NTT東日本 山梨支店が構成員として参加している山梨DX 推進支援コミュニティは、山梨県地域DX推進協議会と共同で、DX推進について考える記念講演会を7月13日に開催した。

本講演会で実施されたNTT DXパートナー代表取締役の長谷部豊氏による記念講演や、パネルディスカッションのもようを紹介していく。

■従業員と顧客の体験価値という好循環を生み出すDX

山梨県内の金融機関、IT企業などを中心とした民間企業、経済団体、商工会議所、商工会など全14団体が運営する県内中小企業のDX推進を支援する山梨DX推進コミュニティ。同コミュニティと山梨県地域DX推進協議会が共同で企画した今回の講演会には、県内の中小企業の経営層なども参加し、講演とパネルディスカッションの2部構成での開催となった。

第1部ではNTT DXパートナーの長谷部氏を講師に、「これからの経営に求められるDX戦略 ~地域企業が取り組むべきDXとは~」と題した記念講演が実施された。

長谷部氏は1998年にNTT入社し、数多くの企業向けシステム開発、新規事業開発を手掛け、2022年にNTT DXパートナー設立と同時に代表取締役(現職)に就任。山梨DX推進支援コミュニティのリーダーとして、地域企業のDX推進に尽力している。

近年DXが注目されている背景について、長谷部氏はデジタルテクノロジーの進展に伴い、消費行動・競争環境・産業構造という3つの変化が起きていると紹介。データやデジタル技術を活用し、顧客の新たなニーズを捉える重要性が高まっていると語った。

「この3つの変化の共通点は、あくまでも顧客が起点となっているということです。顧客には生活者、取引先の企業さんなども含まれますが、データやデジタル技術を活用することで、顧客・社会に対して新しい価値を創造し続けられる組織体制に変えていく。業務のプロセスや企業文化・風土を変えていく。これがDXの本質的なポイントとなります」

とくに中小企業では近年、デジタル技術によって顧客の変化に対応することが、商品サービスの付加価値を向上につながり、適切な価格転嫁を実現しやすくなるといった期待もDX推進の原動力となっているようだ。

「DXと言うと社内の業務効率化のために情報システムを入れるIT化の高度版というイメージを持たれる方も多いと思います。あるアンケート結果ではDXに期待する効果としては、やはり業務効率化・コスト削減がダントツです。DXでは従来の延長で業務効率化とコスト削減というこれまでのIT化も当然やっていくのですが、DXによって独自の価値を磨き、差別化された価値を顧客に届けていくことがDX推進のひとつの力点となっています」

長谷部氏は県内企業におけるDXの先行事例なども紹介しつつ、人的資本経営の観点からもDX推進の必要性を訴えていた。

「デジタル技術・データを活用して、お客様との接点をより良いものにしていくという観点でDXの本質をお話してきましたが、一方でDXは従業員を支えるものです。従業員が生き生きと働ける環境をつくることで、EX(従業員体験)が向上し、その先にあるCX(顧客体験)価値も高まる。DXはこの2つの好循環を生み出すエンジン・トリガーになり得る取り組みかと思います」

■2年がかりで500人規模のDX人材を育成する計画も

第2部では「山梨県の地域DX推進について」というテーマでパネルディスカッションが行われ、長谷部氏のほか山梨中央銀行常務取締役・田中教彦氏らがパネリストとして登壇した。

昨年7月25日に発足が発表された県内の中小企業DX推進を後押しする山梨DX推進コミュニティについて長谷部氏は、その活動状況や設立経緯を次のように説明した。

「今日のようなDXのセミナーや勉強会は結構あるのですが、各社さんそれぞれ業種も違えば会社の成長ステージも違います。当然、課題や悩みも違うというなかで個社ごとの状況を丁寧にヒアリングし、実際にご相談に乗りながらオーダーメイド型の支援できる環境づくりの必要性を感じたことがきっかけでした」

チーム山梨で県内企業がフラットで安心して相談できる環境を実現したいとの思いから、商工会や商工会議所、山梨中央銀行、地場のIT企業が参画する同コミュニティ。発足から約1年で県内企業向けDXセミナーを10回開催し、県内企業111社から個社別の相談が寄せられてきたという。現在は41社に個別相談、課題の整理や詳細の提案を継続して行なっているそうだ。

補助金の活用や融資など面では金融機関や行政の役割も重要とのことで、山梨中央銀行の田中氏は、現状の具体的な取り組みなどについて述べた。

「DXは流行り言葉にもなっていますが、実態をしっかりと捉えて地に足をつけて取り組むことが重要です。経営の3要素であるヒト・モノ・カネにおける地道な取り組みで、我々としてはお客様と共に課題を明確化し、整理することができる人材育成を第一に考えています。2年をかけて500人程度の人材を育成し、各現場でそれぞれ5~10人程度のメンバーでお客様の課題の抽出や整理をお手伝いさせていきたいと思っています」

会場の参加者からの質疑では、実際に同コミュニティへ相談・依頼した場合に発生する費用や労力など、具体的なコストに関する質問もあり、長谷部氏は次のように回答していた。

「例えば最初に1時間ほど個別にお話させていただき、2回3回4回と少しずつポイントを絞り込みながら、ご相談を進めていくことになります。課題の洗い出しやDX推進の道筋を示すところまでは特に費用はいただいていません。最後の部分で業務プロセスをすべて洗い出し、ドキュメント化・整理していくといったタスクが発生する段階で、コミュニティ側のお手伝いをご希望される場合は事前に費用をお伝えし、ご提案させていただきます」

また、デジタル実装の部分で事前に見積もりを出すかたちで、ツールの導入やシステム化を提案するフェーズもあるとのことだが、DXに向けてまずは一歩を踏み出すことの大切さを語っていた。

「本当に門戸を開いてオープンにお待ちしていますが、そもそも何を質問・相談していいかわからないということが結構あります。『こんなこと質問していいのかな?』といった感じで、実際にDXとは違う相談だったということもありますが、それは全く構いません。まずはお気軽に相談していただければと思います」(長谷部氏)

山梨県地域DX推進協議会では、今年11月10日と11日の2日間にわたり、山梨県最大のものづくりと情報通信の商談展示会「山梨テクノICTメッセ2023」も開催予定とのことだ。