ソフトバンクは8月22日、同社のサブブランド「ワイモバイル」の新料金プラン「シンプル2 S/M/L」を発表しました。この発表に合わせ、同社では新プランの説明会も開催。ユーザーのデータ通信利用が増加傾向にあること、ユーザーがデータ通信の上限に合わせて利用を我慢していると思われる状況といった、新プランの背景・狙い・ポイントなどが語られました。

  • 寺尾洋幸氏

    説明に登壇したソフトバンク 専務執行役員の寺尾洋幸氏

データ通信ニーズの増加を背景とした新料金プラン

説明にあたったのはソフトバンク 専務執行役員の寺尾洋幸氏。寺尾氏はまず、ワイモバイルおよびソフトバンクの現状を紹介します。

ソフトバンクでは、「選ばれるキャリアになる」という目標を掲げ、同社の3ブランド(ソフトバンク/ワイモバイル/LINEMO)において、利用者がそのサービスをどれだけ家族・友人に勧めたいかの指標であるNPS(Net Promotor Score)にこだわった運営を行っているといいます。ユーザーの声を毎月約50万件収集して対応することで、約3,400万件の改善を実施。前述のNPSは着実に上昇してユーザー満足度も向上しており、2022年度のJ.D.パワーの顧客満足度調査では携帯電話サービスのバリューキャリア部門でナンバーワンを獲得するといった結果につながっています。

  • 毎月約50万件のユーザーの声

    毎月約50万件のユーザーの声を収集

  • 約3,400件の改善

    ユーザーの声に基づいて約3,400件の改善を行い、NPSは着実に上昇

  • J.D.パワー顧客満足度調査でナンバーワンを獲得

    2022年のJ.D.パワー顧客満足度調査では、携帯電話サービス/バリューキャリア部門でナンバーワンを獲得

ユーザー数も着実に増えて格安スマホ市場を牽引する存在になったというワイモバイルですが、ユーザーから選択されるポイントとして寺尾氏は「おトクな料金」「安心サポート」「Yahoo!シナジー」の3つを挙げます。このうち、「おトクな料金」という点については、低料金でユーザーの負担を抑えているというだけでなく、「シンプル S/M/L」の3プラン構成でわかりやすいという点も重要だといいます。

  • ワイモバイルが選ばれる3つの理由

    ワイモバイルが選ばれる理由として「おトクな料金」「安心サポート」「Yahoo!シナジー」の3つを挙げます

その選択のポイントのひとつとなっているという料金プランを見直すのが、今回の「シンプル2 S/M/L」の投入となります。その背景にあるのは、この数年、アフターコロナ/5Gの普及/テクノロジーの進化といった生活様式の変化によるニーズの多様化と、それを受けてのデータ利用ニーズの増加。ワイモバイルのユーザーのデータ通信利用量は2020年度から2023年度で倍以上になっているそうで、現行「シンプル S」の月間3GBという容量に収まらないユーザーが増えてきているそうです。

  • 生活様式の変化によるニーズの多様化

    アフターコロナ/5Gの普及/テクノロジーの進化といった生活様式の変化によるニーズの多様化

  • データ利用量の増加

    データ利用量は年々増加し、2023年度は202年度の倍に

「シンプル S/M/L」では各プランの基本データ通信量を増量する「データ増量オプション」を提供していますが、データ増量オプションに加入すると確実にデータ通信量が増えるという実情があり、これもユーザーが容量上限を考慮してデータ通信を控えていることのあらわれだとみています。

新料金プランは本当に「料金(ほぼ)据え置きの容量アップ」なのか

こういった背景から、今回発表された「シンプル2」の料金体系は、現行の3GB/15GB/20GBという区切りから、4GB/20GB/30GBとデータ容量上限を引き上げました。そして各種割引を適用した際のS/M/L各プランの月額料金を現行プランと“概ね同水準”とし、「現在の負担とほぼ変わらない料金で、これまでより多いデータ通信を利用できる」というのをプランの狙いとしています。S/M/Lの3段階を維持しているのはこれまで同様にわかりやすさを保つためとのことです。

