「慇懃無礼な人」といえばどんな人物を想像するでしょうか。「慇懃無礼」について何となく良くない意味であることは理解していても、具体的に説明することは難しいかもしれません。
本記事では慇懃無礼とはどんな人なのか、その特徴と性格や心理、アニメキャラの例、慇懃無礼な人との接し方を紹介。言葉としての意味、使い方や例文、類語、対義語、英語表現もまとめました。
慇懃無礼という四字熟語の意味と読み方とは
「慇懃無礼な人」とはどんな人なのかを理解するためには、まず「慇懃無礼(いんぎんぶれい)」という言葉の意味を正しく理解することが重要です。
慇懃無礼は、必要以上に丁寧なふるまいが、かえって無礼に映ることを意味します。
また、内面では相手を見下しながら、意図的に表面上だけを丁寧な態度で取り繕う様子を表すときにも使われます。
「慇懃無礼」は「いんぎんぶれい」と読みます。
慇懃無礼という言葉の成り立ち
「慇懃無礼」を分解すると、「慇懃」と「無礼」に分けられます。
「慇懃(いんぎん)」は、真心や親しみがこもっていることや、礼儀正しい様子を表す言葉です。それに対して「無礼(ぶれい)」は、礼儀から外れていることを意味します。
正反対の意味を持つ「慇懃」という言葉に「無礼」という言葉を重ねることで、「慇懃」の意味を打ち消したり、「表面上は礼儀正しく振る舞っているものの、実は失礼なこと」を表現したりしています。
慇懃無礼の正しい使い方・例文
「慇懃無礼」は、ビジネスシーンでも日常生活でも、あらゆる場面で使える表現です。以下に「慇懃無礼」の正しい使い方を、例文を挙げて解説します。
「◯◯さんの丁寧すぎる対応を、慇懃無礼な態度だと感じる人もいるだろう」
この例は本人が意図せずして、相手に慇懃無礼な印象を与えているときの使い方です。
本人は相手を立てようとするあまり、無意識に気を遣いすぎてしまっているのでしょう。
その様子を、第三者が客観的に判断している場面です。自分には直接的に関わりがないけれど、見方によってはマイナス評価をする人もいるだろうと感じているのです。
「あのスタッフは、終始こちらに対して慇懃無礼な態度をとった」
これは、店員から説明を受けるような場面や、ビジネスシーンでも想定される使い方です。
例えば、日常的にパソコンを使っている人に対して、電源の入れ方から説明するような人がいたとします。顧客や取引相手に対して丁寧な態度をとることは大切ですが、必要以上に回りくどい説明は慇懃無礼に感じられるでしょう。
意図的にせよ意図的でないにせよ、相手の状況に寄り添わない対応は、慇懃無礼に映ることがあるのです。
「慇懃無礼な人間だと思われないように、話し方に気を付けている」
これは、慇懃無礼な人が周囲に与える印象を理解している人が、自身のふるまいについて言うときの使い方です。
相手との関係性によって、言葉や態度を使い分けることを心掛けているという意味です。
「慇懃無礼」は様子を表す表現であるため、このように自分に対して用いても問題ありません。
慇懃無礼な人とはどんな人? よくある特徴や性格5選
ここでは、慇懃無礼な人にありがちな特徴や性格について、ポイントを挙げて解説します。以下、それぞれについて詳しく見ていきましょう。
態度が丁寧すぎる人
慇懃無礼な人にありがちな傾向として、態度が丁寧すぎることがあります。
例えば、知り合ってから随分たつ相手に対しても、いつまでも初対面のような硬い態度を崩さないタイプです。
丁寧な口調や扱いが他人行儀に感じられるため、よそよそしい印象を与えます。相手からすると、付き合いを重ねても距離感が縮まらず、打ち解けにくさを感じるでしょう。
本心が見えづらい相手とは、関係を深めることが難しくなります。
言葉遣いが不自然な人
言葉遣いが不自然であることも、慇懃無礼な人にありがちな特徴です。
例えば、昔からの友人や付き合いの長い知人に対してまで、あえて丁寧な態度で接するタイプです。
具体的には、
- 「です」や「ます」などの丁寧語を使う
- 「○○さん」と名字に「さん」付けで呼ぶ
など、距離を感じさせる言葉遣いをします。
