APS-Cフォーマットのみでラインナップを構築する富士フイルムのXシリーズ。その写りは、フルサイズフォーマットに対し一歩も引けを取らず、むしろ卓越した絵づくり機能「フィルムシミュレーション」の採用などで独自のポジションを確立しています。新しい「X-S20」も例外ではなく、Xシリーズらしいミラーレスに仕上がっています。今回のレビューでは、実際にその写りをチェックしてみましょう。
被写体検出AFの認識精度は上々
スペックは前回の機能編で詳しくまとめていますが、軽くおさらいしてみたいと思います。X-S20は先代「X-S10」の後継モデル。代替りするにあたり、内外とも大胆に手の入ったところは少なく、マイナーチェンジに近いものと考えてよいかもしれません。新旧二台を並べると、モデル名がボディに記されていなければ見分けがつかないほどですが、フル充電からの撮影可能枚数は750枚と倍以上に増えています(ノーマルモード時)。
撮影モードダイヤルに目を移すと、目新しいモードとして「Vlogモード」があります。これはセルフィー撮影に適した動画設定のモードで、自分の顔の前に商品などを持ってくるようなシーンでは顔から手前にあるアイテムへ自然にフォーカスが切り替わる機能や、背景を積極的にぼかす機能など搭載され、Vloger要注目のモードといえます。新たな別売アクセサリーとして、三脚グリップ「TG-BT1」を用意。手持ち動画撮影時のホールド性が向上するとともに、BluetoothによりX-S20との連携はケーブル接続が不要です。液晶モニターは先代モデルと同じくバリアングルタイプで、静止画、動画関わらず自撮りのときに便利です。現在、富士フイルムにはVlogカメラと呼ばれるものが存在しませんが、本モデルがその役を担うと考えてよいものです。
キーデバイスであるイメージセンサーは、裏面照射型の有効2610万画素「X-Trans CMOS 4」。これは先代X-S10と同じです。センサーシフト方式の手ブレ補正機構の進化は見逃せない部分。補正段数がこれまでの最大6段から最大7段にアップしました。
画像処理エンジンは、「X-Processor 4」からよりパワーのある「X-Processor 5」になりました。最高コマ速は8コマ/秒(メカシャッター時)とこれまでと変わりませんが、AFは飛躍的に向上しています。注目の改良点といえば、被写体検出AF設定機能の搭載。認識精度は極めて高く、AF-Cでの撮影では狙った被写体を確実に捕捉し続け、シャッタータイミングを見逃すことがありません。フィルムシミュレーションには「NOSTALGIC Neg.」を新たに追加し、全部で19種類となりました。
大幅な価格上昇も納得できる描写
注目のX-S20の描写ですが、紛れもなくXシリーズの写りと述べてよいものです。デフォルトのフィルムシミュレーション「PROVIA(スタンダード)」は色乗りがよいうえに、ライバルの絵づくりにくらべきらびやかな印象のあるもの。しかも嘘っぽさのようなものはなく、いわゆる記憶色とは一線を画した自然な彩度の仕上がりが特徴です。階調再現性に優れているのも同シミュレーションの誇るべき部分といえます。X-S20は、いずれもしっかりと継承しており、存分に富士フイルムの絵づくりが味わえます。
高感度特性も不足を感じさせません。常用感度内であればノイズの発生をよく抑えているように思えます。強力な手ブレ補正機構を備えていますが、光量の厳しいシーンや少しでも速いシャッターが切りたいときなど、ためらうことなく感度を上げられます。APS-Cフォーマットでありながら、ライバルはフルサイズと言われるゆえんでもありますが、確かに卓越した絵づくりも含めフルサイズである必要を感じさせないといっても過言ではありません。
手堅い進化を果たしたX-S20。隙のない写り、使いやすさなどから、「X-H2/X-H2S」や「X-T5」などのユーザーであればサブ機として最適ですし、これから富士フイルムのミラーレスを使ってみようと考えるユーザーにも「X-E4」や「X-T30II」などがカタログから消えてしまい、後継機の話が出てこない今現在ベストな選択のカメラであるように思えます。また、動画撮影に重きを置くデジタルユーザーにとっても、Vlogモードの搭載や冷却ファンの装着が可能な点など、見逃せないカメラと述べてよいものです。
このところ、メーカーを問わずミラーレスやデジタル一眼レフの価格が高騰しています。電子部品が手に入らないことなどが理由のようですが、本モデルも先代X-S10に対し大幅な値上がりとなりました。販売開始時のボディ単体価格は、X-S10が12万円前後でしたが、本モデルは20万円前後と目を疑いそうになったほどです。もともと富士フイルムのミラーレスは値ごろ感のあるプライスで展開してきており、それも人気の一因でしたが、X-H2/X-H2S登場のころから方向転換を図っているようです。カメラ事業を末長く安定して展開していくためには致し方ないところですが、修理対応をはじめユーザーサービスに対し、これを機により一層力を入れてもらえればと思わずにはいられません。そんなことも考えてしまうX-S20でした。