2023年7月18日に発売がスタートしたNVIDIA「GeForce RTX 4060 Ti」のビデオメモリ16GB版。8GB版は同年5月24日からスタートしていたが、ビデオメモリ倍増バージョンが新たに登場したことになる。ここでは、ASUSTeKの「ROG Strix GeForce RTX 4060 Ti OC Edition 16GB GDDR6」を使って、8GB版との性能差をチェックしてみよう。
高OC&高冷却で性能を追求したRTX 4060 Ti(16GB版)カード
ASUSTeKの「ROG Strix GeForce RTX 4060 Ti OC Edition 16GB GDDR6」は、ビデオメモリ16GB版のRTX 4060 Tiを搭載するビデオカードだ。同社は、コストパフォーマンスに優れる“Dual”、耐久性を重視する“TUF”など複数のビデオカードシリーズを展開しているが、“ROG Strix”はGPUの性能を最大限引き出すように設計されたフラグシップモデルだ。
まずは、RTX 4060 Tiのスペックを確認しておこう。8GB版と16GB版はビデオメモリの容量以外はほぼ同スペックだ。4,352基のCUDAコア、2,535MHzのブーストクロック、128bitのメモリバス幅となっている。カード電力はメモリの容量が多いためか、16GB版だけ5W増えて165Wだ。NVIDIAでは、“フルHDで高フレームレートを出せるGPU”と位置付けている。
GPU名 | RTX 4060 Ti(8GB) | RTX 4060 Ti(16GB) |
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CUDAコア数 | 4,352 | |
ベースクロック | 2310MHz | |
ブーストクロック | 2535MHz | |
メモリサイズ | GDDR6 8GB | GDDR6 16GB |
メモリバス幅 | 128bit | |
L2キャッシュ | 32MB | |
RTコア | 第3世代 | |
Tensorコア | 第4世代 | |
アーキテクチャ | Ada Lovelace | |
DLSS | 3 | |
NVENC | 第8世代 | |
カード電力 | 160W | 165W |
電源コネクタ | 8ピン×1または12VHPWR×1 |
「ROG Strix GeForce RTX 4060 Ti OC Edition 16GB GDDR6」は、ブーストクロックが2,715MHzと定格よりも180MHzアップさせたファクトリーOCモデルだ。アプリの「GPU Tweak III」でOCモードに変更することで、2,745MHzまで向上させられる。
カード長は311.4mmとRTX 4060 Tiとしては非常に大きい。厚みも3.1スロット分と取り付けには実質4スロット分が必要と、手持ちのPCケースに装着できるかは事前に確認しておきたい。大型サイズだけに、3連ファン、基板のサイズを超える巨大ヒートシンク、通気性のよいカバーと冷却システムは強力だ。
8GB版との比較では、AI画像生成では驚きの速度差に
ここからはベンチマークに移ろう。比較対象として、ビデオメモリ8GB版となるNVIDIA GeForce RTX 4060 Ti Founders Editionを用意した。Resizable BARは有効にし、ドライバはGame Ready 536.99を使用している。また、今回はNVIDIAのビデオカード単体の消費電力を正確に測定するキット「PCAT」(Power Capture Analysis Tool)も導入した。
テスト環境は以下のとおり。
【検証環境】 | |
CPU | Intel Core i9-13900K(24コア32スレッド) |
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マザーボード | MSI MPG Z790 CARBON WIFI(Intel Z790) |
メモリ | Micron Crucial DDR5 Pro CP2K16G56C46U5(PC5-44800 DDR5 SDRAM 16GB×2) |
システムSSD | Western Digital WD_BLACK SN850 NVMe WDS200T1X0E(PCI Express 4.0 x4、2TB) |
CPUクーラー | Corsair iCUE H150i RGB PRO XT(簡易水冷、36cmクラス) |
電源 | Super Flower LEADEX V G130X 1000W(1,000W、80PLUS Gold) |
OS | Windows 11 Pro(22H2) |
定番3Dベンチマークの「3DMark」からチェックしよう。ROG Strix GeForce RTX 4060 Ti OC Edition 16GB GDDR6は、アプリの「GPU Tweak III」を使うことでモード(ブーストクロック)をデフォルト(2,715MHz)、OCモード(2,745MHz)、Silentモード(2,685MHz)から選べる。3DMarkだけは、モード別の結果も掲載する。そのほかのテストはすべてデフォルト設定で測定した。
GeForce RTX 4060 Ti Founders EditionとCUDAコア数は同じだが、ROG Strix GeForce RTX 4060 Ti OC Edition 16GB GDDR6はファクトリーOCモデルということもあり、Silentモードでもブーストクロックは上。それがスコア差に表れていると言ってよいだろう。
続いて、人気FPSの「レインボーシックス シージ」と「Apex Legends」を試す。レインボーシックス シージはゲーム内のベンチマーク機能を実行、Apex Legendsはトレーニングモードで一定コースを移動した際のフレームレートをそれぞれ「FrameView」で測定している。
