コウテイペンギン(エンペラーペンギン)は南極大陸に住むペンギンの一種。「ヒナが全滅」のニュースもあった通り、世界規模の気候変動と温暖化の影響でこのペンギンの生息環境は危機にさらされている。今わかることをまとめたい。
ヒナ全滅のニュースに驚愕
2023年8月26日、複数の海外メディアが「コウテイペンギンのヒナが全滅、南極の海氷消失で壊滅的影響」というニュースが流れた。記事の内容は、「コロニーを調査した結果、5コロニーのうち4コロニーで昨年、ヒナが全滅していたことがわかった」というイギリスの科学誌ネイチャーの報告を考察するものだ。
コウテイペンギンは、世界に18種いるペンギンの中で最も大型の種。日本ではアドベンチャーワールド(和歌山県)、名古屋港水族館(愛知県)で飼育されている。飼育の現場やペンギンファンの間では、「エンペラーペンギン」の呼称が主流のため、以下、エンペラーペンギンと記述する。
エンペラーペンギンは、南極圏内の海氷上と南極海に生息する。普段はエサをとりやすい海域で暮らし、繁殖期になると、南極大陸周辺の海氷(浮氷)上でコロニーを形成し、繁殖期以外には南極海を回遊していると考えられている。
エンペラーペンギンは海氷の上に巣を作りヒナを育てるが、海氷が早く溶けてしまうと、ヒナが生き残る可能性が低くなる。ヒナ全滅の原因は、温暖化により南極の海氷が減少したことによるものだと考えられている。
別コロニーで繁殖がうまくいっているかも
エンペラーペンギンについては、専門家でも未知の部分が多く、正確な判断に必要な科学的データが不足しているというのが現状だ。ヒナ全滅は悲痛なニュースだが、今後の広範囲な科学的調査・研究を待ちたい。
とはいえ、エンペラーペンギンが心配で心配で……というペンギンファンは少なくない。1990年に発足し日本各地・チリやニュージーランドなどで活動し、野生個体群の保全と飼育技術の向上を目指す「ペンギン会議」研究員の上田一生氏に話を聞いた。
――「今わかっていること」を教えてください。
上田氏:エンペラーペンギンのコロニーは、2023年は66か所あることが報告されています。コロニーはまだこれからも発見されることもしばしばです。今回のヒナ全滅の報告は、「ベリングスハウゼン海に面する5か所のコロニーの内4か所」に関する報告です。この傾向がほかのコロニーにも同様に見られるのか否かを確認するまでは、「南極全体のエンペラーペンギンの個体数変動」について断定的なことを言うことはできません。
また、成鳥さえ生き延びれば、また翌年以降繁殖できるわけですから、1回の繁殖期でいくつかのコロニーのヒナが全滅したとしても、エンペラーペンギン全体の総個体数の変動にはあまり大きな影響はないと考えられています。ただし、ヒナの全滅という現象が多くのコロニーで同時に起きたり、数年間続いたりすれば、かなり深刻な事態だと言えます。
――南極大陸は広大ですから、別のコロニーで繁殖が順調でありますように……。
上田氏:南極大陸だけで日本の総面積の約36倍にあたる広さがありますので、パックアイス=浮氷を含めるとさらに広大な面積をくまなく調査しないと、正確な個体数変動について断定することは難しいのです。2023年9月3日から8日にかけて、チリのヴィーニャ・デル・マールで第11回国際ペンギン会議が開催されます。ペンギン研究者のおよそ9割(約400人)が集まるので、研究者間の意見交換があると思います。
――もうすぐですね。「ペンギン会議」サイトでの最新の情報をお待ちしています!
南極保護の活動をできることから
温暖化や海氷の減少などの環境変化によって、生存が危ぶまれるエンペラーペンギン。私たちは、この問題に対してどうすべきだろうか。
まずは、生態や危機状況を正しく理解することが必要だ。エンペラーペンギンは、地球上で最も寒い南極の冬を中心に繁殖するという特異な生き方をしている。繁殖や餌探しには十分な量の海水や海氷が欠かせないのに、気候変動によってそれらが失われていることを知ってほしい。
今すぐできることとして、温暖化などの原因となる二酸化炭素などの温室効果ガスの排出を減らすことがある。日常生活では、省エネや節電、公共交通機関や自転車を使うこと、食品ロスやプラスチックごみを減らすことがある。化石燃料に頼らずに再生可能エネルギーを利用すること、肉食を減らすことも有効と考えられている。
「観光客急増により南極大陸の環境や生態系に悪影響を及ぼしている」という指摘もある。日本にいながら生息域の保護活動をしている団体を探し、寄付を行うのは良いことだ。
さらにその前の一歩として、本物のエンペラーペンギンを見に行くことをお勧めしたい。日本では生存が危ぶまれている希少なエンペラーペンギンが、アドベンチャーワールドと名古屋港水族館の2施設で見られるのだから!