第82期A級順位戦(主催:朝日新聞社・毎日新聞社)は、3回戦の佐藤天彦九段-中村太地八段戦が8月29日(火)に東京・将棋会館で行われました。対局の結果、矢倉の乱戦を76手で制した中村八段が自身A級で初となる勝利を挙げました。

新時代の矢倉戦

先手となった佐藤九段が矢倉の出だしを志向して対局がスタート。この戦型における後手側の作戦が矢倉中飛車・中住まい型・雁木など多様化するなか、本局の中村八段が選んだのは右桂の活用を急ぐ速攻型でした。この5年ほどで開発された積極策で、手順に飛車を大きくさばいて先手の駒組みに制約を与える狙いがあります。

中村八段が飛車で横歩を取ったあと局面は一段落を迎えますが、盤上のどこから戦いが起こってもおかしくないため、ともに居玉のまま駒組みが続きます。手番を得た中村八段は3筋に垂らした歩を成り捨てて細い攻め繋ぎにかかりました。局面は中盤の難所ながら、先手の佐藤九段はここまでわずか11分しか消費していません(中村八段は約120分)

中村八段が待望の初勝利

飛車を切ってその代償として先手陣中央に桂を成り込んだ中村八段に対し、先手の佐藤九段も攻め合いで応じます。5筋の拠点に桂を飛び込んで銀を入手したのを皮切りとして後手玉すぐそばに飛車を打ち下ろしたのは好調な攻めに思われましたが、ここから後手の中村八段の攻めが火を噴くことになりました。

手番を握った中村八段は5筋の成桂を拠点に先手玉を上から押さえつける寄せを実現。打ち込んだ銀に桂のヒモをつけたのが決め手となり、切れない攻めが実現しました。終局時刻は23時6分、最後は自玉の受けなしを認めた佐藤九段が投了。佐藤九段としては後手陣に打ち込んだ飛車が思うような活躍を見せられなかったのが誤算でした。

勝った中村八段、敗れた佐藤九段ともにリーグ成績は1勝2敗に。4回戦では中村八段-佐々木勇気八段戦、佐藤九段-渡辺明九段戦が組まれています。

  • 不調が続いていた中村八段はこの勝利を浮上のきっかけにできるか

    不調が続いていた中村八段はこの勝利を浮上のきっかけにできるか

水留 啓(将棋情報局)