  • 「シンプル2」の概要

    「シンプル2」の概要。4GB/20GB/30GBの3段階となります

4GB/20GB/30GBという区切りについても、店頭での顧客説明におけるわかりやすさのために区切りのよい数字にしているという面もあるといいます。Lプランの30GBという設定には、各社のサブブランド/MVNOが容量20GBのプランで競い合っている現状から外れているのでは、という質問もありましたが、これはまずMプランを15GBから20GBに増量するという方針があり、それとはっきり差をつけるという意図があるそうです。また、もともと「シンプル L」は他と比較して料金を低く設定したところがあり、今回のプラン改定ではそのバランスをとることも考慮しているとか。ワイモバイルで主力となるのはS/Mの両プランで、中でもSプランからMプランへの移行が進んでほしいという考えでいるそうです。

  • 「シンプル2」の料金の詳細

    「シンプル2」の料金の詳細

なお、先ほど月額料金が現行プランと“概ね同水準”であると書きましたが、ここを少し詳しくみていきましょう。先の表では「シンプル2」では各プランの実質負担が月額「980円」「1,980円」「2,980円」と記載されていましたが、これは消費税抜きで各種割引適用後の金額。単純に税込の基本使用料を現行の「シンプル」と比較すると下表のようになります。

プラン シンプル(現行) シンプル2(10月以降) 値上げ率
S 3GB/2,178円 4GB/2,365円 8.6%
M 15GB/3,278円 20GB/4,015円 22.5%
L 25GB/4,158円 30GB/5,115円 23.0%

これだけ見ると、Sプランはともかく、M/Lプランはそれなりの値上がり幅のように思えます。とくにLプランはデータ通信量が20%増で基本使用料が23.0%のアップ。このあたりが先述のLとS/Mのバランスをとった結果なのでしょうか。

これに対し、それぞれにSoftBank Air加入者に対する「おうち割 光セット(A)」を適用し、さらに「シンプル2」には新たに設定される「PayPayカード割」を適用した場合の負担額は次のようになります。

プラン シンプル(現行) シンプル2(10月以降) 値上げ率
S 3GB/990円 4GB/1,078円 8.9%
M 15GB/2,090円 20GB/2,178円 4.2%
L 25GB/2,970円 30GB/3,278円 10.4%

こちらではM/Lプランの値上げ率はだいぶ抑えられており、ソフトバンクの言うように「現行プランと概ね同水準」の範囲かという感があります。この違いが出るのは、SプランとM/Lプランで「おうち割 光セット(A)」の値引き額にに500円の差をつけているため。また、「PayPayカード割」は、年会費無料で加入できるPayPayカードを支払方法として指定するだけで適用される割引で、とくに負担が生じるわけではないことから、基本料金にPayPayカード割を適用したものが実質的な基本料金と考えている――と寺尾氏は説明していました。

  • 「おうち割 光セット(A)」と「PayPayカード割」

    「おうち割 光セット(A)」と「PayPayカード割」

いずれにしても「おうち割 光セット(A)」「PayPayカード割」はPayPay/ソフトバンク/Yahoo!の経済圏への囲い込みを受け入れることにより、ワイモバイルの通信サービスをリーズナブルに利用できるようになるというものです。それが許容できるかどうかによって、新プランへの受け止めは変わるでしょう。10月にはLINEとYahoo!の統合が行われることもあり、その時点ではさらなるシナジー向上を図っていきたいと寺尾氏は語っていました。

  • 「シンプル2 M」に加入して「おうち割 光セット(A)」「PayPayカード割」の適用を受ける場合、通信量当たりの単価は22%減

    「シンプル2 M」に加入して「おうち割 光セット(A)」「PayPayカード割」の適用を受ける場合、通信量当たりの単価は22%減となります。PayPay/ソフトバンク/Yahoo!のシナジーを最大に活用できるなら、おトクな改定でああります

大幅容量超過ユーザーに対する2段階目の速度制限を実施

寺尾氏によれば新料金プランのコンセプトは「もっとおトク!」「もっと便利!」「もっと充実!」というもの。このうち「もっとおトク!」はここまで見てきた内容でカバーされる部分ですが、これ以外にも新プランではさまざまな変更が行われています。

