ホンダが軽スーパーハイトワゴン「N-BOX」をフルモデルチェンジして発売する。販売が絶好調な中、なぜホンダはN-BOXをモデルチェンジするのか。人気車の何を変えるのか。デビューに先駆けて行われた事前説明会に参加し、開発陣に話を聞いてきた。
新型のコンセプトは?
N-BOXの初代は2011年に登場。「New Next Nippon Norimono」をメッセージとして、“日本にベストな新しいのりものを創造すること”がコンセプトだった。具体的には名車「N360」の開発の考え方「M・M思想」(マン・マキシマム、メカ・ミニマム)を引き継ぎ、センタータンクレイアウトをいかした背の高いパッケージングや、F1技術まで応用した動的性能によって軽自動車の概念を覆すモデルだった。
2017年発売の2代目N-BOXは「N for Life」を新たなメッセージとして、多様化する価値観やライフスタイルに適合することを追求。ドライバーベストの「N-WGN」、個性を大切にする「N-ONE」、働く人を大切にする「N-VAN」と、「Nシリーズ」のラインアップも拡大した。
現行N-BOXは今年2023年の1~6月期でいまだに11万2,248台も売れている、登録車(いわゆる普通車)も含めた販売ランキングでトップの大人気モデルだ。
3代目の開発責任者であるホンダ 四輪事業本部 四輪開発センターの諌山博之氏によると、新型N-BOXが掲げるメッセージは「毎日乗りたくなる私のN、いっしょにいたくなる家族のN、仲間と楽しむみんなのN」で、グランドコンセプトは「ハッピー リズム BOX」だ。「わたしも、家族も、日本もハッピーになれる“幸せな生活リズム”をつくるクルマ」なのだという。
ライフスタイルにマッチしたクルマが望まれる傾向にある中で、若年層を含め望まれる車内空間の価値は「プライベートで自宅にいるようにくつろぎたい」というものだというのがホンダの見立て。コロナ禍もあり、「家族といる時間を大切にしたい」「自分らしく自由に仲間と楽しみたい」という価値観が顕在化しているのだという。
そうしたユーザーが望む価値を盛り込み、安全面やコネクティッドなど現代のクルマとして求められる部分を改良したのが、今度の新型N-BOXだ。
エクステリアはキープコンセプト
3代目N-BOXの実車を見ると、ノーマルもカスタムもエクステリアに関しては完全にキープコンセプトだ。
冒頭に述べたように、現行モデルは今でも売れ続けている。それなのになぜ、モデルチェンジを実施するのか。諫山氏の回答はこうだ。
「『フルモデルチェンジ、なんでやったの?』という質問は確かに本音としてあるでしょう。見た目を変えてないのは、実は意図的なことです。N-BOXのスタイルはこれでなくではいけない。つまり、シルエットがN-BOXというところは変えてはいけない。いわゆるコア価値のひとつです。街中を走っていてもひと目で『あっ、N-BOXだ』とわかるところは、初代でも2代目でも、3代目でも共通なところです。ただ、その中で、ライトやグリルはきちんと進化する。新しい見せ方でお客様に喜んでもらえるノーマルの顔、カスタムの顔というのはちゃんと表現できたと思います」
新型のノーマルN-BOXで目立つのはヘッドライトのデザインだ。現行N-VAN(スタイルファン)で好評な、ヒトの“瞳”のように上下半円のリングを組み合わせた形状になっている。開発では実際の瞳を参考にしつつ、黒目のバランスやまぶたの形をミリ単位で吟味した造形にしたそうだ。光源としては中央のひとつがローとハイビームを切り替えるプロジェクター、リングランプはDRL(デイタイム・ランニング・ライト)、ポジション、ターンランプを兼ね備えたマルチファンクションタイプになっている。
これまでフィンやメッシュタイプが多かったフロントグリルは今回、ボディカラーと同色な面に「丸穴デザイン」を施したシンプルなデザインとした。最新の家電なども参考にしながら新鮮な見え方や清潔感を追求したそうで、日常の暮らしに寄り添ったイメージになっている。
ボディ全体として、バンパーコーナーにボリュームを持たせたシンプルで堂々としたスタイルは初代から引き継ぐ美点だ。スタンスの良さや踏ん張り感が走りの良さを表現している。
ボディカラーはベーシックモデルが人気の高い無彩色の7色展開。「ファッションスタイル」というパッケージでは「オータムイエロー・パール(新色)」「フィヨルドミスト・パール」「プレミアムアイボリー・パール」の3色が選べる。
一方のカスタムは「プラウドリズム」がキーワード。今までのように他者に対する威圧感や力強さを表現するのではなく、自分を高める特別なもの、誇りを持てるものにしたいというのが今回の考え方だ。2代目以上の品格とハイパフォーマンスを感じさせるデザインを目指した。
フロントでは、左右のポジションランプと中央のグリルランプをつなげ、全幅いっぱいの横一文字で光らせることで、加飾に頼らずにワイド感や存在感を強めた演出がなされている。ヘッドライトは、レンズ周辺のメカニカルな形状によって精緻で高性能感のある表情としつつ、ホンダ初採用の「ダイレクトプロジェクション式LED」によって、既存のリフレクターより光源の輪郭が鮮明になったという。2代目から採用したシーケンシャルターンシグナルは、LEDの数を増やしてさらに滑らかに動くようにしたそうだ。
フロントグリルは光沢のあるブラックで、バンパー部分はカスタム専用のロー&ワイドなデザインを採用している。ホイールは自然吸気は14インチ、ターボは15インチのアルミを採用。エンブレムは2代目のアグレッシブなものから字体を時代に合わせて変更したそうだ。
パワートレインについての情報は今のところ非公表。事前説明会ではボンネットを開けてみることもできなかった。ただし諫山氏によると、動的性能は静粛性も含めて試乗会で確かめてくだい、とのことなので、こちらも楽しみなところだ。インテリアについてはかなりの変更が行われているので、別稿で担当者の話と共に紹介する。