トヨタ自動車がフルモデルチェンジして発売した新型「アルファード/ヴェルファイア」の受注比率が判明した。新型の開発では当初、廃止の方向で検討が進められていたヴェルファイアだが、実際の売れ行きはどうなのか? 開発責任者に話を聞いてきた。
一時は存続の危機を迎えた「ヴェルファイア」
トヨタは2023年6月に新型「アルファード/ヴェルファイア」(以下、アル/ヴェル)を発売した。今回でアルファードは4代目、ヴェルファイアは3代目となる。
アルファードのスポーティー(やんちゃ?)バージョンとして登場したヴェルファイアは一時期、本家をしのぐほどの人気を獲得していたが、先代モデルでは販売台数でアルファードが逆転し、モデル末期に近づくとヴェルファイアの販売比率はかなり落ち込んでいた。それもあって、新型の開発では当初、ヴェルファイアは廃止の方向で(つまり、アルファードに一本化する方向で)話が進んでいたという。
ところが、ヴェルファイア廃止の話が伝わると、トヨタ社内のみならず販売店やユーザーなどからも「絶対に認めない!」との声が殺到。豊田章男現トヨタ会長から「ヴェルファイアは名指しで買ってくれるお客さまがいる。そういうお客さまも大事にしよう」との話もあり、存続が決まったという経緯がある。
今回は新型アル/ヴェルに試乗する機会があったので、現場で販売状況や各モデルの売れ行きを聞いてみた。それによると、受注台数は非公表だが「好調に」売れているとのこと。販売比率はアルファードが7割、ヴェルファイアが3割となっている。新型アル/ヴェルの月間販売目標は8,500台、比率はアルファード約70%、ヴェルファイア約30%とトヨタが発表しているので、狙い通りの販売状況となっているようだ。
チーフエンジニアを務める吉岡憲一さんによると、アル/ヴェルは「1年間に販売できる台数を決めて、それをディーラーさんにお渡しして、大切に売っていただく」という売り方(これをファーム制というらしい。そういえば、新型「プリウス」もそうやって売っているとの話だった)をとっている。その際、あらかじめアル/ヴェルの比率を決めていて、それが7:3なのだそうだ。なので、実際の販売状況が7:3になっているのは驚くことではない。注文が殺到したところで、あらかじめ設定した「1年間に販売できる台数」を超えることはないのだから、両モデルに順調に受注が入れば、割合は自然に7:3になるからだ。
とはいっても、「ヴェルファイアは『ちょっと、どうかな……』(つまり、人気が出ない)という状況になれば、受注比率は30%を割るはずなのですが、そうはなっていません」と吉岡チーフエンジニアも指摘する通り、本来なら廃止の憂き目にあっていたはずのヴェルファイアも、アルファードの足を引っ張るどころか、しっかりと注文を獲得できているらしい。
先代モデルからアル/ヴェルを担当する吉岡さんによると、「ちょっと、やんちゃにしすぎたかも」というのが先代ヴェルファイアの「反省」だったそう。アルファードについても、「やんちゃ度合いが縦軸だとすると、ぐーっときていて(手振りで右肩上がりのグラフを表現しつつ)、先代のマイナーチェンジモデルくらいがピークだったのですが、世の中はけっこう、それに疲れてきたのかな」と思ったという。世の中がそういう流れなのに「新型アルファードがギンギラギンの方向で、怖い顔でいくべきかといえば、そこは変曲点を迎えていたのでは」というのが、吉岡さんの分析だ。今回のアルファードについては「抑揚はしっかりとつけたんですが、メッキのギラギラはだいぶ減らしました」と話す。
ヴェルファイアは廃止の方向だったので、新型アルファードの開発にあたっては、先代ヴェルファイアのユーザーも意識したバージョン「アルファード エアロ」を作ろうと当初は考えていたという。存続が決まったヴェルファイアの新型については、「飛ばし過ぎると先代と同じことになってしまいます。いろいろと調べたり、考えたりした末、意外と、アルファードに近いところにストライクゾーンがあるのではないかと」いう考えに至ったそうだ。
ただし、単なる見た目の違いだけでヴェルファイアを売ろうという話ではない。今回の新型ではユーザーに「運転する喜び」を感じてもらうべく、ヴェルファイアのサスペンション、ステアリングに専用のチューニングを施したり、ボディを補強するなどの差別化を実施して運動性能にもしっかりとスパイスをきかせている。ヴェルファイア専用グレード「Z Premier」には、ほかのグレード(アルファードを含む)では選べない2.4Lターボエンジン搭載モデルを用意。同グレードではフロントに漆黒のメッキを多用してスパルタンな外見を与えるなど、よりアグレッシブで、よりヴェルファイアファンに刺さりそうなキャラづけを行った。
「最初はアルファード一本だったので、まずはそちらをしっかりと熟成できたといいますか、ミニバンの王道をしっかりと作れたので、かえってヴェルファイアのあるべき姿も考えやすくなりました」というのが吉岡さんの感想。販売比率から見ても、開発陣が決めたヴェルファイアの方向性がばっちりはまったのではないかと思える。