  • 新料金のコンセプト

    新料金のコンセプト

「シンプル2 M/L」では、月間のデータ通信利用が1GB以下の場合は自動で料金を割引し、「シンプル2 S」相当の利用料金となります。これはあまりデータ通信を利用しない月もあるのではないかということで設定されている割引ですが、20GB/30GBのプランで利用量が1GB以下というのはかなり限られたケースでしょう。サブ回線として利用するのであれば1GB以下におさまることもあるでしょうが、それならば最初から「シンプル2 S」を選択して4GBまで利用できるようにしておけばよい話。いまひとつ使われどころが見えづらい割引のように思えます。

  • 月間利用料が1GB以下の月は自動で割引

    月間利用料が1GB以下の月は自動で割引し、「シンプル2 S」相当の金額になる

また、加入プランを変更してデータ通信量を増やす場合、通常は申し込み翌月から新プランの通信量が適用されるものですが、「シンプル2」では「プラン変更先取りプログラム」により、申し込み当月から変更後のプランに相当するデータ通信量を利用することができます。もちろんプラン変更の差額の負担は生じますが、変更前のプランで追加データを買い増しするよりもおトク。この機能は「シンプル2 S/M/L」の提供開始時点では利用できず、2023年1月ごろの導入を予定しているそうです。

  • プラン変更先取りプログラム

    プラン変更先取りプログラム

余ったデータのくりこしは、これまで同様に利用できます。くりこせる金額の上限は翌月の加入プランのデータ容量で、くりこせるのは翌月までです。

  • データくりこし

    データくりこしはこれまで同様

また、ひとつの回線契約を複数のデバイスで共有できるシェアプランも提供されます。これまで追加SIMの発行が1枚980円だったところ、「シンプル2 S/M/L」では490円となり、おトクにデバイスを追加できます。データ増量オプションも従来どおり提供します。

通話定額オプションも改定され、10分以内の国内通話かけ放題の「だれとでも定額+」(月額880円)と通話時間の制約がない「スーパーだれとでも定額+」(月額1,980円)の2本立てになります。「シンプル S/M/L」お「だれとでも定額」「スーパーだれとでも定額(S)」の月額770円/1,870円よりも費用は上がっていますが、新プランでは留守番電話/割り込み通話/グループ通話/一定額ストップのサービスが含まれるという利点があります。

  • 通話定額オプション

    通話定額オプション

そしてもうひとつの大事なポイントが、データ容量超過時の速度制限の運用の変更。「シンプル2 S/M/L」では、速度制限が2段階制となり、所定のデータ容量の1.5倍までは、現行プランと同じ速度制限(「シンプル2 S」では300kbps、「シンプル2 M/L」では1Mbps)が課されますが、所定のデータ容量の1.5倍を超えるとさらに厳しい2段階目の速度制限(128kbps)が課されるようになります。

この2段階の速度制限により、データ容量の超過後に低速でずっと使い続けるということができなくなります。寺尾氏によれば、2段階目の速度制限が適用されるユーザーは全体の2%程度で、その2%前後のユーザーが全体のデータ通信の7~8%を占めているとのこと。現時点で2段階制の導入で通信抑制に大きなインパクトを見込んでいるわけではないそうですが、上位プランへの移行を促進するという狙いもあってこの仕組みの導入を決めたそうです。

  • データ容量超過時の速度制限は2段階化

    データ容量超過時の速度制限は2段階化。所定のデータ容量の1.5倍を超えると、2段階目の速度制限として通信速度上限が128kbpsになります

寺尾氏は最後に、ソフトバンクの3つのブランドそれぞれに特性を分け、「顧客が何を選んでいいかわからないということのないようにしたい」と語りました。説明会では今回の新プランはデータ通信ニーズの増加に対応するものだということが強調されていましたが、PayPay/ソフトバンク/Yahoo!の経済圏への誘導も強まっているように感じられます。シナジーの拡大そのものは喜ぶべきことですが、それが必要以上の囲い込みにつながらないことを願いたいところです。

  • マルチブランド戦略

    ソフトバンクは展開する3ブランドで多様なユーザーニーズに応えるとしています