こんにちは。弁護士の林 孝匡です。宇宙イチ分かりやすい法律解説を目指しています。

今回は、会社でトンデモないことをやらかして解雇された事件3つを紹介します。

  1. 9000万円の横領を上司がスルー
  2. 仕事中に出会い系サイトでM嬢を探した教師
  3. オンライン会議中にゴルフスイング
  • 「9000万円の横領を上司がスルー」「仕事中にM嬢を捜した教師」とんでもない解雇事件を弁護士が解説

日本の法律だと社員がガチガチに守られているので解雇になるケースは少ないのですが、前述3つは裁判官がさすがに「こりゃ解雇OKです!」と判断しました。

読者の皆さまはそこまで心配する必要はないと思いますが、裁判官がブチギレるレベルをおさえておいてください。

まずは、横領スルー事例から行きましょう(本記事では、判決の本質を損なわないよう一部フランクな会話に変換しています)。

■会社のお金9000万円を横領

部下が会社のお金約9000万円を横領。横領しつづけること10年! それを上司がスルー。会社がブチギレて上司を懲戒解雇しました(おそらく部下も当然に懲戒解雇されていると思います)。

裁判所は「懲戒解雇OKです。あなた気づけたでしょ。部下が横領した金で飲み食いしまくってさぁ」と判断(関西フエルトファブリック事件:大阪地裁 H10.3.23)。

懲戒解雇がOKとなった理由は、次のとおりです。

  • 【表】難しい懲戒解雇がOKになるワケは? 一覧表でチェック!

    部下が9000万円を横領! それをスルーした上司も懲戒解雇に。その理由をわかりやすく解説

・上司が部下の横領を発見することは極めてカンタンだった
・上司は部下のカネづかいの荒さを認識していた
・部下の月給が20万程度なのに、車やバイクのローンを返済したり、飲食、旅行、服、パチンコ、競馬などに金を使っていたことを上司は知っていた
・飲み会代を部下に立て替え払いをさせていた
 →各回 数万円~数十万円。「後日、払おうか」などの精算もせず
・経理をチェックすることなく部下に一任していた
・上司が営業所に来てから横領額が増えている

「上司さん、あなたも完全に共犯でしょ」と認定されたんだと思います。会社のお金着服は金額が少なくても懲戒解雇がOKになる可能性が高いのでご注意を!

■出会い系サイトでメールしまくり

お次は、教師の事件です。彼は仕事中に出会い系サイトでメールをしまくっていました。「(SMの)M嬢を探しています」など、800回ほど。判決文に実際のメールが載っていたので紹介しますね。

【教師が送信したメール】
「M嬢を探しています。経験、年齢は一切問いませんので少しでも興味があればメールください。お互いの感性を知ることが大切ですのでメールからゆっくり始めましょう。感性が合うM嬢と良きパートナーの関係が築けるようにお互いに努力していきたいと思っています。SMに少しでも興味があってマゾっ気の女性であればどなたでもどうぞメール待ってます」

しかもこの教師はメールで自己紹介するときに、本名と勤務先を伝えていました。女性から「学校のパソコンで女性とメールしても大丈夫?」「学校名出して大丈夫?」と心配されるありさま。

地裁は「懲戒解雇はダメ~」と判断していたんですが、高裁でちゃぶ台返し。懲戒解雇OKとなりました(K工業技術専門学校(私用メール)事件:福岡高裁 H17.9.14)。

いや~、高校野球と裁判は最後までどうなるか分かりません。勤務中の私用メールはやめておきましょう。

■懲戒解雇とは?

ここで懲戒解雇の基礎知識を。

懲戒解雇はサラリーマンにとって死刑とも言えるでしょう。退職金が出ない可能性大ですし、再就職が激ムズになるからです。

なので、法律で歯止めをかけています。ザックリいうと「懲戒事由があったとしても、懲戒解雇するのがやりすぎな場合は無効」というものです。

労働契約法15条
使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質および態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする。

この法律があるので、社員に多少の失敗や間違いがあったとしても裁判官が懲戒解雇をOKにするケースは決して多くはありません。ですが、さすがに前述した2例はOKになりました。

■オンライン会議中にゴルフスイング

お次は、オンライン会議中にゴルフスイングをした人が解雇された事件です。

裁判官は「尊大な態度だ」とおかんむりでした。裁判所は協調性のなさも理由に挙げて「解雇OK」と判断(インジェヴィティ・ジャパン合同会社事件:東京地裁 R4.5.13)。

●協調性のなさ
・不要な業務について部下に指示を出し、成果物が不十分であると非難
・共有すべき情報を提供しなかった
・新人から協力の要請を受けたのに機械的な指示だけ
・顧客がアポイントの時間変更を要望したのにスルー
・最大の顧客が「担当を変えてほしい」と要望

ゴルフスイングについて、当該社員は「PCが勝手にアクセスしてカメラのスイッチが入り、偶然にゴルフスイングの場面が映ったにすぎません」と反論したのですが、裁判官は「んなアホな(そのような事態は想定し難い)」と一蹴。

解雇がOKとなりました。ただし、この事件は懲戒解雇ではなく【普通解雇】というものです。

■普通解雇とは?

一般的な解雇です。よくあるのは「チミ、仕事できないからクビね」というものです。

法律では普通解雇にも歯止めがかけられています。ザックリいうと「解雇がやりすぎの場合は無効ね」というものです。

労働契約法16条
解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。

普通解雇がOKになることも少ないのですが、ゴルフスイング社員は裁判官に「こりゃダメだ」と思われたのでしょう。

みなさま、会議中のゴルフスイングは絶対にやめてください(誰もしないだろ)!

■さいごに

今回は解雇がOKになった事件を解説しましたが、安心してください。多少のミスで解雇がOKになることはありません。労働契約法15条・16条が社員を強力に守っているからです。

「チミ、解雇にしちゃうよ〜」と言われている方がいれば労働局に申し入れてみましょう(相談無料・解決依頼も無料)。

労働局からの呼び出しを会社が無視することもあるので、そんな時は社外の労働組合か弁護士に相談しましょう。

今回は以上です。私は働く方に知恵をお届けしているので「こんな解説してほしいな~」があれば伝えてください。ではまた次の記事でお会いしましょう!