神木隆之介主演の連続テレビ小説『らんまん』(NHK総合 毎週月~土曜8:00~※土曜は1週間の振り返りほか)。神木演じる槙野万太郎や浜辺美波演じる寿恵子夫妻を軸に様々な人間模様が描かれる本作だが、主要キャスト以外の脇役も丁寧に描き込まれた人物造形が好評を博している。制作統括の松川博敬氏に、隅々まで行き届いた脚本の魅力について話を聞いた。
高知県出身の植物学者・牧野富太郎をモデルにした本作は、幕末から明治、大正、昭和と激動の時代に、植物を愛し、その研究に情熱を注いでいく主人公の万太郎とその妻・寿恵子の波乱万丈な生涯を描く物語。脚本を担当しているのは、NHKのドラマ『群青領域』(21)や『旅屋おかえり』(22)などを手掛けた長田育恵氏だ。
松川氏は万太郎について「太陽のような存在」だと常々表現してきた。実際に演じる神木本人の魅力も相まって、まさに太陽そのものという印象を受けるが、『らんまん』においては、そういった個人戦だけではなく“チーム戦”としても大いに見応えがある。脇が魅力を放てば、万太郎や寿恵子という主要キャラもより一層際立つという構図だが、そのキーワードは「広場」だった。
「牧野富太郎さんをモデルにする企画として話し合いをしていた当初、脚本の長田さんが言っていたキーワードが『広場みたいなイメージ』でした。富太郎さんの周りに集まった人たちの広場です。他の企画もいくつかありましたが、そのなかで一番『広場』というものを自由に描けるんじゃないかと、長田さんはおっしゃっていました。槙野万太郎という太陽の下、広場に集まってきた人たちが、それぞれにいろいろな事情を抱えながらも彼に影響されていく感じです」
前もってすでにストーリーを把握している松川氏だが、それでも完成した映像を観て心躍る瞬間も数多くあるそうだ。
「演出陣と俳優陣が頑張ってくれているなと感心するシーンも多いです。例えば、万太郎と大窪さん(今野浩喜)が新種の発見に向けて研究を重ねていき、ようやく新種の認定ができるとわかった時の爽快感などは見事でした」
十徳長屋や大学の研究室の人々もそれぞれのキャラクターが生き生きと描かれている。特に長屋の人々については、子役に至るまでいろいろな見せ場が用意されてきた。
「長屋の人たちは初期段階から時代考証も含めていろいろと話し合いました。例えば、彰義隊くずれの倉木さん(大東駿介)などもそうですが、『こういう人がいたら面白いよね』と相談しながら作ってもらいました。また、長屋自体が思っていたよりも万太郎たちが長くいる場所になりました。当初は、結婚したら出ていくのかな? と話していましたが、結局そのままい続けています。今やメインの場所となったし、長屋の皆さんもちゃんとキャラが立つようになっているので、これからもどんどん伸びていってほしいです」
今後、注目してほしい新キャラクターについても聞くと「万太郎に近いところで言うと、寺田心くんが演じる虎鉄くんです」と言う。山元虎鉄は高知の遍路宿の息子で、植物採集に訪れた万太郎と出会うという役どころとなる。神木と寺田はともに子役出身で、少年時代から抜きん出た演技力と愛くるしい存在感が際立っていたという共通項があるだけに、どんな化学反応を見せてくれるのか、今から楽しみでならない。
脇のキャラクターだけではなく、万太郎や寿恵子も子供を持つ父、母となったことで、親としてのたくましさも身につけていくのだろうか。
寿恵子役の浜辺美波については「ちゃんと年を重ねていて、お母さんになっていっているなと思います。そこは浜辺さんの演技力ですが。また、万太郎も、家族を持って守るものができたっていうところが、やはり影響してくると思います」とその成長について語り、それを裏付ける撮影秘話も明かしてくれた。
「特に子役の方とお話をされているところを見るとそう感じます。まだ、子役は小さいですし、特に赤ちゃんの撮影はすごく大変です。一度、赤ちゃんが寝ているシーンの撮影で、ギリギリまでスタジオの外で寝かせたあと、その赤ちゃんをスタジオに連れてきたのですが、スタジオに入った途端に起きて泣いてしまったことがあって。これで撮影できるかな? と思っていたのですが、神木さんと浜辺さんが2人で寝かしつけてくれました。外でスタッフが寝かせようとしてもダメだったのですが、そこは2人がお父さん、お母さんっぽいなと思いました」
また、家族を思う父親らしくなっていく万太郎については「そこは実在の牧野富太郎さんとは違うところです。富太郎さんは我が道を行かれたと思いますが、我々の万太郎くんはやはり寿恵子さんに苦労をかけて申し訳ないと思いますし、そこが今後の判断に影響するところもあります」と語っていた。
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