第49期棋王戦コナミグループ杯(共同通信社と観戦記掲載の21新聞社、日本将棋連盟主催)は、挑戦者決定トーナメント3回戦の郷田真隆九段―伊藤匠七段戦が8月22日(火)に東京・将棋会館で行われました。対局の結果、83手で勝利を収めた伊藤七段が次回戦進出を決めました。
大豪と新鋭の初手合い
本トーナメントは予選を勝ち抜いた32名が藤井聡太棋王への挑戦権を争うもの。郷田九段はここまで丸山忠久九段と石田直裕五段に勝っての登場、伊藤七段はシードで本局からの対局です。両者の初手合いとなった本局は、振り駒で先手となった伊藤七段が横歩取り青野流に誘導して幕を開けました。対する郷田九段は2筋に歩を打つ穏便策で応じます。
定跡を離れた空中戦を前にしてともに小刻みに時間を使う展開が続きます。第二次駒組みのすえ局面は相掛かりの持久戦型に合流し、どちらが局面を打開するかが焦点となっています。時計の針が17時を回ったころ、先手の仕掛けの雰囲気を察知した郷田九段が盤面左方三段目に玉を移動させたのをきっかけとしてようやく局面は動きを見せ始めます。
伊藤七段の「魔術の歩」
じっと手を渡された局面で、先手の伊藤七段は奇妙な一手を用意していました。なにもない空中に8筋の歩をふんわりと突き出したのがそれ。この歩は後手の飛と桂が取れる位置にありますが、飛で取った場合は王手金取りの角打ちが、桂で取った場合は「桂の高跳び歩の餌食」の格言通りの歩打ちが生じるため後手はこれを取ることができません。
「魔術の歩」ともいえる伊藤七段の妙手を受けた郷田九段は自玉を中住まいの定位置に戻して妥協しますが、ここから伊藤七段の猛攻が始まりました。左辺の端攻めを起点に7筋に馬を作ったのが息もつかせぬ連携で、ここまで進んでみると先に突いておいた8筋の歩が後手陣を制する急所のと金の種になっていることがわかります。
終局時刻は18時31分、伊藤七段の歩がと金になったところから数えてわずか2手後の局面で、攻防ともに見込みなしと認めた郷田九段が投了。居飛車党本格派同士の初手合いは勢いに乗る新鋭の制するところとなりました。勝った伊藤七段は次回戦で糸谷哲郎八段-佐々木勇気八段戦の勝者と顔を合わせます。
水留 啓(将棋情報局)