昭和の終わりから平成初期にかけて、瞬く間に一大ブームとなった人面犬。その名の通り、人の顔を持った犬という謎の生物で、都市伝説として現在でも語られ続けられています。

本記事では人面犬の詳しい特徴や、ブームが広まったきっかけについて紹介。江戸時代のうわさや、人面犬の出ている作品、類似生物についてもまとめました。

  • 人面犬とは

    人面犬とはどのような存在なのか、特徴や都市伝説の内容、ルーツなどに迫ります

人面犬とは?

人面犬とは、その名の通り人間の顔をした犬のことを指します。実在する証拠などは発見されておらず、現在では都市伝説、あるいは未確認生物(UMA)の一種として語られています。

ここでは、人面犬とはどのような存在なのか、ブームの内容や特徴などを詳しく紹介します。

平成初期に大ブームを起こした都市伝説・人面犬

人面犬の噂が大々的に語られるようになったのは、昭和の終わりから平成初期にかけてのこと。具体的には、1989年頃から主に小中学生の子供たちの間でうわさが広がりました。

子供の間で語られるうわさ話や怪談などにも、さまざまなものがあります。学校の七不思議やトイレの花子さんといったうわさ話は誰もが耳にしたことがあるはず。

しかし人面犬は子供たちの間で語られるうわさ話にとどまらず、マスコミなどでも報道されるようになり、大人による目撃談も相次ぎます。

テレビではワイドショーなどの情報番組、オカルト番組などでも紹介され、人面犬は全国的に大きなブームを巻き起こすことになりました。

人面犬の特徴とは? 顔はおじさん?

人面犬はうわさ話として広がったこともあって、特徴にもさまざまなバリエーションがあります。共通しているのは体が犬であり、顔のみが人間であるという外見です。顔の特徴にはいくつかの説がありますが、主に中年男性として語られています。

外見以外の特徴としては、一般的な犬よりもはるかに速く走ることができ、時速100kmで走る自動車を追い抜いていったという目撃談もあります。知能も高く、ゴミをあさっているところを追い払おうとすると「ほっといてくれよ」「うるせえんだよ」「なんだ、人間か」といった言葉を発するともいわれています。

その他の噂では、人面犬にかまれた人も人面犬になってしまう、人面犬に追い抜かれた車は事故を起こす、フンは緑色である、驚異的なジャンプ力を持つといったものもあり、人面犬が登場する怪談話も少なくありません。

このように、外見は不気味でありながらややコミカルな雰囲気もありますが、怪談では邪悪、不吉な存在として語られることもあります。

人面犬のルーツはどこにある?

  • 人面犬のルーツ・発祥とは

人面犬は特定の時期に急速にうわさ話として広がり、マスメディアなどにも取り上げられることになりました。しかし、そのルーツについてはいくつかの説があり、はっきりしていません。

ここでは、人面犬のルーツとされる説の中でも特に有名なものをピックアップして紹介します。

江戸時代には既に人面犬のうわさがあった

前述のように、1989年頃に人面犬のブームが起こったのですが、それ以前から人面犬のような生物に関する伝承はいくつか残されています。少なくとも江戸時代後期には、国学者・平田篤胤(ひらたあつたね)が人間そっくりの顔を持つ犬の目撃談についての記述を残しています。

また、同じく江戸時代後期の考証家・雑学者である石塚豊芥子(いしづかほうかいし)の『街談文々集要』によると、1810年(文化7年)の6月8日に、江戸の田戸町で人面犬が生まれたと書き記されています。

江戸時代当時、まだ治療法が確立されていなかった梅毒について「雌犬と性交することで治癒する」という迷信が広まっており、その結果として人間と犬のハーフである人面犬が生まれたという噂も流れたとされています。もちろん、この迷信には何の根拠ももありません。

犬は、古くから人間にとって身近な動物です。それだけに、怪談やちょっと不気味なうわさ話のネタにされやすいのかもしれません。また犬はしつけやすく、賢いイメージが強い動物であることから、人間に近い存在、つまり人間の顔を持つこともある、と連想されていったという可能性もあります。

