ABC・テレビ朝日系ドラマ『何曜日に生まれたの』が6日にスタート(毎週日曜22:00~)する。27歳の黒目すい(飯豊まりえ)は、漫画家の父・丈治(陣内孝則)と二人で暮らす、ほぼ引きこもりの家事手伝い。ある日、連載が打ち切られてピンチの父に、大ベストセラー作家の公文竜炎(溝端淳平)とコラボするチャンスが訪れるが、突きつけられた条件は“すいを主人公のモデルにすること”。やがてすいは同級生と再会し、引きこもるきっかけとなった10年前のバイク事故の真相に迫ることに……。
“ラブストーリーか、ミステリーか、人間ドラマか、社会派か”とジャンルレスを銘打つ今作の脚本を手掛けるのは、『101回目のプロポーズ』『高校教師』『ひとつ屋根の下』など日本を代表する名作を多数生み出してきた脚本家・野島伸司氏。近年はアニメの脚本や漫画の原作を手掛ける野島氏は、今作の第一報や制作発表会見で「久しぶりに実写をやるのでまだ二次元が残っている」「個人的には普段ドラマを観ない、漫画、アニメ派の視聴者に覗いてもらえたらうれしい」とコメントしている。
圧倒的なインパクトを放つ作品たちで平成の一時代を築いた野島氏が、二次元の世界へ創作の幅を広げた理由とは、そして令和の配信時代を野島氏はどう見ているのか――。インタビューでは、コロナ禍で感じた日本のエンタメ界への思い、倍速も駆使しながら膨大なコンテンツを楽しもうとする姿勢……野島氏が生きる“今”が垣間見えた。
■『何曜日に生まれたの』は説明しづらい作品
――今作は、この春に誕生した「ABCテレビ・テレビ朝日系日曜22時」という新しいドラマ枠の第2弾作品となりますが、ABCテレビさんから「こんなドラマにしてください」という要望はあったのでしょうか。
特には何もなく、自由に書かせていただきました。
――今作は「ラブストーリーか、ミステリーか、人間ドラマか、社会派か」とジャンルレスな作品であると紹介されていますが、どんな作品にしようと執筆していきましたか。
ライブ感を大切に、書きながらドキドキするほう、楽しいほうへ進んでいったらこういう話になりました。ジャンルを何と言えばいいのか僕も分からないので、宣伝担当の方たちも困ってるかもしれませんが……別に煽っているわけではなくて、本当に説明しづらい作品だなと思います。前半、中盤、後半と、ラブストーリーが強く出たり、ミステリーが強く出たりと表情を変えていく作品になっているかなと。
■配信時代になったことはポジティブ? ネガティブ?
――野島さんは地上波の連続ドラマは5年ぶりとのことですが、久しぶりにドラマに携わって感じることはありますか。
今はほぼすべてのドラマが配信に乗るじゃないですか。枠や局、時間帯に左右されない時代になってきた気がしますね。膨大な数のドラマが作られていますが、そのクールで消費されて終わらないような、オリジナリティのあるいい“ソフト”を作ることが求められていると思います。消耗されない、強いソフトを残すことができればいいんじゃないかなと。
――この時代について、脚本家としてポジティブ、ネガティブ、どちらに捉えていますか。
いい時代だと思います。僕がデビューした頃はテレビが主な娯楽で皆が同じものを見ていたので、ドラマが時代を動かす様子をたくさん見てきました。今は娯楽が細分化されたことでそうはいかない時代になったので、その分狭く深くではないですが、1つの作品に深く入ってもらえるように、この先も長く残るようなソフトを本気で作ろうと思わされます。
――一見、つらいことのようにも感じますが。
今の方がつらくないですよ、楽しいじゃないですか。もちろん、今でも「フジテレビの月9」や、「TBSの日曜劇場」のような看板枠で、すごく予算もかけて、豪華なキャストを集めてドラマを作るという、プレッシャーのかかる枠もまだまだあります。そこだと失敗できないから、舵を取る人が多くなって、たくさんの人に「こうしたらどうですか」と意見を出されて、自分の書きたいものを自由に書けなくて可哀想だなと。
――そういった歴史を重んじる枠は今もあるものの、野島さんにとっては、今の方が自由に挑戦できていい時代だ、と。
僕はいち脚本家としてそう言えるのですが、テレビ局の方だとまだまだ数字のことを考えなきゃいけないでしょうし、皆が「今の方がいい時代だ」とは言えないと思うのですが、あと10年もしたら「数字が」「枠が」という考え方は、よりナンセンスになっていく気がします。
■コロナ禍で実感「時代が動いている場所に行きたい」
――野島さんは近年アニメの脚本や漫画の原作を手掛けています。二次元の作品を生み出す楽しさを教えてください。
