第36期竜王戦(主催:読売新聞社)は、永瀬拓矢王座と伊藤匠六段との間で争われる挑戦者決定三番勝負が開幕。7月31日(月)に東京・将棋会館で行われた第1局は角換わり腰掛け銀の熱戦を伊藤六段が109手で制して自身初となる竜王挑戦に向け大きく前進しました。
角換わり腰掛け銀の課題局面
振り駒が行われた本局は後手の永瀬王座が一手損角換わりを採用してスタート。対して早繰り銀の作戦も考えられたところ、先手の伊藤六段は腰掛け銀の作戦を選びます。この戦型特有の間合いの計り合いが続いたのち、局面は手損のない角換わり腰掛け銀における定跡形に合流して本格的な中盤戦を迎えました。
先手の伊藤六段は単騎の桂跳ねで局面の打開を図ります。この桂は「桂の高跳び歩の餌食」の格言通りに後手の歩によって捕獲されますが、代償として得た3枚の歩と後手玉に迫る拠点の歩が先手の主張です。公式戦での前例は少ないながらも水面下でのソフト研究が進められる局面を前に、ともに早いペースで指し手が進みます。
伊藤六段が猛攻でリード
昼食休憩の直前、後手の永瀬王座が攻防の自陣角を放ったあたりから二人の戦いが始まります。これに対し伊藤六段は76分の考慮でじっと金を上がって陣形を整備。永瀬王座もさらに79分の考慮で応じます。この数手後、手を渡された伊藤六段が6筋に築いた拠点に角を打ち込んだことで局面は大きく動き始めました。
角金交換の駒損の代償として後手陣中央にと金を作った伊藤六段は、立て続けに飛車を成り込んで形勢をリード。黙っていてはジリ貧と見た永瀬王座もここから怒涛の追い上げを見せますが、伊藤六段の対応は冷静でした。飛車を犠牲に先手玉に迫った永瀬王座の勝負手に対し、この飛車を取ってから4筋に桂を据えたのが冷静な決め手です。
攻め切って先勝
非勢の永瀬王座は脇息にもたれてうつむく様子が目立ちます。やがて意を決したように角を出たのは王手竜取りをかけて下駄を預ける意味ですが、伊藤六段はこの竜が取られても永瀬玉への詰めろが外れないのを読み切っていました。終局時刻は21時49分、自玉の詰みを認めた永瀬王座が駒を投じて伊藤六段の先勝が決まりました。
伊藤六段が2連勝を飾るか、永瀬王座が粘りを見せるか。どちらが勝っても竜王初挑戦となる挑戦者決定戦の第2局は8月14日(月)に東京・将棋会館で行われます。
水留 啓(将棋情報局)
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