8月19~20日、千葉・ZOZOマリンスタジアム&幕張メッセ、大阪・舞洲SONIC PARK(舞洲スポーツアイランド)にて、日本最大級の都市型音楽フェスティバル「SUMMER SONIC 2023」が開催された。
幕張メッセでは、音楽ストリーミングサービス・Spotifyとのコラボレーションステージ「Spotify RADAR: Early Noise Stage」が実現。Spotifyが注目する次世代アーティストのサポートプログラム「RADAR: Early Noise」にこれまで選出されたアーティストに加えて、現在世界的なバイラルヒットを生み出しているimase、新しい学校のリーダーズなど、計15組(オープニングアクト含む)が登場した。本稿では、その中から特に筆者が注目する5組をピックアップする。
■先鋭的なサウンドメイクに美しさが宿るBialystocks
まずは、Bialystocks。映画監督として最近では菅田将暉「ユアーズ」のミュージックを手がけたことも話題のボーカル・甫木元空と、ジャズピアニストとしても活躍する菊池剛による2人組バンド。筆者は約2年前に「光のあと」でBialystocksと出会い、先鋭的なサウンドメイクに心地のいい美しさが宿ったその音楽に一瞬で心掴まれた。そして昨年、Official髭男dismらと同レーベルのPONY CANYON / IRORI Recordsよりメジャーデビュー。
「Spotify RADAR: Early Noise Stage」では、サポートミュージシャンに鶴田伸雅(ギター)、Yuki Atori(ベース)、小山田和正(ドラム)を迎えた編成で、それぞれの複雑なフレーズやコーラスを複層的に構築した演奏で会場に集まった人たちを踊らせた。さらに甫木元の歌も大きな魅力。ハイトーンを響かせる「灯台」を歌い終えると、「(歌が)うますぎ」と漏れる声が周りから聞こえてくるほど。オルタナティブなメロディやコーラスワークの中にAORやフォークも感じさせるその歌は、上質さの中に懐かしさも滲む。Bialystocksのライブは、一度でも目撃すると誰もがその確かな才能に驚く。
■演奏後に鈴木真海子が思わず「かっこいい」
2組目は、Skaai。アメリカ・バージニア州にて生まれて、学生時代を様々な国で過ごした経験を持つ。九州大学大学院に進学し研究者を目指していたものの、ラッパーの道へ転身。日本語、英語、韓国語を交えたリリックにはインテリジェンスな鋭さとユーモアが入り混じり、ラップのフロウや歌い方のバリエーションも豊富で曲をリリースするたびに新たな一面を見せている。yonawo、鈴木真海子(chelmico)、Skaaiによる「tokyo」がロングヒット中であり、「SUMMER SONIC 2023」ではその3組によるコラボステージが繰り広げられた。
yonawoの演奏に乗せて各アーティストの楽曲が1曲ずつ歌われる中で、ジャケットのセットアップで登場したSkaaiは「FLOOR IS MINE」を披露。演奏後に鈴木が思わず「かっこいい」とこぼすほどのパフォーマンス。さらに井上陽水・安全地帯「夏の終りのハーモニー」を3組でカバーし、Skaaiはラップスキルだけでなく深みのある歌唱力も備えていることを見せつけた。ヒップホップマナーに則ったセンスと実力を持ちながら、既存のヒップホップカルチャーにおさまらない存在感を出しているのがSkaaiだ。
■オープニングアクトに抜擢されたカラコルムの山々
3組目は、「出れんの!?サマソニ!?」の最終選考を通過し、20日のオープニングアクトとして登場したカラコルムの山々。今年「FUJI ROCK FESTIVAL'23」にて新人アーティストの登竜門ステージ「ROOKIE A GO-GO」に出演した際、無名であるにもかかわらず、そのライブのクオリティが話題となった。そのステージを見逃していた筆者は、「SUMMER SONIC 2023」で楽しみにしていた国内アクトのひとつがカラコルムの山々だった。
