マネ―スクエアのチーフエコノミスト西田明弘氏が、投資についてお話しします。今回は、米国の金融政策について解説していただきます。


7月24日の週は、中央銀行ウィークと呼んでもいいでしょう。米国の中央銀行にあたるFRB(連邦準備制度理事会)が金融政策を決定するFOMC(連邦公開市場委員会)を開催するのが25-26日。同じくECB(欧州中央銀行)理事会の開催が26-27日。そして、BOJ(日本銀行)の金融政策決定会合が27-28日に開催されます。結果の判明は、FOMCが日本時間27日の午前3時、ECB理事会が同午後9時15分、そして金融政策決定会合が28日の正午前後です。

このところ、多くの国・地域でインフレ率のピークアウトの兆候がみられます。高騰していた食料やエネルギーの価格下落に引っ張られて、CPI(消費者物価指数)総合の伸びが鈍化しているだけでなく、それらを除いたいわゆるCPIコアも頭打ち傾向がみえてきました。そうした中で、多くの中央銀行が昨年から続けてきた利上げの打ち止めを模索しているようです。

以下では来週の金融政策会合の注目点を挙げておきます。

FOMCは追加利上げの可能性を示すか

金融市場は0.25%の利上げをほぼ確実視しています。次回9月の会合は政策変更なしとの見方が強く、その次の11月までをみても、追加利上げは3割程度しか織り込まれていません。つまり、金融市場が織り込むメインシナリオは、今回7月の利上げで打ち止めというもの。そして、24年3月ごろから利下げが開始されるとの見方が有力です。

FOMC後に発表される声明文や、その後のパウエル議長の記者会見では、9月以降の利上げにも含みを残すと思われます。また、利下げへの転換にはかなりの時間がかかるとして、金融市場の見方(期待?)をけん制するのではないでしょうか。それとも、FOMCが金融市場の見方に寄せるでしょうか。仮に前者だとしても、金融市場がFOMCからのメッセージを真に受けるかというと、最近の経験に基づけば甚だ疑問ですが……

ECB理事会ではタカ派の発言力が強まるか

ECB理事会は、経済情勢の異なる多くの国からメンバーが参加するため、コンセンサスを形成するのは通常でも至難の技でしょう。今回は、インフレ抑制のために利上げを続けるべきと考える、いわゆる「タカ派」と、景気にも配慮して利上げには慎重になるべきと考える「ハト派」の議論が白熱しそうです。第1次大戦後にハイパーインフレを経験したドイツやその周辺国出身のメンバーにはタカ派が多く、財政赤字などのユーロ圏基準の順守に苦しむ南欧の出身メンバーにはハト派が多い印象です。

今回はECB内部で0.25%利上げを実施することはほぼコンセンサスになっているようです。次回9月以降は「今後の経済データ次第」というのが建前になっていますが、ユーロ圏では、米国ほどインフレのピークアウト感がないため、タカ派は本音では利上げを推し進めたいのではないでしょうか。理事会後の会見で、ラガルド総裁が政策決定に関してどんな説明をするのか、興味深いところです。

日銀決定会合でYCC修正に向けた地ならしがあるか

日銀は他の主要中央銀行と異なり、大規模金融緩和を続けています。日本のCPIは6月分が前年比3.3%上昇と、すでに日銀の目標である2%を上回っています。しかし、植田総裁はそれを一時的と判断しており、物価が持続的・安定的に目標に達していないので、金融緩和を継続するとの姿勢を堅持しています。

もっとも、金融緩和策の重要な柱の一つであるYCC(イールドカーブ・コントロール=長短金利操作)について、市場機能を歪めるなど持続性に乏しいとの認識を日銀は持っているようです。4月会合後の声明では、「金融政策運営について、1年から1年半程度の時間をかけて、多角的にレビューを行うことにした」と宣言されました。ただし、植田総裁は、レビュー期間中でも必要があれば金融政策を修正する旨の発言をしています。

金融市場では、YCC修正の予想が根強くあります。7月18日のG20財務相・中央銀行総裁会議のあとの会見で、植田総裁は「物価見通しが変わらない限り、金融緩和を維持する」と述べ、金融市場の期待に冷や水を浴びせました。それでも、金融政策決定会合後に公表される「経済・物価見通しの展望(展望レポート)」で23-25年の物価見通しが前回4月から上方修正されるようなら、YCC修正が近いとの思惑が再度浮上するかもしれません。