(著者・インテル株式会社 執行役員 経営戦略室長 大野誠)

インテルは現在、55年の歴史で極めて重要なビジネス・トランスフォーメーションに着手しています。パット・ゲルシンガー(Pat Gelsinger)CEOが2021年より掲げたIDM 2.0戦略として、プロセス技術のリーダーシップ復権、外部ファウンドリーの製造能力の利用拡大、そしてインテルの製造能力の増強による世界規模のファウンドリー事業の確立を進めています。

  • 2021年、「IDM 2.0」戦略を発表するパット・ゲルシンガー(Pat Gelsinger)CEO

ファウンドリー事業の並外れた可能性

グローバル全体で続く半導体需要は、長期にわたる持続的な成長機会を示し、チップ製造業の10年後の売上高は1兆ドルに達すると見込まれています。これは前例がないほどのインテルにとっては大きなチャンスです。一方で世界のチップ製造力の80%はアジアに集中し、ファウンドリー事業のお客様からはもっと豊富な選択肢が求められています。

この産業には、回復力の高い、多様性に富んだグローバルに広がるサプライチェーンが不可欠です。インテルは現時点で、世界にわずか3社しかない最先端チップを製造できる企業の1社であり、インテル ファウンドリー・サービス(IFS)が設立されるまで、商用ファウンドリーを提供していないのはインテルだけでした。IFSは、最先端を走るインテルの製造力、偉大なサプライチェーン、強力なパートナー・エコシステムを有効活用することで、2030年までに世界第2位のファウンドリー事業に拡大するという意欲的な目標を掲げています。

その目標を達成に推進すべくインテルは先日、新たな社内ファウンドリー事業モデルへの移行を発表しました。新たな事業モデルにおいて、インテルの製品事業部門は、ファブレス半導体企業が外部のファウンドリーと連携するのと同様の独立した方式で、インテルの製造部門との関係を構築していくことになります。この取り組みを通じて利益率を過去の水準へと回復させ、これまで以上に広範な世界中の顧客へのチップの提供を目指します。

  • IDM 2.0戦略のもと、インテルは現在、世界規模のファウンドリー事業の確立を進めている

差別化を図るインテルのアプローチ

そもそも、IFSは従来のファウンドリー・サービスの枠を超えて、世界初のオープン・システム・ファウンドリーとして確立し、標準的なモノリシック(単一チップ構造)のシステム・オン・チップ(SoC)設計から、パッケージ内「システム・オブ・チップ」へと、業界の転換をリードしていくことを目的に設立されました。インテルが提供するウエハー製造高度なプロセス技術と、パッケージング技術チップレットの標準規格、ソフトウェア、強固なエコシステム、組み立てとテスト能力のすべてが組み合わされたサービスによって、お客様は革新的なシリコンを設計し、完全にエンドツーエンドのカスタマイズ可能な製品を開発することが可能になります。

IFSはこれまでに様々な戦略的エコシステム・パートナーとの提携を進めています。この4月にはArmと、インテルのテクノロジーを基盤に低電力コンピューティングのシステム・オン・チップ(SoC)を構築するチップ設計者のサポートを目的に、複数世代にわたる協業の合意を発表しました。その他、Amazon、Cisco、米国防総省(DoD)が、インテルのパッケージング・ソリューションを採用しており、それらが求める要件は、最先端技術を実現する国内の先進ファウンドリーとかつてないレベルのパッケージング能力です。

  • 世界中のインテルのグローバル拠点は、統合された製造施設ネットワークの運用により、柔軟な供給能力を実現する

新たな社内ファウンドリー事業モデルによる価値の向上

インテルが掲げる新たな社内ファウンドリー事業モデルへの移行は、数十億ドルのコスト削減の枠を超えた独自の多大な影響とビジネス価値をもたらすと考えています。具体的には、この転換により、2023年に30億ドル、2025年までに年間80~100億ドル超を目標とした複数年にわたるコスト削減を進め、非GAAPベースで粗利益率60%とする長期目標の達成を目指し、さまざまな分野での多大な効率化と収益性の大幅な向上を見込んでいます。

市場ベースの価格設定を社内の製品事業部門にも適用し、社外の顧客企業と同様の供給の確実性と安定性を提供していきます。また新しい事業モデルは、インテル社内からの受注量によりIFSが業界第2位となるファウンドリーの規模を効果的に確立し、社外の顧客企業がインテル社内の製造能力の規模を活用できるだけでなく、新プロセス採用時のリスクも低減できるメリットももたらします。