2021年の夏に活動開始したこの「4人組シネマチック・ロックバンド」は、クラシック、ジャズ、フュージョン、ヒップホップ、プログレなどをルーツに感じさせるサウンドで、まるで1本の映画のように次々と場面が移り変わる流れを音で描く。サングラスをかけたテクノ的風貌でステージに現れた4人だったが、演奏を繰り広げていく中では4人の知的さと努力の深さがどうしたって滲み出る。「大仏ビーム」では語りが入り、「第三の目から大仏ビーム」と叫び、変拍子のループでグルーヴの渦に巻き込んでいく。紅一点であるぐらのストイックなドラムのプレイスタイルがまた魅力的で、一つひとつの気持ちいい打音に終始惹きつけられる。まだ世に出ている情報が少なく、インタビュアーとしては気になる部分が非常に多いバンドだ。この異端なバンドが日本の音楽シーンに入り込んで塗り替えていくことにも期待をしてしまう。
■唯一無二の歌唱力と独自の世界観を持つao
4組目は、ao。2021年9月、中学3年生でメジャーデビューを果たしたシンガーソングライター。4歳からピアノを学んでいたaoは、小学生の頃にK-POPアーティストによるカバー動画と出会ったことから洋楽にのめり込み、特にグレース・ヴァンダーウォールに衝撃を受けて音楽活動をスタート。メロディを紡ぐ際は「エセ英語みたいな歌詞とメロディが一緒に出てくる」(筆者が担当したオフィシャルインタビューより)というaoの歌には、USのポップスやカントリーの女性シンガーソングライターの系譜を感じることも多い。
「SUMMER SONIC 2023」のステージには、白いワンピースとシルバーのヘアアクセを身につけて、ちょっぴり神秘的な雰囲気をまとって登場。そこから彼女の多面的な表情を30分に詰め込んだ。藤井 風のプロデュースも手がけるYaffleがサウンドプロデュースを務めた「チェンジ」からスタートし、リリースしたばかりの「ENCORE」ではピアノと歌のミニマルな編成から壮大な音を作り出したかと思えば、EDM調の「4ever」でオーディエンスを飛び跳ねさせる。各曲で異なる世界観を描き上げる表現力を発揮する一方で、MCでは「私、今高校2年生で、夏休みフェスでここに来ました」と等身大の姿を見せる。最近ではRADWIMPSの「KANASHIBARI」にゲストボーカルとして招かれたaoだが、自身の「声」という筆で空間に唯一無二の色を塗ることのできるその歌唱力はこれからもさまざまな場に求められるだろう。
■様々な声を操るラップが魅力のLANA
そして5組目は、LANA。フラれて落ち込んでいたときに実兄であるラッパー・LEXから歌うことを勧められて、この日も披露した「HATE ME」をSoundCloudに乗せたことがきっかけで2020年に音楽活動をスタート。最近はAwich、NENE、MaRI(リミックスバージョンではAI、ゆりやんレトリィバァも参加)と発表した「Bad Bitch 美学」も大きな話題となっている。ヒップホップとR&Bをベースにしたメロディセンス、トレンドを汲み取ったトラック、そしてキュートな声とハスキーな声やがなり声までを操るラップが魅力。
「TURN IT UP (feat. Candee & ZOT on the WAVE)」はTikTokにて楽曲を使用したUGC動画が7万7,000本を超えるほど、SNS発のヒット曲となっており、この日も「わかるよね? 歌えるよね?」と声をかけて歌い始めると大いに盛り上がる。さらに「BASH BASH feat. JP THE WAVY & Awich」も「TikTokでバズり始めてる曲」とこの日自身で発言するほど現在SNSで広がりを見せている最中で、ティーンやギャルたちにとってのカリスマ性をどんどんと強めている。ガールズエンパワーメントを掲げるフィーメルラッパーとして、Awichが切り拓いた道を自身の手法とヒューマンパワーで深めていくであろう存在だ。
■あいみょん・髭男・King Gnuらを選出してきた「Early Noise」
2017年にスタートした「Early Noise」(現「RADAR: Early Noise」)には、これまであいみょん、Official髭男dism、King Gnu、Vaundy、藤井 風などが選出されてきた。また今年の「SUMMER SONIC」は、日本を含むアジアの音楽の文脈や現在の盛り上がりを、欧米のアーティストたちの歴史や活躍とクロスオーバーさせるようなラインナップでもあった。本稿で紹介した5組が国内外でさらなる飛躍を遂げる日は、きっと近い。