サンプリングジッタによる波形のゆがみは、電圧がゼロとなる付近で大きくなる。そこでまずは、記録波形から電圧ゼロ時間が算出された。レコーダA(B)で得られた記録波形の電圧ゼロ時間は、理想的には一定周期で出現することから、それぞれのゼロ交差ゆらぎが求まるという。ゼロ交差ゆらぎは、DA変換のサンプリングジッタとレコーダA(B)のサンプリングジッタの和となる。つまり、「ゼロ交差ゆらぎ(レコーダA)」ー「ゼロ交差ゆらぎ(レコーダB)」にはDA変換におけるサンプリングジッタは含まれず、「ゼロ交差ゆらぎ(レコーダA)」+「ゼロ交差ゆらぎ(レコーダB)」にはDA変換におけるサンプリングジッタが含まれるとする。
ゼロ交差ゆらぎ(レコーダA)±ゼロ交差ゆらぎ(レコーダB)を横軸とし、縦軸を頻度としたヒストグラムを作成すると、マイナスの方が分布幅が狭くなる。標準偏差で評価すると、マイナスの場合は50.6ピコ秒(ps)であるのに対し、プラスの場合100.0psとなる。これらの値から、DA変換におけるサンプリングジッタが43psと求まるとしている。
デジタルオーディオプレーヤーの場合、左右の音声出力がある。研究チームによると、両出力のDA変換タイミングは同一であるという内部構造モデルを立て、別の配線条件で測定されたサンプリングジッタと比較することで、最終的なサンプリングジッタが求まるという。その結果、実験で使用されたデジタルオーディオプレーヤーが持つサンプリングジッタは、約20psと算出されたとする。
研究チームは、今回の測定法を用いることで、オーディオ機器の個人ユーザーは、より原音に忠実なデジタルオーディオプレーヤーを客観的に選定することが可能になるとする。また今回の測定法は、オーディオ機器の製品開発にも有用とのことだ。
さらに今回の測定法は、基準信号源(DUT)の位相雑音測定にも適用可能だ。現在の主流であるクロススペクトラム法では、測定時間を延ばして平均化することにより、測定器の雑音を除去するのに対して、今回の測定法では、平均化による測定器の雑音除去は不要で、DUTの性能評価に必要となる測定時間を理論限界まで短縮化することができる。水晶発振器などの基準信号源は、無線通信やデジタル信号処理などに必要不可欠な部品だ。今回の研究の測定法を用いることで、より安定な基準信号源が開発され、より高速な通信や情報処理が実現されることが期待できるとしている。