パナソニックの「ストロングンテ」は、タングステンを素材にした耐切創手袋です。どういうモノかというと、耐切創(たいせっそう)とうたっているように「とても切れにくい」手袋。パナソニックが開催したストロングンテの体験ワークショップに参加してきました。

  • パナソニックのタングステン耐切創手袋「ストロングンテ」、サイズもカラーも豊富です

ストロングンテは2021年10月にプロ向けの製品が投入されました。金属組み立て作業や板金、ガラス工場、自動車関連の作業などを想定しています。推定市場価格はゴムあり版が2,180円、ゴムなし版が1,960円です。

続いて2022年9月には、家庭向けのレギュラーシリーズを発売。家庭でのDIY、ガーデニング、アウトドア、災害への備えといった用途です。推定市場価格は1,760円。そして今年(2023年)の7月には、レギュラーシリーズのバリエーションとして、手の小さな人や子ども向けの小さめシリーズが加わっています。推定市場価格は1,650円です。小さめシリーズの背景には、子どもが刃物でケガをすることが意外と多い、子どもが手や指をケガする状況として工作時や調理時を心配する保護者が多い――といった点があります。

  • ストロングンテのラインナップ。業務用のプロユース、家庭用のデイリーユース(レギュラーシリーズ、小さめシリーズ)があります

ストロングンテの耐切創性は、欧州規格(EN388:2016)のレベルD~レベルEに相当します。詳細は省きますが、この規格にはレベルA~レベルEの6段階があり、一般的な綿の軍手はレベルBです。実際、レベルDに分類されるストロングンテ(レギュラーシリーズ・小さめシリーズ)を工作用カッターで強く切っても、切れません。

ただしストロングンテも万能ではなく、使う上では注意点も。「切れにくい」とはいっても、絶対に切れないわけではありません。特に先のとがった物を突き刺すと貫通しますし、そこから大きな穴へと広がる可能性もあります。もうひとつは電気を通すこと。絶縁性は持たないため、電気作業には使えません。ストロングンテのパッケージにはこうした安全上の注意が書かれているので、しっかり目を通してから使用してください。

  • 欧州の耐切創性規格「EN388:2016」では、このような分類になります

どれだけ切れない?

さて、ワークショップの前に、ストロングンテ(レギュラーシリーズ)の体験デモンストレーション。まず綿の軍手をカッターで切ってみます。当たり前ですがフツーに切れますね。

次にストロングンテを同じように切ります。綿の軍手と違って、まったく切れません。事前に説明を聞いていたとはいえ、実際にやってみると会場の参加者から「おぉ~! 切れてない!」の声が聞こえてきます。

  • 一般的な軍手とストロングンテを、カッターで切ってみます

  • まずは軍手。カッターにそれほど力を入れなくても切れました

  • ストロングンテは手のひら側を切ってみました。ゴム部分は切れていますが、タングステン素材の部分は何ともなっていません。手の甲側を切っても同じです

さらに驚いたのは、再び綿の軍手を同じカッターで切ろうとしても、切れないこと。ストロングンテに刃を滑らせたカッターは、刃先が鈍って切れ味がなくなっています。

タングステンはとても硬い金属なので(おおまかにステンレスの2倍~3倍)、工作用のカッター程度では文字通り太刀打ちできません。もちろんハサミの刃で引っかいたくらいなら見た目にはキズもなし。

  • ストロングンテを切ったあと、同じカッターで軍手を切ろうとしても……。カッターの刃が引っかかってほとんど切れませんでした。刃先がダメになっています

ここで筆者はちょっとした失敗を……。ストロングンテに小さな穴が開いてしまいました。カッターの刃先を垂直に近い角度でストロングンテに当てて切ろうとしたことが悪かったようです。上でも書いたように、鋭利な先端を突き刺すような状態になると、ストロングンテでも防げないことがあります。過信は禁物です。

  • ストロングンテといえども絶対に切れないわけではなかった……。精密ドライバーやキリ(千枚通し)のような尖った先端は貫通します。写真はカッターの刃先を垂直に近い角度で刺してしまった筆者の左手。ストロングンテに穴が……(カッターマットの上で作業して、穴が開いた状態のストロングンテを左手にはめています

柔らかく手にフィット、作業性を損なわない

今回のワークショップで講師を務めてくれたのは、整理収納アドバイザー・ほそこしまちこさん。小さな鉢植えを作ります。使う刃物はカッターとハサミ。どちらも一般的な工作用のものです。材料をはじめ、必要な物はすべて参加者の机の上に用意されていました。

  • 整理収納アドバイザー・ほそこしまちこさん。Instagramは「@migliohome15」

  • 今回の材料一式。白い紙コップに見える物体はプラスチックの植木鉢

模様の付いたカッティングシート(粘着タイプ)に台紙を載せてセロハンテープで固定し、台紙に沿ってカッティングシートをカッターで切ります。カッティングシート裏面の剥離紙をはがすと粘着面になるので、プラスチックの小さな植木鉢の周囲を巻くように貼ります。

しっかり貼れたら、余分な部分をカッターやハサミで切り落とすと、キレイな植木鉢のできあがり。小ぶりのパキラ(?)を土ごと植木鉢に入れて、周りの土を整えて鉢植えの完成です。

  • 台紙に合わせてカッティングシートを切ります

  • 植木鉢にカッティングシートを巻いて、余分なところをカッターやハサミでカット

  • パキラを移植。土いじりをするので園芸シートを敷いています。スナップボタンで箱形にできる園芸シートは、いろいろな作業に役立ちますね

  • 完成です。いずれ大きく育つでしょうから、成長に合わせて植え替えが必要ですね。それもまた楽し!

ストロングンテ自体は割と柔らかく、手にはめてぴったりフィットするため、指先でつまむようなそれなりに細かい作業もやりにくく感じません。自分の手に合うサイズを選ぶことは大切ですが、これならお子さんが工作でカッターやハサミを使うとき、包丁を持って料理をするときなど、保護者としても安心して見ていられるでしょう。ストロングンテは洗濯機で洗って繰り返し使えるのもいいですね。

「軍手」と見ると高価ではあるものの、痛みにくく長く使えるため、経済性はそれほど悪くありません。DIYやアウトドアが好きな人、災害時への備え、お子さん用など、いろいろな場面で重宝しそうです。

タングステンの高度な加工技術

ワークショップの会場には、タングステンに関連する展示がありました。自然界から採れたタングステン鉱石、そこからタングステンを取り出して固めたインゴット、さらに11μmまで細くしたタングステン線、タングステン製フィラメントを用いた電球などです。

タングステンは重い金属で、金(ゴールド)とほぼ同じ。鉄と比べると約2.5倍の比重です。タングステン鉱石もインゴットも手に取ってみましたが、重い! これを極細の繊維まで加工する技術は、日本国内で数社しか持っていないそうです。

  • なかなか目にすることのないタングステン鉱石

  • タングステン鉱石を粉砕してタングステンを取り出し、成形・焼結を経てインゴットになります

  • 刀鍛冶のごとく、熱を加えて鍛造。そこから徐々に細く細くしていきます

  • パナソニックがタングステン繊維を作る過程

  • 白熱電球のフィラメントには、長くタングステンが使われてきました。パナソニックがタングステン線の生産を始めたのは1948年でした