研究チームは今回、リピートRNAを原因とするALSおよびFTDの治療法開発に向け、異常なポリペプチドを合成する翻訳機能を制御することで、その発症を抑える方法を考案し、検証を行ったという。

はじめに、異常なポリペプチドを合成するリピート遺伝子をショウジョウバエに導入し、神経変性を起こすALSおよびFTDのモデルショウジョウバエを作成。同ハエは異常ポリペプチドの投与により複眼に神経変性を発現することや、異常なポリペプチドの合成を確認したとする。

続いて、異常なリピートRNAに結合することが知られる18種類のタンパク質に着目し、それらを投与することによる神経変性への影響をスクリーニングしたとのこと。その結果、FUSというたんぱく質を持つショウジョウバエと掛け合わせることで、異常ポリペプチドの産生が大きく減少し、複眼の神経変性が抑制されることが確認された。

  • 疾患モデルショウジョウバエの異常なポリペプチドの合成や複眼の編成が、FUSを投与することで改善された。

    疾患モデルショウジョウバエの異常なポリペプチドの合成や複眼の編成が、FUSを投与することで改善された。(出所:近畿大学)

このことから研究チームは、異常なリピートRNAに結合することで翻訳を抑制して異常ポリペプチドの量を減少させ、同モデルショウジョウバエの神経変性を抑制することを明らかにした。さらに、FUS以外の一部のタンパク質についても、同様にリピートRNAと結合することにより異常ポリペプチドが減少し、治療効果を発揮することを証明したとしている。

近大の永井教授は、家族性のALSやFTDの原因として最も多くの割合を占める繰り返し配列異常による神経変性について、リピートRNAからの異常ポリペプチド産生を抑えることで治療が可能だと解明した点が重要だとする。またその抑制に役立つ物質としてFUSは一例にすぎず、今後は化合物の形で同じ役割を果たす物質を見つけることで、医薬品などの形で治療法を開発できる可能性があるという。

また近年の研究により、今回焦点があてられた異常な長さの繰り返し塩基配列が原因となって発症する神経疾患が、次々に発見されているという。さらに毎年のように同様の疾患が新たに見つかっているとのことで、今回の研究成果はそれらの治療法確立にも役立つ可能性があるとしている。

  • 近畿大学の永井義隆教授。

    近畿大学の永井義隆教授。(出所:近畿大学)