マネ―スクエアのチーフエコノミスト西田明弘氏が、投資についてお話しします。今回は、米国のジャクソンホール会議について解説していただきます。
8月24-26日の日程で、米国でジャクソンホール会議が開催されます。世界中から中央銀行関係者、エコノミスト、金融市場関係者が参加して、金融政策の中長期の課題について様々な議論を行います。金融政策に関して重要なメッセージが出されたり、談話の中で新しいヒントが示されたりするため、金融市場は大いに注目しています。今年のテーマは「グローバル経済における構造シフト」。
ジャクソンホール会議とは
米国の中央銀行にあたるFRB(連邦準備制度理事会)はワシントンDCに本部があります。そして、全米を12の地区に分けて、それぞれをFRB傘下の連邦準備銀行(地区連銀)が管轄しています。その一つであるカンザスシティ連銀が78年から毎年8月末にシンポジウムを開催しており、それがジャクソンホール会議です。正式名称は「Jackson Hole Economic Policy Symposium」。82年からはワイオミング州ジャクソンホールで開催されています。
ジャクソンホール会議がメジャーになったのは、82年から歴代FRB議長が参加するようになってからです。当時、ボルカー議長をワシントンから遠く中西部(カンザスシティ連銀が管轄する第10地区)まで引っ張り出すために、議長の大好きな渓流釣りが満喫できるジャクソンホール(下図中の黄色★)が開催地に選ばれたと言われています。
昨年はパウエル議長が利上げ継続を明言
近年を振り返っても、ジャクソンホール会議でその後の金融政策に関するヒントが出されたケースが多くあります。
昨年は、3月に始まったFRBの利上げペースが弱まるとの観測が浮上するなか、パウエル議長はこれを強く否定し、インフレ抑制をやり遂げるまで利上げを継続すると明言しました。市場が議長の意図を取り違えないように、議長は短く明確に伝えるために直前に原稿を書き直したとされています。実際、ジャクソンホール会議の直前2回のFOMC(連邦公開市場委員会)では0.75%の大幅利上げが実施され、直後の2回でも同じく0.75%の利上げが実施されました。
現在、金融市場では、FRBが7月の利上げで打ち止めとし、来年前半中にも利下げに転じるとの見方が有力になりつつあります。それに異議を唱えるなら、パウエル議長は昨年のように強いメッセージを発信するかもしれません。パウエル議長の講演は日本時間25日午後11時05分に開始されます。
米国以外の中央銀行からもメッセージ
ジャクソンホール会議では、米国以外の中央銀行関係者も講演やワークショップ、メディアインタビューなどで自らの金融政策に触れることがあります。
昨年は、ECB(欧州中央銀行)のシュナーベル理事が「インフレ期待が定着する可能性とコストは不快なほど高い」と述べ、「断固として対応する必要がある」と決意を表明しました。また、ECBメンバーでもあるオランダ中央銀行のクノット総裁も「インフレ率が2%近辺で安定するまで、6週間ごと(=理事会ごと)に利上げを決定することが我々の責務だ」と述べました。
一方で、日本銀行の黒田総裁は、日本の経済情勢は欧米とは異なると説明、賃金と物価が安定的かつ持続可能な形で上昇するまで、金融緩和を続ける以外の選択肢はないと明言しました。