30回目を迎えた写真甲子園のレポート、これまで7回にわたってお送りしました。今回は過去最多だった昨年の533校を大幅に上回り、584校が参加。うち初応募は97校にのぼりました。そして、これまでの応募総数は2,383校に達しています。

そこで筆者が気になったのが、過去に応募したことがあるのに応募をやめてしまった高校が約1,800校もあること。なかには顧問の異動や退職で活動が縮小したり、写真部そのものがなくなった高校もあるでしょう。ただ、あちこちの顧問の先生に話を聞くと、なかなか初戦を突破できないため応募をやめた高校も少なくないようです。写真甲子園は人生で最大3回、実質的には1~2度しか挑戦できないだけに、残念な気もします。

  • 写真甲子園のワンシーン。ストイックに黙々と撮り続ける高校もあれば、とにかく明るい高校も。安心してください、撮ってますよ!

3人1組で挑戦する写真甲子園の難しさと面白さ

筆者は、写真甲子園では外側から取材する立場ですが、一方でさまざまな県の全国高文連(全国高等学校文化連盟)写真部門の審査を務めてきました。都道府県内の加盟高校から作品が集められ、1~2年生の上位作品が翌年度、“文化部のインターハイ”といわれる総文祭(全国高等学校総合文化祭)に出展されます。その提出作品は、組写真を別枠で審査する県もありますが、基本は単写真。しかも個人戦なので、上級者から初心者まで自分の好きなものを撮って参加できます。

対する写真甲子園は、初戦も本戦も8枚組という制約があります。しかも、応募できるのは高校単位なので、1校からは1チームのみ。本戦では3名の団体戦になります。この選手3名という決まりが、写真部員の少ない高校には厳しいかもしれませんが、本戦では1+1+1は3以上の力を生み出し、選手を成長させる一面もあります。

30回目の写真甲子園が閉幕、大阪・生野高校が2連覇!でも触れましたが、個人賞「キヤノン・スピリット賞」を受賞した大阪府立生野高等学校・山本光さんの作品は、撮影した本人は気に留めていなかったそう。それをチームメイトの2人が「この写真いいよ!」と拾い上げて、結果として個人賞はもちろん、同校の優勝にも貢献しました。

  • セレクトは2度目のシャッターチャンス。ここですくい上げなければ、せっかく撮れた傑作もなかったことになってしまう

  • 2連覇を達成した大阪府立生野高等学校。2日目の撮影に納得がいかず、翌最終日の挽回を誓って3人で手をつないで寝たという。撮影は個人でできる作業だが、最後のカギを握るのはチームワークだ

写真甲子園で求められるのは撮影の腕だけではない

過去に筆者が取材した本戦出場校には、写真部のない高校から生徒が自力で目指してきたケースもありました。どうしても写真甲子園に参加したくて、カメラを触ったことのない同級生2人を誘ってチームを結成。頼みを聞いてくれそうな先生に監督をお願いして応募し、見事本戦への切符を獲得したそうです。また、メンバーにモデル担当として演劇部員を加えてきた高校もありました。公開審査会でのスピーチが上手で、立木義浩審査委員長から「君、女優みたいだね」と問われ、「はい、演劇部です」。発想次第でチャンスが広がり、1人ではできないことが可能になるのが、まさに団体戦の魅力だと思います。

写真甲子園では、撮影技術よりもコミュニケーションが大切。農地では農家の方に撮影許可を取ったり、その方のスナップやポートレートを撮ることもあります。さらに市街地や観光地のステージでは、主なモチーフが人物になります。8枚組となると、ただ姿形をかっこよく切り取ればいいわけではなく、その人を通して何かを表現する必要があります。人物以外のモチーフで作品を組むつもりでも、誰かとコミュニケーションを取ることでヒントが得られたり、作品に厚みが生まれます。風景だけでまとめる撮影プランだったものの、出会った地元の方が魅力的で、そのポートレートが入ったことで風景に物語性が生まれた、というケースは過去にもたくさん見てきました。

  • 撮影対象となるエリアでは、地域の人たちも選手が撮影に来ることが分かっている。突然インターホンを鳴らしたり営業中のお店に入っても、ほとんどが快く迎え入れてくれる。写真甲子園だからできることではあるが、選手にはいい経験になるはずだ

写真甲子園では体力や判断力、協調性にコミュニケーション能力と、あらゆる能力が問われます。そして、それらはすべて写真で判断されます。いくらいい出会いがあったり、力を振り絞って頑張ったとしても、それが写真から感じ取れなければ評価されません。公開審査会ではプレゼンテーションがあり、審査員が選手たちに質問をすることもあります。つまり、写真に写っていないものを説明する機会があります。しかし、補足説明してプラスになる印象はなく、審査員から「それを写真で見せてほしかった」と返されることがほとんど。実際、これは高文連や総文祭、さらにいえば写真を発表するすべての行為に共通することです。

  • 作品を提出しておしまいではなく、名だたる写真家たちにアピールしなければならない。しかも、内容が伴っていなければ鋭い指摘が飛んでくる。この緊張感が写真甲子園の魅力でもあり、会場はもちろん、ライブ配信やYouTubeで多くの人たちが見守る

たびたび本戦へ駒を進めている高校では、普段の部活動でも3人1組で制作をしたり、組写真を編むといったトレーニングを実践。顧問や他の部員へのプレゼンテーションや、それをもとにした質疑応答を繰り返しているという話を耳にします。それによって見せる力や伝える力が向上し、写真の密度・精度・濃度が高まっていくのです。なかなか初戦を突破できないという高校は、ぜひ“模擬写真甲子園”をやってみてください。繰り返すほど実力が高くなっていくはずです。

もちろん、初戦とブロック審査会を勝ち抜くのは容易ではありません。しかし、その経験はきっと写真以外のことにも役立ちますし、もし本戦の切符を勝ち取れば、喜怒哀楽が詰まった密度の高い4日間が待っています。そして、写真の町・北海道東川町の素晴らしい大地を踏みしめてほしいと思います。