この数年のマスク生活で、マスクにこもる自分の息のにおいをかいで、口臭がとても気になりはじめた。という人も少なくないのではないでしょうか。ただ、口臭には、ブレスケアにどれだけ気をつかっても、ダメなものもあるようで……。

今回は「口臭」について、歯科医師で歯学博士の亀井孝一朗氏の著書『歯周病になったらどうする?』(アスコム)から抜粋、再編集して、そんな自分ではどうしようもない口臭の正体についてお話しします。

実はマスクをしていても口臭は伝わってしまう

「マスクをしていると自分の口のにおいがとても気になる……」

コロナ禍によってマスクを日常的に着用するようになり、このようなことを気にする人がとても増えたように感じます。一方で、「マスクをしていれば、口臭は伝わらないよね?」と思っている人も少なからずいるようです。

しかし残念ながら、マスクをしていても口臭は相手に伝わります。口臭がマスクの内側にこもり、それがマスクの隙間から漏れ出る「漏れ臭」が相手に伝わってしまうのです。

マスク生活で口臭が悪化したという人も

また、マスクをし続けてきたことによって、口臭が強くなったという人も少なくないように感じています。

L8020協議会というところが2021年7月31日~8月13日に行った「マスク着用による口腔内環境に関する意識調査」によると、4割以上の方が「マスクを着用してから口臭が悪化した」と答えています。

いろいろと原因はあると思いますが、マスクをし続けることの息苦しさから、口呼吸になっている人が増えたことが、原因と考えられます。

口呼吸は鼻呼吸よりも口内が乾燥しやすく、口の中の細菌が増殖し、衛生状態が悪化するため、口臭が増すのです。

口呼吸に戻すためのストレッチ

口呼吸になったことによる口臭の悪化は、鼻呼吸に戻すことで改善できます。

子どものころからずっと口呼吸だった人が鼻呼吸に戻すのは、なかなか難しいかもしれませんが、コロナ禍以前までは鼻呼吸だった人なら、まだ鼻呼吸に戻せる可能性があると思います。

そこで、試してほしいのが舌の運動。舌は、平常時には上顎側の前歯の後ろが自然なポジションです。しかし、舌の筋力が落ちると正しいポジションを維持できずに下がってしまい、気道を圧迫して息苦しくなるため、より多い空気を取り込める口呼吸になりやすいといわれています。

舌を鍛えるトレーニングといっても難しいことを考える必要はありません。例えば舌を思い切って前に出す、十字のように舌を上下左右に動かす、口の中でぐるぐるまわしてみるといったことを、歯磨きが終わったあと、寝る前などに儀式としてやってみてください。

ここでは、1つ舌十字ストレッチを紹介しておきます。

1.口を開けたまま舌を下に思いきり出す。
2.口を大きくあけて舌を上あごに押しつける。
3.舌を口の右に思いきり出し、そのまま左に移動させる(左右の順番は逆でもOK)。
1~3を3回繰り返す

しつこい口臭は、歯科クリニックで治療できる

そのほか、水分補給やよく噛んで唾液を出すなどしたりすれば、口臭が改善されたりします。

ですが、このようなケアをしても、そしてマウスウォッシュをしても、歯みがきやフロスを念入りにしてもとれない口臭は、病気に由来する可能性があります。呼吸器系、消化器系、糖尿病、肝臓疾患など多様ですが、ほとんどの場合の口臭の原因は歯周病です。

歯周病による口臭は、「メチルメルカプタン」という物質に由来します。メチルカプタンの特徴は「野菜の腐ったようなにおい」ですが、もう少しリアルな言い方をすれば、「排せつ臭」「生ゴミ臭」です。とにかく臭い! 

これは、歯周ポケット内のプラークという最近のかたまりに原因があるため、セルフケアでは落としきれません。プロによる歯周病治療を受ける必要があります。

手を洗い、舌の宇上や歯と歯ぐきの溝の部分などを指で触り、唾液の臭いをかいでみてください。口のなかに手を入れるのに抵抗がある人は、ビニール袋に息を吹きかけ、それをかいでみるというのもいいでしょう。

もし、「排せつ臭」「生ゴミ臭」がしたら、歯周病の可能性がありますので、お近くの歯科クリニックに行って、歯周病の検査をすることをおすすめします。

口臭は、万病の素のアラーム

口臭だけでなく歯周病は、歯を損失する原因になるほか、動脈硬化や心筋梗塞、糖尿病、関節リウマチなどの自己免疫疾患だけでなく、アルツハイマーなどとの関係性も指摘されるなど、さまざまな全身疾患と関係していることがあきらかになっています。

日本臨床歯周病学会のホームページにも、歯周病の人はそうではない人の2.8倍の確率で脳梗塞になりやすいとの記載があります。

歯周病は、深刻になるまで、痛みなどのわかりやすい症状が出にくく、気づきにくい疾患です。ある意味、口臭は歯周病に気がつくためのアラームにもなるのです。

著者プロフィール:亀井孝一朗(かめい・こういちろう)

歯科医師、歯学博士
かめい歯科クリニック院長
大阪大学歯学部卒業。大阪大学歯学部大学院修了。
2016年、三重県名張市で、かめい歯科クリニックを開院。1人ひとりの気持ちに寄り添った治療で、近郊の都市からも多く患者が訪れる。著書に『歯周病になったらどうする?』(アスコム)など。