二次元の世界のファンの方は、共感を強く求めず、面白ければいい、自分が入り込めればいいという考えを持っていて、間違いなくエンタメリテラシーが高いと思うんです。価値観を固定しない人が多いという印象があります。
――その印象は、二次元の作品を手掛ける前から持っていたのでしょうか。
以前から感じていました。僕が若い頃は「アニオタ」という言葉があって、アニメは独特な趣味を持った人が見るものだという偏見を持たれていた時代でした。それが今や全世界的に日本のアニメのすごさが認知されて、「世界が求める日本のエンタメ=漫画やアニメ」になりました。大手を振ってアニメが好きだと言える時代がやってきたと思います。閉塞した長いコロナ禍での、実写のブームは韓流ドラマ、音楽のブームはK-POPでしたよね。本当はこのタイミングで、日本のエンタメ界でも世界的なスターが生まれてほしかったけど、日本で話題を席巻したのは、大谷翔平くん、藤井聡太くん、そしてエンタメでは二次元作品の『鬼滅の刃』。だから、僕からそっちの面白そうな世界、時代が動いている場所に行きたいなと思ったんです。国内でさえ韓流ドラマに注目が集まっているので、これを挽回するのは、僕が生きているうちにはもう無理だろうと。
――世界に注目される環境で、感度の高いファンの方に見てもらえる、そんな二次元で挑戦したいと思われたんですね。そんな今作には“好き避け”(好きな人を避けてしまうこと)というリアルタイムで流行っているワードなども登場しますが、野島さんは日頃どのように情報収集されているのでしょうか。
“今”を追いかけようと思っていないので、積極的に情報収集しているつもりはありません。配信されることを考えると、今の流行を盛り込んでも10年後には古くなってしまいますから。強いて言うなら、俳優養成スクール(女優の奈緒らを輩出した「ポーラスター東京アカデミー」)で校長先生のようなことをしているので、興味を持って生徒の話を聞いているうちに自然と情報が入ってくるというか。僕の年齢の割には、若い世代と接する機会は多いのかもしれません。
■倍速視聴も駆使して膨大なコンテンツに向き合う
――近い質問になりますが、野島さんもアニメやドラマをご覧になっているんでしょうか。
実写もアニメも、韓流ドラマもひっくるめて膨大な量を見ています。若い子と同じように倍速で見ることもありますよ。好きだと思っても、最後まで一気に見られるものがあまりなくて、いくつも同時に視聴しながら、飽きたら別のものを覗くという見方をしています。
――膨大なコンテンツにあふれるこの時代を楽しいと感じますか。
楽しい……のですが、「この中からドハマりするものに出会えたらいいな」と願って日々作品を探している気がします。ちょこちょこ食いしながら、「これうまいじゃん! 明日も食べたい!」という出会いを求めています。
――では最後に、『何曜日に生まれたの』作品の見どころやメッセージを教えてください。
引きこもりから始まる「黒目すい」という主人公が、最終回に向けてどんどん、ビジュアル的にも変化していくさまを見せられたら面白いなと思っています。
――ありがとうございます、楽しみにしております!
1963年3月4日生まれ、新潟県出身。1988年5月『時には母のない子のように』で第2回フジテレビヤングシナリオ大賞を受賞し、同年に『君が嘘をついた』で連続テレビドラマの脚本家デビュー。その後『101回目のプロポーズ』(91)、『高校教師』『ひとつ屋根の下』(93)、『家なき子』(94)、『未成年』(95)など立て続けに大ヒットドラマを手がける。近年は『パパ活』(17)、『彼氏をローンで買いました』(18) 、『百合だのかんだの』(19)、『エロい彼氏が私を魅わす』(21)など配信ドラマも数多く手掛け、アニメ『ワンダーエッグ・プライオリティ』(21年)の原案・脚本、漫画『シード・オブ・ライフ』の原作を担当するなど、二次元作品にも活動の幅を広げている。
■ヘアメイク:Rie Ikeda
27歳の黒目すい(飯豊まりえ)は、漫画家の父・丈治(陣内孝則)と二人で暮らす、ほぼ引きこもりの家事手伝いだ。彼女が部屋に閉じこもってから10年が過ぎた頃、丈治の連載の打ち切りが決定した。担当編集者の来栖久美(シシド・カフカ)は、生活のために「なんでもやります」とすがる丈治に、大ベストセラー作家の公文竜炎(溝端淳平)が原作を書き、丈治が作画を担当する、コラボを提案する。ジャンルは鮮烈でピュアなラブストーリー。公文からの条件はただひとつ、すいを主人公のモデルにすることだった。