新型「アルファード/ヴェルファイア」(以下、アル/ヴェル)の試乗会では、チーフエンジニアの吉岡憲一氏にいろいろなお話を聞くことができた。中でも面白かったのは、中国でのアルファード人気のすさまじさ。興味深くて勉強にもなったので、吉岡氏とのやり取りをご紹介しよう。

  • トヨタの新型「アルファード」

    「アルファード」が中国でも売れている?(本稿の写真は撮影:原アキラ)

電気ミニバンが中国で普及?

「実は先々週まで中国に行っていまして」と話を切り出した吉岡氏。

「向こうではBEV(バッテリーEV=電気自動車)に一足飛びで、しかもアルファードのようなパッケージのBEVミニバンがたくさん作られ始めていました。内燃機関をベースにしたBEVをやっている我々に対して、彼らはBEVありきでスタートしているので、クルマの目標性能についての考え方も違います。エンジンを載せないので、そもそも静かで振動が少ないのですが、そこからロードノイズや風切り音といったノイズ系を徹底的に潰し込んで開発しているようなんです」(以下、カッコ内は吉岡氏)

  • 新型「アル/ヴェル」チーフエンジニアの吉岡憲一氏

    新型「アル/ヴェル」チーフエンジニアの吉岡憲一氏

確かに、中国のBYDとダイムラーの合弁会社「デンザ」(Denza)が2022年に発表したBEVミニバン「D9」は、フロントグリルをはじめとしてアルファードにかなり似たパッケージだ。同じ年にデビューした「ロエウェ」(Roewe)のBEVミニバン「iMAX8 EV」も同様なイメージである。

開発の手順としては、「床下に電池を平らに敷いているので、最初から剛性が高い状態で、そこに乗せるシートにも振動が伝わりにくくなっています。そのためシートは軽量化しつつ、別のところにお金をかけるというやり方です。作り方がスタート地点から違っていて、シンプルに作ってきます」とのことだ。

中国ではブランドが確立

今後はミニバンの電動化を進めていかなければ中国で勝負するのは難しいのかもしれない。ただ、これまでに向こうでアル/ヴェルが築いた地位は、簡単に手放すのがもったいないほどのものだ。

「先代モデルはたくさん買っていただいています。北では『クラウンヴェルファイア』(ヴェルファイアのグリル中央にクラウンの王冠エンブレムが鎮座したモデル)、南ではアルファードを売っているんですが、中国には『プレミアムプライス』というのがありまして、販売店は自動車メーカーが出す定価で売っているのではなく、店側が自分たちでプレミアム価格を設定することができるんです」

  • トヨタの新型「アルファード」

    中国では「アル/ヴェル」にプレミアが付いている?

海外の自動車販売では、「インセンティブ」といって値引きをするという話をよく聞くが、人気モデルの価格にプレミアムを上乗せするというのは聞いたことのない慣例だ。

「中国では新型の受注も始まっているのですが、大体30万元(600万円)のプレミアムがついているそうです。その分は、トヨタとは資本関係のないディーラーに入る仕組みになっています」

中国の一般的なBEVミニバンがだいたい50万元(1,000万円)前後であるのに対して、アルファードは先代モデルの成功でブランド化が進んでいて、新型の「エグゼクティブラウンジ」グレードは92万元(1,840万円)と倍近い価格設定になっている。しかも、そこにプレミアムが乗っかるとなると、それこそ尋常ではないプライスの高級モデルになるわけだ。そんな突出した値段であっても、アルファードというブランドが確立しているおかげで、指名買いでバンバン売れているのが中国の現状だ。

「確かに中国でアルファードは人気なのですが、あぐらをかいていてはいけません。ボディ構造などは今回もいろいろと改良していますが、いずれ向こうも新型アルファードを分解して、いいところは取り入れると思います」

  • トヨタの新型「アルファード」
  • トヨタの新型「アルファード」
  • トヨタの新型「アルファード」
  • 中国には実際にクルマを分解し、全てのデータを提供する会社が存在すると聞く。新型「アル/ヴェル」もそのうち…

そんな中国で新型アルファードは人気を維持できるのか。吉岡氏は「十分に戦っていけるモデルに仕上がっている」とする。

「VIPを乗せるクルマには、距離を移動する際の信頼性が必須です。なので、実際の販売台数からみても、純粋なBEVのミニバンについては、中国でもまだあまり伸びていません。急速に伸びているのはプラグインハイブリッド(PHEV)のミニバンで、BEVミニバンの普及までには、もう少し時間があると思っています。その間に我々がどういう開発をしていくかが大事です」