昔から、数々の怪談や不思議な話、本当なのかうそなのかわからない都市伝説が、人々の間で語られてきました。その中でも特に有名なものが、口裂け女です。
本記事では口裂け女の特徴やさまざまなバリエーション、対処法を紹介。発祥の地はどこなのか、実在した人物なのかや、なぜここまで広がったのか、江戸時代の伝説についてもまとめました。
口裂け女とは? 都市伝説の内容や特徴を紹介
数多い都市伝説の中でも、口裂け女は特に有名なものの一つです。昭和の時代に登場し、平成を越えて令和の時代になった今でも、巷(ちまた)で語られ続けています。映画やドラマ、アニメなどさまざまなメディア作品に登場することも多く、ある種、身近な存在とも言えます。
ここではまず、そんな口裂け女がどのような存在なのかを、改めて整理していきます。
口裂け女という都市伝説
口裂け女はテレビや新聞、雑誌などのメディアに取り上げられることもありますが、基本的には子供たちを中心にうわさ話として広がっていった都市伝説です。
このうわさ話が口頭などで広がる過程で、口裂け女にはさまざまな特徴やバリエーションが生み出されたと考えられます。
口裂け女の話は、日本における最初の都市伝説だともいわれています。
口裂け女の特徴
前述の通り、口裂け女はうわさ話として広がったこともあって、特徴にもさまざまなものがあります。地域によって特徴が異なることもありますが、共通しているのは大きなマスクをした女性であり、子供に対して「私、キレイ?」と質問をするという点です。
口裂け女からの質問に対する返答によって、行動が変化するという点も共通しています。「はい」と答えた場合、マスクを外し、耳まで裂けた口を見せながら「これでも?」と再度問いかけてくるという話が定番です。
そして「きれいじゃない」と答えると、切り殺されてしまうとうわさされています。
口裂け女の耳まで裂けた口は、整形に失敗したことによるもので、そのことから多くの人間に恨みを抱いているといわれています。
姿形の特徴としては他にも「長い黒髪」「夏でもコートを着ている」「長身」といった形で語られることが多いですが、地域や時代などによって多少変化します。
口裂け女のバリエーション
口裂け女にはとても多くのバリエーションが存在しています。
近年では、映画やドラマなどのフィクションとして新しい解釈が加えられる、意図的に変化させられるというケースもありますが、バリエーションの多くは、うわさ話として広がる過程で尾ひれがついて誕生したものと考えられます。
口裂け女の設定のバリエーションはとても豊富で、100mを3秒または6秒台で走ることができる、鎌を持っている、スポーツカーに乗っている、まずは夢の中に出てくるなど、身体能力や持ち物、登場の仕方にもさまざまなパターンが存在します。
ポマード、べっこう飴が弱点といわれている
都市伝説では、口裂け女に遭遇すると殺されてしまう、口裂け女と同じようにハサミで口を裂かれてしまうなどと語られるケースが多いです。同時に、このような危機を回避する方法もいくつか存在するとされています。
特に有名なのが、「ポマード」と3回唱えるというもの。口裂け女がポマードを嫌う理由には諸説ありますが、特に多く語られているのが、口裂け女が生まれた原因となった整形手術失敗時の執刀医が、ポマードをつけていたからというものです。
手に「ポマード」と書いて見せる、ポマードの瓶を直接投げつけるなどの対処法も語られています。
もう一つの回避方法がべっこう飴を渡すというもの。こちらも明確な理由や由来ははっきりしませんが、一般的にべっこう飴が口裂け女の好物であるためといわれています。
このようにポマードに対してトラウマを抱いている、べっこう飴という好物があるという点から、口裂け女は幽霊や妖怪というよりも、実在する人間であるという前提でうわさが広がっていったと考えることができるでしょう。
口裂け女の発祥地はどこ? どうやって広まった?
