトークセッションは、YouTubeでも無料配信されました。
AIにできることは?
登壇者は、漫画家(二人組漫画家・うめ)の小沢高広氏、アドビCDOの西山正一氏、note CXOの深津貴之氏。noteプロデューサーの徳力基彦氏がモデレーターを務めました。
イベントの前半は、小沢氏が「マンガ製作における生成AIのリアル」について紹介しました。
つい先日、娘の作文の宿題を手伝う”AI家庭教師”の様子をX(旧Twitter)に投稿してバズったばかりの小沢氏。あのとき、どうやってAIを活用したのでしょう?
「ChatGPTに『文章を書いて』とお願いしたのではなく、家庭教師役をしてもらったんですね。今日はどんなテーマで作文を書きますか?小学校生活でイチバン心に残った思い出はどのような出来事ですか?といったように、AI側から娘に対話を持ちかけてもらうようにしました。AIを壁打ちの相手にすることで、子どもの作文をサポートしてもらうやり方です」と小沢氏。
そしてこのアイデア、漫画家にも応用できるのではないか、と続けます。つまりアイデア出しを手伝ってくれる担当編集の役割をAIに担ってもらう、いわば“AI編集者”のような使い方を、まずは紹介しました。
次に小沢さんは、「生成AIって『もっともらしいウソ』をついてしまうんですよね」と切り出します。だから事実の検索には不向きだけれど、それなら物語を創作するアシスタントには向いているのではないか、と話題を転換。これにはnoteの深津氏も「ファンタジーやSFの設定なら、GPT3.5に暴走させて答えさせたら、きっと奇想天外で良いストーリーが出そうですよね」と賛同していました。
ところで、生成AIに漫画を描かせることはできるのでしょうか? いま手塚治虫の名作「ブラックジャック」の新作をAIに描かせるプロジェクトが進んでいますが、相当な人の手がかかっているようです。一般の漫画家が使えるレベルになるまで、まだまだ時間がかかりそう。
現段階の生成AIは、ストーリーのプロット支援、タイトル案、セリフ案などに使うと良いのではないか、と小沢氏。作画の側面で使うとしたら、キャラクターデザイン、メカデザイン、着色、架空の風景の生成などがオススメだとします。
文章生成AIなら、どんなことに使えるでしょうか?まずは「自分が苦手とすることを代わりにお願いしたい」として、例えば女子高生、オジサン、子どもなどが言いそうなセリフを生成してもらう、といった使い方を紹介します。
これにはMCの徳力氏も「漫画家は、色んな人になり切ってセリフを言わせないといけないですもんね」と納得。深津氏も、「科学者になり切って、頭の良さそうなことを喋ってくださいとか、自分の知識・知性の外にいるキャラクターのセリフを作ってもらえそうですね」と頷きます。
あとは翻訳でも使える、と小沢氏。一般的な翻訳ツールを使うと堅苦しい英語になってしまうところを「ラフなスラングで英訳して」と命令すると、ちょうど良くなるそう。
では画像生成AIなら、どのように使えるのか? 例えばキャラクターデザインなら、豊富なバリエーションを生成できます。小沢氏は、それを見ながら漫画のキャラに落とし込めば良いと話します。
同様に、背景のビルの看板に掲げてありそうな企業のロゴなども大量に製作できる、と話します。「あるとリアルさが増すけれど、自分で考えていると時間がかかってしまうディテールについては、画像生成AIに任せればとても助かります」。
ここで小沢氏は「やはり背景もできればAIに描いてもらいたいですよね」と話し、実際にMidjourney(ミッドジャーニー)に描いてもらった背景を紹介しました。
使用に際してはひとつコツがあり、前段階で文章生成AIに助けてもらう(良いプロンプトを書いてもらう)ことで、より具体的で使い勝手の良い背景を描いてもらえると解説します。
もちろん生成後に人の手による修正は必要で、特に看板などには謎の文字が出がちであること、そして時代設定を考慮する必要があること、このほかディテールやパースにごまかしがないか注意しましょう、と補足しました。
最後に今後の展望。漫画家の作業には、ストーリー作成、ネーム作成、作画があり、ストーリー作成と作画には生成AIの力を借りることができそうだ、と小沢氏。ただ漫画家がイチバン苦しむ、漫画の核でもあるネーム(大まかにコマ割り、台詞などを描く)作業については「残念ながら、AIに任せることができません。これからも、まだまだ漫画家の産みの苦しみは続きそうです」としました。
Adobe Fireflyとは?
