永瀬拓矢王座への挑戦権を争う第71期王座戦(主催:日本経済新聞社、日本将棋連盟)は、挑戦者決定戦の藤井聡太竜王・名人―豊島将之九段戦が8月4日(金)に関西将棋会館で行われました。対局の結果、相雁木の熱戦を159手で制した藤井竜王・名人が挑戦権を獲得しました。

相雁木の力勝負

振り駒が行われた本局、先手となった藤井竜王・名人が角換わりの出だしを志向したのに対して後手の豊島九段が注文をつけます。角道を突く手を保留して金銀の活用を急いだのがそれで、最先端の研究勝負を避ける狙いが見て取れます。穏やかな駒組みが続いたのち、局面は相雁木の戦型に落ち着きました。

右銀を中央に腰掛けた先手の藤井竜王・名人は、すみやかに右四間飛車に構えて攻撃の準備を整えます。昼食休憩が明けて2時間が経ったころ、意を決した藤井竜王・名人は「開戦は歩の突き捨てから」の格言通りに連続で歩を3つ突き捨てて仕掛けに踏み切りました。受けてばかりいてはキリがないと見た後手の豊島九段は攻め合いに活路を見出します。

藤井竜王・名人リードも混戦に

本格的な終盤戦の入り口を前に両者の持ち時間は1時間を切っています。角と銀2枚の二枚換えに成功した藤井竜王・名人はこのあと首尾よく飛車もさばいて敵陣への侵入に成功。豊島玉の逃げ道に待ち伏せする銀打ちが継続の好手で、形勢の針が一度は藤井竜王・名人に傾いたように思われました。

受けの時間が続く後手の豊島九段ですが、粘り強い指し回しで決め手を与えません。むしろ相手の攻めに乗じて軽い足取りで玉を敵陣に向かわせたのが実戦的な好判断で、盤上五段目に逃げ出した豊島玉には明快な寄せがありません。その後も盤面全体を使った押し引きは続きますが、秒読みのなか藤井竜王・名人が放った3筋への歩打ちが波紋を呼びました。

超難解な終盤戦乗り切る

藤井竜王・名人の歩打ちは確実な攻めではありながら、これによって豊島九段の方から銀を打って藤井玉に詰めろをかける勝負手が生じました。素直に進めると先に玉を詰まされてしまうため、藤井竜王・名人には速度逆転の妙手が求められます。万事休すかと思われた局面で、藤井竜王・名人は豊島玉への王手ラッシュを開始しました。

先手陣のすぐそばまで逃げ着いた豊島玉に対し、藤井竜王・名人が落ち着いた手つきで打った銀打ちが決め手になりました。この王手は守っては藤井玉への詰めろを解除しており、これで速度が逆転しています。終局時刻は21時15分、自玉の寄りを認めた豊島九段が投了。二転三転の終盤戦を乗り切った藤井竜王・名人が永瀬王座への挑戦権を獲得しました。

藤井竜王・名人が八冠同時制覇の偉業を成し遂げるか、永瀬王座が防衛し名誉王座の称号を獲得するか。注目の五番勝負は8月31日(木)に神奈川県秦野市の「元湯陣屋」で開幕します。

  • 局後の会見で藤井竜王・名人は「(永瀬王座とは)普段から指しているので工夫が必要」と語った(写真は第94期ヒューリック杯棋聖戦五番勝負第4局のもの 提供:日本将棋連盟)

    局後の会見で藤井竜王・名人は「(永瀬王座とは)普段から指しているので工夫が必要」と語った(写真は第94期ヒューリック杯棋聖戦五番勝負第4局のもの 提供:日本将棋連盟)

水留 啓(将棋情報局)