フレームレートはROG Strix GeForce RTX 4060 Ti OC Edition 16GB GDDR6のほうが若干上だ。ビデオメモリ量というよりはブーストクロックの高さが効いていると言ってよいだろう。このテストでは、レインボーシックス シージの4K解像度以外は、ビデオメモリの使用量は8GBに達していないためだ。
その一方で消費電力はROG Strix GeForce RTX 4060 Ti OC Edition 16GB GDDR6のほうが10~20Wほど大きくなる。ビデオメモリ量が多いのとブーストクロックが高いためだろう。
続いて、人気格闘ゲームの「ストリートファイター6」を実行する。CPU同士の対戦を実行した際のフレームレートを「FrameView」で測定している。
ストリートファイター6は最大120fpsまで設定可能だが、対戦時は最大60fpsまで。4Kの最高画質設定でもほぼ平均60fpsに到達できている。最大60fpsなので描画負荷が軽く、WQHDまでの消費電力は非常に小さい点に注目したい。ただ、ここでもROG Strix GeForce RTX 4060 Ti OC Edition 16GB GDDR6のほうが大きい。
続いては、レイトレーシングと描画負荷軽減技術の「DLSS 3」の両方に対応するゲームでテストしよう。ここでは、「ホグワーツ・レガシー」、「サイバーパンク2077」を用意した。サイバーパンク2077はゲーム内のベンチマーク機能を実行したときのフレームレートを、ホグワーツ・レガシーは寮内の一定コースを移動した際のフレームレートをそれぞれ「FrameView」で測定している
ホグワーツ・レガシーは、フルHDでもビデオメモリの使用量が8.84GBにも達するが、フレームレートへの影響は大きくなく、両GPUの差はほとんどない。その一方でサイバーパンク2077は、WQHDまではほとんど変わらないが、4Kだと明らかにROG Strix GeForce RTX 4060 Ti OC Edition 16GB GDDR6のほうが上だ。このときのビデオメモリ使用量は10.62GB。このゲームに関してはビデオメモリ使用量の差がフレームレートに影響しているようだ。
また、消費電力に関してはここでもROG Strix GeForce RTX 4060 Ti OC Edition 16GB GDDR6のほうが大きくなっている。
なお、今回試したゲームのフレームレート測定時の解像度別ビデオメモリ使用量もまとめた。すべてROG Strix GeForce RTX 4060 Ti OC Edition 16GB GDDR6使用時のものだ。測定時の最大使用量なので、ゲームの状況によっては変化する。参考程度として見てほしい。
ホグワーツ・レガシー、サイバーパンク2077と重量級ゲームのビデオメモリ使用量が多いのが分かる。ビデオメモリ8GBあれば安心という時代は終わりつつあると言えるが、大容量のビデオメモリがあれば、必ずしもフレームレートが伸びるわけではない。基本的にはCUDAコア数の影響のほうがはるかに大きいのだ。
次に、AI処理も試しておこう。まずは、Stability AIが2023年7月27日に公開した画像生成AIモデル「Stable Diffusion XL 1.0(SDXL 1.0)」を実行する。ここではStable Diffusion web UIを使用し、Sampling Methodに「DPM++ SDE Karass」を選択、「Base」モデルで生成を実行。起動パラメータには「--xformers --no-half-vae」を追加している。
画像生成にはビデオメモリ量が重要と言われるが、それが非常によく分かる結果だ。512×512ドットでは、ビデオメモリが8GBのGeForce RTX 4060 Ti Founders Editionでは16GBのROG Strix GeForce RTX 4060 Ti OC Edition 16GB GDDR6より約14倍も生成に時間がかかっている。768×768ドットでは約22倍だ。SDXL 1.0で画像生成を高速に行いたいなら、16GB版を選ぶべきだろう。
もう一つ「Procyon AI Inference Benchmark for Windows」を実行する。これは、MobileNet V3、Inception V4、YOLO V3、DeepLab V3、Real-ESRGAN、ResNet 50と複数の推論エンジンを使ってAIの総合的なパフォーマンスを測定できるベンチマークだ。ここでは、NVIDIA TensorRTのFlost32に設定してテストしている。
こちらはほどんど変わらない結果だ。ビデオメモリ量が多ければ、なんでもAI処理が強くなるわけではない点は覚えておきたい。
高負荷時でも60℃以下と強力な冷却システム
最後に、GPUクロック、GPU温度、ファン回転数の推移を見よう。ROG Strix GeForce RTX 4060 Ti OC Edition 16GB GDDR6には、カードの上部にパフォーマンス優先のPモードと静音性重視のQモードの切り替えスイッチがあるので、ここではその両方をチェックした。
テストの方法だが、サイバーパンク2077を10分間プレイした際の推移をモニタリングアプリの「HWiNFO Pro」で追っている。GPUクロックは「GPU Clock」、GPU温度は「GPU Temperature」、ファン回転数は「GPU Fan1」の値だ。バラック状態で動作させている。室温は26℃だ。
どちらのモードでも温度は常に60℃以下で推移と強烈に冷えている。さすが大型ヒートシンクと3連ファンだ。ブーストクロックも2,750MHzで推移。どちらもあまり変わらない。ファンの回転数は静音重視のQモードのほうが低くなるかと思ったら、若干高めという結果だった。サイバーパンク2077をプレイする限りでは、どちらもモードを選んでもよいという結論に達した。なお、動作音はどちらのモードでも非常に静かだった。
高クロック動作、高冷却で静音性も高いとハイレベルにまとまったビデオカード。ただし、実売価格は97,000円前後と一つ上位のRTX 4070に手が届く。AI画像生成に強い16GBというビデオメモリ量に魅力を感じるかどうかが判断の分かれ目になるだろう。