インテルの製造部門は、外部ファウンドリー・サービス企業と等しく市場力学に基づき、製品のパフォーマンスと価格で販売量を競う必要があります。ここには、今後、外部ファウンドリーの活用を柔軟に検討できる立場になる顧客としてのインテル社内の製品事業部門も含まれます。実際、インテルではこれまでも外部ファウンドリーの活用を行っており、現在、インテルのシリコン製品の約20%は外部ファウンドリーにより製造されています。

IFSを後押しする新たな事業モデル

顧客となるインテル社内の製造量を通じて、ファウンドリー事業を世界第2位へと効果的に成長を図る取り組みは、IFSの事業を規模と製造の両面で後押しします。まず、社内の事業部として確立された製造組織が収益管理の決定権を有するため、社外の顧客に対して製造能力と供給量を明確に配分できるようになります。

また、社内ファウンドリー事業モデルにより製造部門の独立性が強まり、製造部門が製品事業部門と対等な当事者として事業展開することになるため、IFSを利用する顧客のデータや知的財産(IP)をインテルから完全に切り離すことができます。

また、顧客企業が世界最高水準のファウンドリー・サービスを期待している点も重要です。インテルは、社内ファウンドリー事業モデルへの転換を進める中で、主要プロバイダーとしてファウンドリー事業を運営するために不可欠なサービス指向の考え方を確立しています。インテルの製造部門とIFSはそれぞれが業界の同業他社をベンチマークとして比較を行い、インテルがファウンドリーに求められる業界最高水準のサービスレベルを円滑に提供できるようにします。

インテルは、ファウンドリー・サービスのお客様から求められる未来の需要にも対応できるよう態勢を整え、グローバル規模の製造力の拡大アプローチにより、米国内に限らず、欧州、イスラエルと、製造施設の拡大に資本を投入しています。ファウンドリー・サービスのお客様を支える工場設備を整えることで、世界中で高まる最先端チップへの需要に応えると同時に、最先端テクノロジーへの投資継続に必要な規模を実現することもできます。

  • 2020年にアリゾナ州で稼働したインテルの最新工場「Fab 42」。大規模の投資によって、ファブを新設するなど製造能力の拡大を進めている

  • こちらはオハイオ州で計画している新たな最先端半導体製造施設のイメージ。2025年操業を計画しており、インテルの自社製品だけでなく、ファウンドリ事業(受託生産)の需要にも対応する

これから先の道筋

最後に、現在、5つ以上の社内製品がインテルの最先端18Aプロセス テクノロジーに基づいて開発されており、2025年に市場に投入される予定です。このプロセス・ノードは、最初にインテル事業部向けで量産をします。そのことでプロセス技術の成熟化に繋がり、その結果、外部のIFS顧客にとって新しいプロセスの導入リスクが大幅に軽減されます。

社内ファウンドリー事業モデルの確立は、事業運営を抜本的に変革し、インテルがIDM 2.0戦略を推進する上で重要なステップの1つになります。また、企業文化と行動様式の変容を促す体制やインセンティブになります。インテルは、業界標準の計画工程やデータ管理戦略、システムとツールを活用し、世界最高水準のIDM、そしてファウンドリー・プロバイダーとしての基盤を構築しています。さらに、製造部門としての独立採算の責任と、それに伴う透明性と説明責任が、インテルの80~100億ドルのコスト削減と長期的な収益目標の達成に向けた原動力になります。結論として、社内ファウンドリー事業モデルは、インテルのIFS戦略を強力に後押しします。

  • インテルのプロセス テクノロジーのロードマップ。すでにIntel 4は製品サンプルの提供を開始しており、Intel 20A/18Aについてもテープアウトしていて、社内のテストチップとして稼働中とされる。また、ファウンドリー事業として、Intel 18AではARM社との契約も発表している

先進的な企業の取り組みをひろく読者の皆様に紹介するため、寄稿記事を掲載しました。

インテル株式会社 執行役員 経営戦略室長 大野誠

◆著者・インテル株式会社 執行役員 経営戦略室長 大野誠

2000年インテル株式会社入社。営業本部、マーケティングマネージャー、OEM営業部長を経て、2014年より執行役員。IOT&Compute営業本部長、オートモーティブセールスグループ アジアセールスディレクター、新規事業推進本部長を歴任した後、経営戦略室 室長に就任