排水対策の基本は「排水溝」と「額縁溝」
圃場の水管理について考える時、排水溝(はいすいみぞ)と額縁溝(がくぶちみぞ)の存在は無視できない要素だ。あまり聞き慣れない言葉だが、池田さんと上山さんは、これからの圃場には必要不可欠な存在になると訴えている。
「排水溝と額縁溝の役割は、圃場にたまった過剰な水分を素早く圃場外に排出すること。排水溝によって圃場内にたまった水を圃場外に出し、周りから圃場に流れ込む水を額縁溝が防ぐ働きをします」(池田さん)
これまでは、圃場の形状や傾斜によっては自然と水が抜けていたが、近年の降雨量では、適切な排水対策をしないと排水が不十分になるという。
「多くの農家さんが、今まで問題なかったから自分の畑は大丈夫、と思っているかもしれません。しかし、気候変動による、従来の常識を覆すような大雨に対処するには、排水溝などの排水機能が必要になってきます」(上山さん)
作物の根腐れや病気の発生などを防ぐためには、土壌中の水分を適切な量に保つ必要がある。そのためにも、排水溝を作って豪雨時にも圃場の排水がしっかり行われるようにしよう!
排水溝・額縁溝を設置するタイミングは?
池田さんによると「額縁溝は早めに設置し、排水溝の設置は、畝立てなどと一緒に行うのが最適」だという。額縁溝を早めに設置することで、圃場が乾きやすくなり、畝立て作業がしやすくなる。また圃場全体に溝を掘る必要があるので、土が乾いている時期(春先など)に行ったほうが良い。
作物を栽培している途中でも溝づくりは可能だが、土の水分量が多いと掘る作業が大変だ。排水溝の設置は、水害対策としてだけでなく、健全な作物育成のためにも欠かせない。事前に栽培計画に組み込み、早めに設置することが重要だ。
「排水溝」「額縁溝」の作り方
排水溝と額縁溝の作り方は至ってシンプルだ。
◯用意するもの
●三角ホーまたはクワ
●直線を引くために使うロープなど
①額縁溝を掘る
まず、圃場全体を四角形で囲むように、額縁溝を圃場の四辺に掘る。排水溝は、次に畝立てをするときにあわせて掘る。
<ポイント!!>
●額縁溝は、隣の圃場や道路からの水の侵入を防ぐのとあわせて、圃場全体の水分を最終的に外へ出す役割もある。
●額縁溝は、外部からの雨水や圃場内の水分を受け止める役割があるため、排水溝よりも深めに設計すること。
●溝に傾斜を付ける必要はないが、溝から流れ出た水は、可能な限り用水路などに流すのが理想的だ。用水路が近辺にない圃場では、額縁溝を深く掘ったり、圃場の端の方に深い穴を掘って流し込むと良い。夏場は暑さにより水の蒸発が促進され、水の排出も円滑になるという。
②排水溝を掘る
(1)まず、畝を立てる。このとき、高畝にするとより排水性が高まる。
(2)畝間に一直線の深い溝を掘り、額縁溝までしっかりつなげる。手作業で溝を掘るときは、溝がまっすぐになるよう畝に沿ってロープを引くとよいだろう。
<ポイント!!>
●耕運機などを使って畝立てをすると畝間に土が残ってしまうので、しっかり取り除くことが大事。
●排水溝の深さ
例えば黒大豆の場合、畝の一番高い面から15センチ以上深く溝を掘る必要がある。池田さんによれば「適切な排水溝を設けることで、発芽率や初期生育に大きな影響を与えることがわかっています」とのこと。圃場内の水分を安定させることは作物の生育にも関わっている。
実際に排水溝&額縁溝を作ってみた!!
上山さんと池田さんから聞いた話をもとに、筆者の圃場に排水溝を実際に作ってみた。
作業日は7月12日。数日間、晴れが続いていたので、土は適度に乾いていた。
事前に畝間やのり面の雑草を軽く掃除して、溝を掘りやすいようにしている。
今回溝を掘ったのは、ピーマンとトマト、ナスを育てている圃場の端っこのあたり。
筆者の圃場の場合、畝の長さは20メートルほどで、1畝分の溝を掘るのにだいたい30分ほどかかった。土が踏まれて少し硬くなっていたので、クワではなく三角ホーを使って作業した。
畝に沿って溝を掘ったが、すでに株が大きくなっているため、畝のきわを掘ってしまうと根を傷つけてしまう恐れがあった。そのため、畝から少し離れたところに、狭めの溝を掘った。栽培中に後から溝を付け加えるときは、株の根っこが生えている場所に注意を払って作業しよう。
排水溝と額縁溝が交わったところ。写真ではわかりにくいが、畝の一番高いところから10センチほどの深さで溝を掘った。圃場の周りには用水路がないので、額縁溝を少し深めにして、遠くまで水が流れるように工夫した。
実際に溝を作ってみたが、時間もそれほどかからず、とくに難しさもなかった。夏のゲリラ豪雨対策として、これからの時期でも排水溝を設けることは十分可能だと感じた。
大雨後にするべき3つのポイント!
① 大雨後や冠水後は、病害対策をしっかりと!
大雨後の農作物管理には注意が必要だ。強雨が作物にダメージを与え、その傷口から病原菌が侵入する恐れがある。また、雨滴が土に当たり、跳ね上げられた土壌中の病原菌が作物に付着する可能性もある。
これらの問題を防ぐための対策は、大雨前には支柱や土寄せを用いて作物を固定し、ビニールマルチや麦わらマルチを敷くことで土の飛び散りを防ぐことだ。
さらに、大雨が降った後には、株の洗浄や付着した土の除去が重要だ。その後、作物に付着した土を洗い流すように農薬を散布し、殺菌・防除を行う。これにより、大雨による悪影響を最小限に抑えることが可能になる。
② 水路の入水・排水口のゴミを取り除く
大雨後の圃場では、水路の入水口や排水口に土や草がたまり、水の流れを妨げることがある。圃場は水分管理が重要であることから、排水口の清掃や確認が作物の生育に直接影響する。速やかにたまった物を取り除き、圃場に滞留した水を速やかに排出することが肝心だ。
③ 獣害防止柵のチェックを忘れずに
大雨後の対策として見落としがちなのが、獣害防止柵の点検だ。獣害防止柵は、農作物を害獣から守る重要な設備だが、大雨や強風により倒壊や破損のリスクがある。特に、川辺の柵は、流木や土砂で支柱が倒れたり、流されたりすることもある。柵の破損が放置されると獣害対策の役割を果たせない。迅速な修繕が必要となる。
圃場の管理と並行して、獣害防止柵の迅速な修繕作業も計画に組み込むことが重要だ。雨がやんだら早急に修繕を行い、再び害獣から農作物を守る体制を整えよう。ただし、柵の修繕は時間とコストがかかるため、計画的な管理が求められる。
気候変動による豪雨が頻発する近年、従来の常識や慣習が当てはまらないことも多い。今までだったらやってこなかった対処法にも目を向けて圃場を守る対策を講じていく必要があるだろう。