中国・Mobvoiが販売する「TicWatch」シリーズは、Wear OS by Googleを搭載したスマートウォッチだ。今回は5月に発売されたハイエンドモデルにあたる「TicWatch Pro 5」をお借りできたので、その使い勝手をレポートしよう。
Wear OS搭載のハイエンドスマートウォッチ
Mobvoiは2012年に元Google従業員が設立し、Wear OS by Google(旧称Android Wear)を採用したスマートウォッチ「TicWatch」などのスマートデバイスを展開しているメーカーだ。日本ではAmazon.co.jp、楽天市場、Yahoo!ショッピングに公式ショップがある。
今回紹介する「TicWatch Pro 5」(以下、「Pro 5」)は、「TicWatch」シリーズのハイエンド機に位置付けられる「Pro」ラインの最新モデルだ。以前、エントリーモデルの「E」ラインにあたる「TicWatch E3」(以下、「E3」)を紹介したが、「Pro」ラインはより本格的なアウトドア・スポーツユースに適応できる上級モデル。具体的な違いは本文中で紹介するが、センサー類の強化や強力な防水性能などが特徴に挙げられる。
「Pro 5」の本体サイズは幅48mm×高さ50.1mm×厚み12.2mm。重さは約44.3gと、「E3」(幅44mm×高さ47mm×厚み13mm、重さ約32g)と比べるとやや大きく重い(装着していても違いは感じられないが)。本体ケースはステンレスと7000シリーズのアルミ、高強度ナイロンとグラスファイバー製で、スクリーンにはコーニングのゴリラガラス(指紋防止)を採用。この辺もポリカーボネート&グラスファイバー製だった「E3」より高級感がある。また「E3」はベゼルが厚めでちょっと野暮ったい感じもあったが、本機はベゼルもそれほど厚くなく、デザインは男性的ではあるものの、いい意味で無難で落ち着いた感じだ。
ディスプレイは直径1.43インチ(=約36.3mm)の円形で、解像度は約326ppi。Proシリーズの特徴として、ユニークな二重構造のディスプレイを採用しており、上に透過型(FSTN)の超省電力ディスプレイを、下にOLEDディスプレイという構造になっている。通常は時計表示を上の透過型ディスプレイが担っており、Wear OSが動作する時には下のOLEDディスプレイが点灯し、透過型ディスプレイがオフになる仕組み。
操作ボタンは本体右側面に2つ縦に並んでおり、中央にクラウン(竜頭)、その上にボタンという配置。残念ながらWear OSの制約で画面を回転して左利き用(右腕に装着)にはできない。
クラウンはApple Watchでもお馴染みの操作方法だが、押し込むことでメニューとホームスクリーン(時計表示)を切り替えられ、回転させることで画面のスクロールや、マップでは拡大縮小をスムーズに行える。タッチ操作と比べると、遙かにスムーズで快適だ。
上のボタンは単独で最近使ったアプリの履歴を表示し、長押しで電源のオン/オフと再起動画面が表示できる。クラウンとボタン、どちらもダブルクリックするとGoogle Walletが表示される。本機自体はNFCに対応しており、Google Payの支払い機能もあるのだが、残念なことに日本ではまだWear OSでGoogle Payが利用できないため、宝の持ち腐れになってしまっている。
防水は5気圧防水/MIL-STD-810Hで、屋外での水泳にも対応している。「E3」の「IP68」(防塵/水深1m以上で30分以上)とは規格が違うので一概に比較はできないが、基本的には「E3」よりも高い防水性能を持ち、水場での使用、例えば沢登りやトライアスロンの水泳といった、アウトドアスポーツに利用できると考えていいだろう。
心臓部にはQualcommのウェアラブル端末専用に設計された最新のチップセット「Snapdragon W5+Gen 1」を採用。「W5+」はコアになる「SW5100」SoCと、AON(Always ON)コプロセッサ「QCC5100」を搭載しているモデル。「E3」が搭載していた「Snapdragon Wear 4100」と比べると、消費電力は約半分、処理能力は最大で2倍になったとされる。メモリもRAM2GB/ROM32GBと、「E3」(RAM1GB、ROM8GB)からパワーアップしている。
AONコプロセッサは心拍数センサーや活動計などの処理を担当するもので、このおかげでバッテリー駆動時間が大幅に向上する。ちなみにWi-FiやBluetoothもコプロセッサ側で扱えるようになったので、スマートフォンとの接続等も省電力で行えるようになっている。
搭載しているセンサー類は、加速度センサー、ジャイロセンサー、HD PPG心拍センサー、SpO2センサー、低遅延オフ-ボディセンサー、皮膚温度センサー、気圧計、コンパス。「E3」と比べると後ろ3つのセンサーが追加されている。特に気圧計やコンパスは、登山などで活躍する機会が多いだろう。
