インテルの日本法人が8月1日、都内で記者会見を開き、全社を挙げて「インテルの新しい文化醸成を進める」という発表を行った。同社の鈴木国正社長は今回の件を「インテルは変わります、という宣言だと思って欲しい」と切り出し、従来の「プロダクト・ベース」から、新たに顧客の「バリュー・ベース」へとマーケティング方針を変革する趣旨であることを説明した。

  • インテルが「プロダクト」から「バリュー」の会社への変革宣言、ファウンドリでも存在感

    これから、「インテルの文化が変わっていく」と発表をはじめた鈴木国正社長

2021年にパット・ゲルシンガー氏がインテルのCEOとして返り咲いて以来、同社は「IDM 2.0」(IDM: Integrated Device Manufacturer)と呼ばれる半導体製造強化の戦略を打ち出している。特に先端半導体の開発や生産で苦戦していたインテルが、再びこの分野におけるリーダーへと復活しようとする戦略だ。そのIDM 2.0の目玉施策のひとつが、数兆円規模の投資で急拡大を進めているファウンドリビジネス「Intel Foundry Services (IFS)」だ。TSMCをはじめとする台湾勢が位置を占めている分野である。現在では、経済安全保障の観点からも国家規模で半導体製造の重要性が増しており、米国に本拠を置くインテルのこれらの動向は、日本国内にも大きな影響を及ぼす。

  • パット・ゲルシンガー氏はインテルに帰ってくるなり、IDM 2.0戦略を打ち出し、それに基づいた半導体製造の強化策を矢継ぎ早に実行している。写真はアリゾナ州に建造する新工場「Fab 52」「Fab 62」の起工式から

鈴木社長が発表した「バリュー・ベース」への変化は、インテルが全社グローバルのマーケティングで展開するものという。従来のインテルのマーケティングは「インテルには、こんな素晴らしい製品があるますよ」という「プロダクト・ベース」であったところ、バリュー・ベースの考え方では、「顧客が何を必要としているか、インテルの技術が顧客の課題解決にどう役立つのか」に変わるという。「顧客にとって、中長期的な価値創造につながるビジネスを創出する」アプローチだという。

  • バリュー・ベース・セリングの定義

鈴木社長は、2018年に現職に就任してすぐ、産業界の中立的なハブとしてのインテルになるとして、「DcX (データ・セントリック・トランスフォーメーション)」という言葉(ちなみに同社の造語だそうだ)を打ち出した。鈴木氏はインテルに参加した際、高い技術力以上に、パートナー同士をつなぎ、社会に実装できるインテルの「中立性」に非常に魅力を感じたそうだ。中立のハブとして、パートナーとともに顧客や社会の課題を起点に解決を目指す日本法人の取り組みは、同様にバリュー・ベースへと変わろうとするインテル全社から注目されており、ゲルシンガーCEOの頻繁な訪問をはじめ、日米間での社内コミュニケーションが相当に活性化している状態だという。

  • 鈴木氏は2019年に強調した「DcX」の考え方

この「バリュー・ベース」への方針転換は、顧客の設計した半導体を受託製造するファウンドリビジネスの文脈にも合致する可能性がある。マーケティングの部門と、IFSの事業部門では部門が異なり、鈴木社長もダイレクトに関与するものではないと話しているが、日本がサプライチェーンの担い手として注目され、日本法人にその土壌が培われているのだとすれば、IDM 2.0における日本法人の役割も変わってくる可能性はあるだろう。

  • 価値創造の3つの要素。半導体のリスク要素は、パソコンはもちろん、家電も自動車も、ゲーム機すら手に入らなくなったコロナ禍の際に、ごく普通に生活していた日本人にも十分に実感があった

あわせて、「バリュー・ベース」の日本における取り組みを裏付けるものとして、同社マーケティング部門の上野晶子本部長は、インテルが日本国内で展開している具体的なマーケティングの事例を紹介している。例えばリモートワーク対応で過負荷がかかる企業のIT部門の課題解決に、vPro技術を活かした業務改善とDX促進を提案したり、未来を創るデジタル人材の不足という社会課題に、現場の現状を踏まえ「まずはデジタル人材を育てる人を育てるところからはじめた」と、自治体や学校と連携して教員向け育成プログラムの提供や、学校における成功事例の共有といった活動を進めたりしている。

  • インテル株式会社 マーケティング本部長 上野晶子氏。つい最近、半導体の後工程の工場を視察する機会があったそうで、工場が置かれた町全体が、工場の運営に一丸となっている様子を見て、「工場を持つことの責任というものを強く感じた。ファブレスというものもあるが、工場がなければ半導体は前に進まないと改めて感じた」と話していた

上野本部長は、「人々はパソコンを買う時、パソコンを買いたいからパソコンを買うのではなく、最初にやりたいことがあって、その実現のためにパソコンを買うというのが我々がずっと持っている考え方」とし、「it starts with intel」という新しい同社のマーケティング・メッセージを紹介。そのためにも、企業や自治体の事例だけでなく、クリエイターのコミュニティにまで入り込んで創作活動の後押しにコミットした「Blue Carpet Project」など、幅広くユーザーに寄り添う姿勢を続けていることを説明した。

  • 「ITはヒーローだ」として、企業のIT部門に寄り添う課題解決を提案。これまでリーチしていなかった層になんとかリーチしようと、VTuberをインフルエンサーとして起用したり、様々な試みを進めている

  • デジタル人材の不足という課題に、「デジタルラボ構想」という連携プラットフォームの構築を模索している

  • 草の根レベルからはじまったクリエイター向けの「Blue Carpet Project」には手ごたえも出てきたそう。また、今年9月の東京ゲームショウに昨年に続きブースを構える

  • まず「やりたいこと」があり、そのために「パソコンを選ぶ」。だから、パソコンの選びやすさを支援するのもインテルの役割となる

また、インテルは先日、CPUブランド「Intel Core」のブランドを刷新したが、これも「やりたいことのために、パソコンは選びやすくあるべき」という考えからの刷新であったという。製品ブランドのロゴを見ると、「Core i」から「i」がなくなった程度にも思えるが、位置づけとして、最新の性能・機能を持ったCPUを「Core Ultra」、普及品のCPUを「Core」とし、2つの関係性をわかりやすくするとのこと。これまで第xx世代CoreとしてCPUの世代を位置付けていたものを廃止し、今後は、Meteor Lake発売のタイミングでMeteor LakeベースのCPUを「Core Ultra」とし、その前世代のRaptor LakeベースのCPUなどは「Core」とするようだ。さらにMeteor Lakeの次世代が出てくれば、今度はMeteor Lakeが「Core Ultra」から「Core」へと移行するように、世代交代を続けていくものと見られる。

  • 開発コード名「Meteor Lake」以降の次世代CPUから、「Intel Core Ultra」と「Intel Core」の2つにCPUブランドを刷新する