アドビの西山氏は、同社が開発を進めているクリエイティブのための生成AI「Adobe Firefly」を紹介。こちらは現在、ベータ版を無料提供中です。
西山氏が強調したのは、そのままクリエイターが商用できるような画像を生成できるように設計されている点。アドビでは権利関係がクリアなものだけをトレーニング素材にしてAIに学習させている、と明かします。UIや操作感も、既存のAdobe製品とそれほど変わらないようにデザインされているようです。
ちなみに、画像生成AIを搭載したデザインツール「Adobe Express」を使って、note(PC版)の記事の見出し画像をつくる機能を年内にリリース予定。現在、鋭意開発中とのことでした。
AIが抱える課題は?
このあとは、事前に用意されたテーマに沿ったトークを展開しました。
「AI時代に求められるスキル」について尋ねられると、深津氏は「コミュニケーション能力じゃないですかね」と回答。その理由については「従来のクリエイターは自分の作業を黙々とやっていたけれど、AI時代は“ひとりスタジオ”のようになるため、指示やレビューなど、キャッチボールして回す業務を全部ひとりでやらなくてはいけない。自分に苦手なことはAIにアウトソースしますし、いわば10数名のAIアシスタントを持った人間にならないといけないのではないでしょうか」と説明します。
「AIがいま抱えている課題は?」という質問に小沢氏は「今後、絵を読み込んで分析できるようになってもらえたら。ストーリーラインを追ってくれるところまでいってもらえたら面白いかな、と思います」とコメント。
深津氏は、AIの開発サイドと利用者サイドに“微妙なズレ”があるとして、そこを埋めるような動きを求めました。
「AIを開発している側とクリエイター業界が欲しているものが微妙にズレている気がするんですよ。プロダクトをつくる側は、もっとクリエイターに会ってほしいし、交流が進んだらお互いに良いのに。
たとえば、いま画像生成AI界隈では解像度や手の表現などを改善しようとしているけれど、実はそこよりも、雑に色塗り資料を1つ渡すだけで全コマを塗ってくれたり、アニメならコマ1とコマ3を渡すだけでコマ2の中割を全部やってくれたりして欲しい。このミスマッチングを数年で埋めてくれたら嬉しいです」。
ライブストリーミングの視聴者からは「クリエイターのAI活用法として、ほかにどのような使い方がありますか」という質問が。これに小沢氏は「現実問題、とても助かっているのが断りのメール文章をAIに生成してもらうことです」と明かしました。深津氏も「心が病むやりとりは全てAIにやらせたいですよね。値段交渉とかも」と応じます。小沢氏は「漫画家って、皆さん事務手続きが全くできない人たちなんですよ(笑)。断りのメールも、バッサリ断るのではなく、やんわり断りたい。そのあたりの温度感も調節したい」と続けました。
このほか、深津氏は「もしお子さんがいるならば、お子さんが作った物語、歌などに生成AIですごい挿絵をつけてあげるとオススメです。まだ生成AIの良い使い方が見つかっていない、という方にイチバン良い使用法ではないでしょうか」と勧めます。これにMCの徳力氏は「それ、ウチでも(お子さんが小さかった)10年前にやれていたらなぁ」と嘆くと、アドビの西山氏は「それ是非、Fireflyでやってみて下さい。日本語にも対応していますので」と笑顔で応じていました。