今回の酸窒化物において、水素はTiO6八面体が2量体を形成している面共有サイトに3つH-として存在するが、N3-が置換された際、電荷バランスの関係で空孔サイト(VN)も形成される。元素分析の結果から、組成はBaTiO2.00N0.340.66(□はアニオン空孔サイトを示す)であることが解明された。

続いて活性試験が行われ、新触媒は350℃付近からNH3分解活性を示し、580℃においてほぼ100%のNH3転化率に到達することが確認されたとのこと。これによりNi/h-BaTiO3-xと比較して、NH3分解触媒の作動温度が140℃以上低温化することが明らかにされた。さらに、新触媒のNi重量あたりの水素生成速度は、反応温度500℃で194.3mmolgNi-1min-1であり、従来のNi系触媒と比較して、世界最高レベルの触媒活性であることも確かめられたとする。

  • (左)Niを種々の担体材料に固定化した触媒のアンモニア転化率と反応温度の関係(Ni担持量:5wt%)。(右)Ni/h-BaTiO3-x触媒およびh-BaTiO3-xNy触媒の活性点の違い。

    (左)Niを種々の担体材料に固定化した触媒のアンモニア転化率と反応温度の関係(Ni担持量:5wt%)。(右)Ni/h-BaTiO3-x触媒およびh-BaTiO3-xNy触媒の活性点の違い。(出所:東工大プレスリリースPDF)

それに加えて反応機構の解析結果から、新触媒では、担体である今回の酸窒化物と担持されているNiの界面に存在する窒素空孔サイトでNH3分子が活性化されて水素が生成されると同時に、窒素が空孔サイトに補足され、その窒素種が担持されているNiの作用でN2として脱離することで、空孔サイトが再生されることも突き止められた。研究チームはこのような反応機構により、非貴金属のNiを使用しても、低温で高いNH3分解活性が示されたと考えられるとする。

次に実運用を想定し、新触媒を大気や水にさらした際の安定性について検討された。実験では、反応後の触媒を水中に1時間浸漬させ、乾燥させた後に再びNH3分解活性を調べたという。浸漬後の触媒も元の触媒とほぼ同じ触媒活性が得られ、反応後の結晶構造などもまったく変化していなかったとする。つまり、新触媒は高いNH3分解活性と耐水性を兼ね備えた、優れた触媒であることを示したのである。

  • 水への浸漬前後でのh-BaTiO3-xNy触媒のアンモニア分解活性。

    水への浸漬前後でのh-BaTiO3-xNy触媒のアンモニア分解活性。(出所:東工大プレスリリースPDF)

最後に、今回の酸窒化物のNH3分解触媒担体としての有用性を調べるため、Ni以外の非貴金属である鉄(Fe)やコバルト(Co)を担持した触媒活性が調べられた。すると、それらを今回の酸窒化物に担持した触媒も、新触媒と同程度の高いNH3分解活性を示し、それぞれの金属種を酸化物であるBaTiO3に担持した触媒よりも100℃以上低温で作動することが示されたという。今回の酸窒化物上の担持金属種を変えても触媒活性に大きな差が出なかった理由は、担持金属表面ではなく、今回の酸窒化物担体上の窒素空孔サイトが活性点として機能するためであると考えられるとする。

  • さまざまな非貴金属を酸化物および酸窒化物担体に固定化した触媒のアンモニア転化率と反応温度の関係(各種金属担持量:5wt%)。

    さまざまな非貴金属を酸化物および酸窒化物担体に固定化した触媒のアンモニア転化率と反応温度の関係(各種金属担持量:5wt%)。(出所:東工大プレスリリースPDF)

研究チームは、今回の研究成果を発展させることで、窒素空孔の役割をより詳細に解明し、さらに高性能なNH3分解触媒の実現が可能になることが期待されるとする。また酸窒化物は数多くの化合物が存在するため、NH3分解触媒の有望な担体材料となりうる潜在的な物質が存在すると考えられるという。そして今後について、今回の研究で実証された触媒設計を指針として、より高性能なNH3分解触媒が開発できることが期待されるとしている。