マイナスからスタートした農家としての道
海と山に囲まれた食の宝庫である福岡県糸島市。この地で40年以上にわたって青ネギの栽培を行ってきた株式会社ヨシウラファームは、約19ヘクタールの畑で日量2400キロもの生産量を誇る、国内トップクラスの青ネギ専門農家です。
現在の年間売り上げは2億円を超え、従業員も50人を超える経営規模の同社。
しかし、現社長である吉浦さんが家業を継ぐ形で入社した2010年当時は、毎年のように赤字続きだったと話します。
当時は青ネギの生産のほか、カットネギへの加工や販売までを手掛けてきましたが、このうち特に販売の部分がうまくいっていませんでした。多く収穫できる春に視点を合わせて経営してきたため、安い単価の契約が多かったといいます。また、当時結んでいた契約栽培では、コストが多くかかる夏の時期には出荷するだけマイナスになってしまっていました。一方の春も、他の農家で多く収穫量がある分単価も安いという構図になっていました。
また、生産から加工、販売まで手広く手掛けていたことで生産にかけられる人的リソースが少なく、夏にネギを育てる技術力が弱かったことも赤字の原因でした。
赤字続きの経営をどう改善したのか
上述したように、青ネギは通常、春の収穫量が最も多いため、この時期に収穫したものをすべて売り切ろうというスタンスをとっていました。しかし、言うまでもなく他の農家も同じように収穫量が多い時期であるため、価格競争の末、かなりの安値で販売していたといいます。
そこで吉浦さんは、青ネギの供給が減りがちだった夏の時期に販売を集中させることを画策しました。夏の時期は収穫量こそ比較的少なくなってしまうものの、他の農家が対応できない需要に対して販売するので、価格競争に巻き込まれにくいというメリットがあるといいます。
春に収穫した青ネギを廃棄してでも、夏に供給できるよう方針を転換した結果、夏に安定供給できるということで、これまでの春の価格に合わせた契約から、夏の価格での契約になり、年間を通して単価がアップしたといいます。更に、信頼関係の構築にもつながり、夏だけでなく継続的な取引にもつながりました。
自社での加工事業をあえて撤退
もう一つ、経営再建のために下した決断があります。それが加工事業からの撤退。
当時は自社でカットネギの加工も手掛けていましたが、赤字こそでていなかったものの、ほとんど利益にはなっていなかったといいます。その一方で、加工には多くの人材が必要となるため、生産など他の業務にリソースを割くことができない場面も。その結果、長年青ネギを栽培してきたものの、夏の時期の栽培技術などを確立できていませんでした。
吉浦さんは、「天候に左右されたり、良い物ができるか分からない状態で、加工をしている場合ではない。それよりも原点に立ち止まって生産に重きをおくべきだ」と考えたそうです。
そこで、加工をやめ栽培に集中するように切り替えました。畑ごとに土壌分析をしたり、肥料を使い分けて栽培に適したものを研究したり、これまで以上に畑のケアに人を多く割くようにしたといいます。結果として、出荷処理にかかる手間の少ない良いネギが年間を通して収穫できるようになりました。
悪いネギは枯れた部分を切り落としたり、仕分けに時間をかけたりと、出荷の手間がかかります。良いネギが多く取れるようになったことで出荷効率や畑ごとの収量も上がり、人が足りないという理由で収穫せずに終わってしまう畑も無くなりました。
カットネギの販売が無くなったことで、全体の売上金額は落ちたものの、出荷効率向上、収量増加により純利益は年々上がっていったという同社。吉浦さんが入社して3年目には、最大で年間2500万円ほどの赤字だった純利益も、現在は安定した黒字化を実現するまでにV字回復を遂げたそうです。
利益を出し続けるための考え方とは
最後に、吉浦さんに利益を出し続けるうえで大事にしている考え方を聞いてみました。
ネギにある三つのない
「ネギには、ネギがない、人がいない、お金がないという三つのないがあります。ネギがないと売り物がないのでお金になりません。また、ネギがないからと若いネギを取ってくると出荷処理の経費が上がります。最悪、ゼロになった時は仕事をやめなくてはいけません。そうすると、人は他に働きに行ってしまいます」(吉浦さん)
このように、全ては商品が手元にないと始まらないのです。だからこそ、売ることも大事ですが、原点に返って生産が最も大切だといいます。実際に、ヨシウラファームでも生産に重きを置くようになってからは、生産、出荷、販売の効率が良くなっていったのです。
データ取りによる管理
「データを取ることは必要です。畑を理解するために必要な畑ごとのデータ。栽培技術を上げるための実験的データ。取引先のデータ。数字ばっかりみてます」(吉浦さん)
どういった行動を取るにしても、むやみやたらにやるのではなく現状把握をすることが大切。その中で、根拠となるデータはなくてはならない存在だといいます。
実際にヨシウラファームでは、畑ごとの土壌分析によるデータ取り、マルチの色や肥料の種類など実験的に変えて取るデータ取りを行っているそうです。栽培技術が向上するだけでなく、従業員の理解にもつながるといいます。
取材を通して、ヨシウラファームが利益を出し続けるポイントは、信頼を構築するための安定供給にあるのではないかと感じました。そのうえで、安定供給を続けるための生産の重要性を改めて感じた取材になりました。
取材協力
株式会社ヨシウラファーム