口裂け女は昭和に登場した都市伝説の一つです。このような都市伝説には必ずどこかにルーツがあります。ここからは、口裂け女のルーツやどのように全国へと広がっていったのかを紹介します。
口裂け女の都市伝説は、1970年代に岐阜県で誕生した?
口裂け女のルーツにも諸説ありますが、中でも特に有力なのが岐阜県発祥説。1978年の暮れ、岐阜県の八百津町で農業を営む高齢の女性が、口が耳まで裂けた女性、つまり口裂け女を庭先で目撃したことが始まりだとされています。
「口が耳まで裂けた」という衝撃的な特徴もあり、子供たちの間で瞬く間にうわさは拡散されていきました。当時、まだネットやSNSなどはない時代ですが、翌1979年の初めには岐阜県内の新聞などでも取り上げられるほど、大きな話題となっています。
そして最初は岐阜県内のみで語られるうわさ話でしたが、1979年半ば頃には青森や鹿児島まで、つまりほぼ全国に広がっていったとされています。
口裂け女は実在した?
口裂け女はあくまで架空の存在、都市伝説として語られています。しかし上記のうわさが広がっていた1979年6月には、口裂け女を模倣し包丁を手にした女性が、兵庫県姫路市内を徘徊(はいかい)して逮捕されるという事件が発生しています。
この模倣犯の登場以外にも、口裂け女は当初、単なる都市伝説や怪談の類いではなく、実在する不審者情報として取り扱われるケースも少なくありませんでした。実際に対策として、警察によるパトロールや、集団下校が行われた地域もあったのです。
このように幽霊や妖怪とは違い、口裂け女は実在するものとしてうわさが拡散されていきました。
メディアとは別のルートで広がった口裂け女伝説
口裂け女の都市伝説は前述のように、1978年の暮れ以降、翌1979年半ばには全国に広がっています。現在、うわさ話はSNSなどを介して一瞬にして世界中に拡散されますが、口裂け女が登場した1970年代には当然ネットなども普及しておらず、うわさ話が全国に広がるには時間がかかりました。
それにもかかわらず、口裂け女のうわさが急速に広がった理由の一つとして考えられるのが学習塾です。当時日本では、塾通いをする子供が急速に増加していました。
塾には学区を越えてさまざまな地域の子供が集まります。これまで、子供のうわさ話は学校内・学区内のみで拡散されてきました。しかし、学習塾で学区外の子供と話をする機会が増えたこともあって、より急速に広がったと推測することができます。
1979年以降は、口裂け女のうわさが週刊誌などのメディアでも報じられるようになりました。しかしメディアとは別のルートで、口頭によりうわさが広がったこともあって、多くの派生が生まれ、よりこの都市伝説の不気味さが増していったと考えることもできます。
口裂け女のその他のルーツ
前述した岐阜県での発祥説の他にも、口裂け女のルーツとされる説があります。一部を紹介します。
うわさの波及速度などの実験説
口裂け女の都市伝説は、意図的に流されたものであるという説があります。これは自衛隊がうわさや口コミについて、速度などの波及傾向を調べるための実験として、口裂け女のうわさを流したという説です。
この説には具体的な根拠や目的などは語られておらず、信ぴょう性は不明ですが、口裂け女の都市伝説の一つとして現在も語られています。
口裂け女は古くから存在する妖怪?
口裂け女は1970年代に登場したのではなく、より古くから存在する妖怪であるという説もあります。
江戸時代の怪談集『怪談老の杖』、そして『絵本小夜時雨』という読本には、口が耳まで裂けた妖怪が登場しており、これを現代風にアレンジした怪談話が口裂け女であるともいわれているのです。
これらの本の中では、妖怪を見た人は亡くなったり、気を失ったりしています。
長い歴史を持つ口裂け女の都市伝説
口裂け女の都市伝説は昭和に誕生し、令和となった現在でもたくさんの人の間で語られ続けています。
さまざまな背景やルーツ、変遷などにも注目してみると、都市伝説のまた新たな一面を見つけることができるかもしれません。