位置情報は「E3」のGPS(米国)、GLONASS(ロシア)、北斗(中国)に加え、ガリレオ(欧州)、QZSS(日本)の5種類の衛星システムが利用可能。携帯電波が届かない場所でも正確なトラッキングが期待できる。特に日本国内であれば「QZSS」(みちびき)が利用できるので、高度な位置情報の取得が可能だ。ただ、本体サイズもあってアンテナが小さいせいか、屋内では位置情報の取得にやや時間がかかるケースも見られた。
通信機能は2.4GHz帯のWi-Fi 4(IEEE802.11n)とBluetooth 5.2で、単独でのキャリア接続機能は備えていない。スマートフォンとはBluetoothで接続され、TicWatch内蔵のマイクとスピーカーを使って通話もできる。価格帯的にも、そろそろ単体でのキャリア網接続機能を備えてほしいところだ。
バッテリー容量は628mAhで、「E3」の380mAhと比べて容量は約1.65倍に増強。駆動時間は各種トラッキングを有効にした「スマートモード」で80時間、時刻表示など最小限の機能に絞った「エッセンシャルモード」では最大45日と、「E3」(スマートモードで1日半程度)と比べると、大幅に強化された。さらに、装着中に睡眠をとるか、30分以上手首から離したときは自動的にエッセンシャルモードに切り替わる「スマートエッセンシャルモード」を搭載しているので、ユーザーはほとんど意識することなく、利便性とバッテリー寿命を両立できる(標準でこのモードになっている)。実際に試したところ、約3日間ほぼ着けっぱなしで睡眠トラッキングなどを利用しても、バッテリーは約20%程度残っており、これなら睡眠トラッキングにも常用できると実感した。
充電は背面にある専用の電源ポートを通じて行う。ケーブルは磁力で装着できるようになっており、電極の向きを間違えて装着することはないだろう。ポートの形状は「E3」と同じなので、シリーズを更新しても充電ケーブルが無駄になることはない。非接触充電には非対応だが、代わりに充電速度も十分速く、特に20%程度から90%程度までは1時間もかからずに充電されるので、日頃は入浴中などに充電していれば、まったく問題ないだろう。
ソフトウェア:独自アプリで管理
TicWatch Pro 5が搭載する「Wear OS by Google」のバージョンは3.5。Googleが開発し、同社の「Pixel Watch」や、Mobvoiをはじめとした各社のスマートウォッチに採用されているOSの最新版だ。
Wear OSの特徴は、AndroidベースのOSであり、Wear OS用のアプリが開発できる点だ。例えばGoogle Mapはスマートウォッチ上にマップも表示できるので、いちいちスマートフォンを出さなくても現在地や周辺の地形・道を確認できる。こうした特徴はApple WatchのwatchOSとWear OSだけのものだ。
また、TicWatchでは心拍数や血中酸素濃度といった各種バイタルデータ、歩数などの活動データが記録できるが、こうしたデータの確認もTicWatch上のアプリから取得できる。
ちなみに、Wear OSのバージョン2.xでは、セッティングには「Mobvoi」アプリを使い、スマートフォンとの連携はGoogle純正の「Wear OS」アプリで連携していたが、Wear OS by Google 3.5では、スマートウォッチ各社が開発するアプリで設定と連携を行うようになり、「Pro 5」では前述した「Mobvoi Health」アプリを使用する。筆者は最初これに気付かなかったため、接続できずに戸惑ってしまった。以前のバージョンを使っていた人は注意されたい。
TicWatch Pro 5で取得した各種バイタルデータは「Google Fit」との連動もできるのだが、これにはGoogleの「ヘルスコネクト(ベータ版)」のダウンロードが必要になる。また、以前は「Wear OS」アプリがiOSにもあったのだが、残念なことにWear OS 3.5ではiOSへの接続ができなくなり、事実上Android専用になっている。
この辺はGoogleの戦略の問題であり、TicWatchに責任はないのだが、バージョンが変わるたびにコロコロと仕様が変わるのは、正直言って不便。このあたりはWear OSの魅力を減じているように感じられる。今年、次期OS「Wear OS 4」が登場する予定だが、様々な問題が改善されていることを期待したい。
「Pro 5」の価格は4万9,999円と、「E3」(実売で2万3,999円)と比べると高額だが、ハードウェアの差を考えると、割高感は感じられない。競合するGalaxy Watch5 Proが約7万円であることを考えると、むしろリーズナブルだと言っていい。
サクサクと軽快な動作、実用的なバッテリー駆動時間、多彩なセンサー類による活動計としてのポテンシャル、アウトドアでの利用に耐えるタフな造りなど、高い汎用性を持つ1台だ。Androidユーザーでアウトドアに強いスマートウォッチを探している人にお勧めしたい。