フィクション作品に登場する人面犬

江戸時代の伝承に既に人面犬のような生き物が登場していたことは、先ほどご紹介した通りです。その他にも人面犬ブーム以前に、フィクション作品に人面犬が登場しています。

人面犬のルーツではないかとされているものの一つが、数多くのホラー漫画を手掛けているつのだじろう氏が1973年に連載を開始した『うしろの百太郎』に登場する、霊能犬のゼロです。普段は犬の姿をしているものの、時々、人間のような顔になる描写があることから、人面犬のルーツではないかと噂されています。

その他にも、1978年に公開された映画『SF/ボディ・スナッチャー』に人の顔をした犬が登場しており、これも人面犬のルーツ、またはうわさ話のモデルになったといわれています。

これらの説には、いずれも明確な証拠はありません。また2作品とも1970年代のものであり、噂が流行し始めた時代ともズレがあります。そのため、直接的なルーツとは言い切れませんが、1989年頃のブーム時の人面犬像に影響を与えた可能性はあります。

雑誌、ラジオやテレビなどで業界人が広めた?

1989年頃、人面犬の噂が急速に広がった理由にも、いくつかの説があります。特に有名なのは、雑誌『ポップティーン』のライターである石丸元章氏が、雑誌の読者投稿に脚色を加えて人面犬の逸話を掲載したことにより、広まったというものです。

石丸氏は、当時出演したラジオやテレビ番組など、さまざまなメディアで人面犬の噂を語り、それが瞬く間に一大ブームになったといわれています。

しかし、自身が人面犬の噂を生み出したと主張する著名人は他にも複数いるため、どの説が正しいのかははっきりとしていません。おのおのの活動が、互いに影響し合って大きなブームを生んだとも考えられます。

人面犬が登場する作品や、類似の都市伝説

  • 人面犬が登場する作品や、類似の都市伝説

人面犬は広く知られる存在となったこともあり、現在でもさまざまな作品に登場します、また、類似する都市伝説や未確認生物などについても見ていきましょう。

『妖怪ウォッチ』など現代の作品にも登場する人面犬

人面犬は知名度が高い未確認生物であることから、現代の作品などにも登場します。

中でも代表的なのが、人気ゲーム・漫画・アニメである『妖怪ウォッチ』に登場する「じんめん犬」です。その名の通り、人間の顔を持った犬のキャラクターで、口グセは「チクショー!!」。

会社員だった過去を持ち、女性にモテたいがためにさまざまなことに挑戦しますが、いつも失敗してしまう妖怪です。

映画版では遠藤憲一さんが演じたことでも話題になりました。

他の都市伝説に現れる類似生物

人面犬と同時期に登場して大きなブームを巻き起こした生物としては、人面魚が挙げられます。こちらは都市伝説というよりは実在しており、人間の顔のように見える模様を顔に持つ鯉(こい)です。山形県にあるお寺の池で発見され、大ブームになりました。

都市伝説、伝承上の生き物としてはくだん(件)も人面犬と類似しています。くだんは人間の顔を持つ牛として、古くから人々の間で語られています。

オリジナルと思われる要素が追加されているものの、人気漫画『地獄先生ぬ~べ~』にも、くだんが登場しました。

海外の類似生物

海外にも、人面犬に類似した生物の存在がうわさされています。南米には人間の顔をした狼である「ロビスオーメン」または「ロビソン」という生物が知られています。かまれた人間も同じくロビスオーメンになってしまうという伝承もあり、この点も人面犬に類似しています。

また、かの有名なスフィンクスも、顔が人間で体はライオンであり、人面犬と通ずる部分があるとも言えるでしょう。

令和の時代も語られ続ける人面犬

人面犬は、昭和の終わりから平成初期にかけて大きなブームを巻き起こした、都市伝説・未確認生物です。

現在でもそのルーツははっきりしておらず、謎の多い存在として語られ続けています。現代の作品などにも登場することが多いので、そのルーツを自分なりに考察してみると、さまざまな作品をもっと楽しめるかもしれません。