ただし、意図的に「慇懃無礼なキャラクター」を演じている人もいるでしょう。また職場の場合は、同僚に対してとは言え、なれなれしくすることでハラスメントになることを恐れている可能性もあります。
裏表が激しい人
慇懃無礼な人にありがちな特徴として、態度の裏表が激しいことが挙げられます。
例えば、ある人と親し気に談笑していたにもかかわらず、相手がいなくなった直後にその人を悪く言うタイプの人です。
あるいは、目上の人に対する態度と、後輩や同僚に対する態度が違いすぎる人も、裏表が激しいと言えるでしょう。
このような人は、一見すると人当たりがよく見えるものの、内心では相手を見下している可能性があります。
八方美人な人
八方美人であることも、慇懃無礼な人に多い特徴の一つです。誰に対しても丁寧で人当たりが良く、職場や学校生活において周囲からの評判が良いタイプです。
誰に対してもよく映るようにするためには、本心を隠して、うわべだけの付き合いをする必要があるでしょう。笑顔で丁寧に接しているように見えて、本心では全く別のことを考えているかもしれません。
職業病の人
職業病で態度を崩せない人も、慇懃無礼に映ることがあります。日頃から丁寧に接することが習慣になっている接客業に多いタイプです。
特にクレーム対応業務を担当している人は、顧客に対して必要以上に丁寧に、気を遣った言葉遣いをしているはずです。
基本的に接客においては、個人の感情を抑える必要があります。そのためプライベートな場面でもその癖が抜けず、慇懃無礼な態度になってしまうのです。
慇懃無礼なアニメキャラといえば?
ここまで、慇懃無礼の意味や、慇懃無礼な人の特徴を見てきましたが、まだイメージがわかない人もいるかもしれません。そんな場合は、アニメのキャラクターを思い浮かべるといいかもしれません。
例えば『ドラゴンボール』に登場する「フリーザ」は、典型的な慇懃無礼キャラです。
フリーザは孫悟空にとって強敵であり、その実力はトップレベルです。
一方で、言葉遣いが必要以上に丁寧であることがキャラクターの個性として描かれています。
自分の手下を攻撃に向かわせるときでも丁寧語を崩しません。また、手下に対しても「○○さん」とさん付けで呼ぶことも特徴です。
慇懃無礼である人の心理
ここでは、慇懃無礼な態度で接してしまう人の心理について解説します。彼らの考えていることや気持ちが分かれば、こちらも接し方を迷わずに済むかもしれません。
以下、それぞれについて詳しく見ていきましょう。
できる人だと周囲から思われたい
慇懃無礼な人は、他者から「できる人」だと思われたいと考えていることがあります。
丁寧な言葉や固い言葉が、貫禄や心理的な余裕を感じさせるものであると考えているのです。このタイプは、承認欲求が強いことが特徴です。
また、周囲から優しい人であると評価されたいタイプもいます。丁寧な言葉遣いをすることで腰の低さや柔らかさを演出し、「いい人」であることを強調します。
いずれにしても、自分のための演出として慇懃無礼な態度をとっているのです。
距離を置きたがっている
慇懃無礼な人は、相手と距離を置きたいと考えていることがあります。そのため、意図的に他人行儀に接しているのです。
もし相手が自分の苦手なタイプなのであれば、そのような態度になるのは自然なことでしょう。これ以上接点を増やしたくないという気持ちが、よそよそしさとして言動に表れます。
「敬語をやめてほしい」「下の名前で呼んでほしい」などと直接伝えても応じないようであれば、親しくなることを避けている可能性が高いと言えます。
相手を見下している
慇懃無礼な人の心理として、内心では相手を見下していることがあります。
このようなタイプは、相手より自分の方が知識や経験に優れていると思っています。その上で、相手を大げさに立てるようなふるまいをするのです。
例えば、部署が異動になったことで年下の指導役がついたときに「さすがよくご存じですね」とおだてるようなことを言います。
そのような態度をとっておきながら、実は優越感さえ感じていることがあります。
慇懃無礼な人への対処法
ここでは、慇懃無礼な人への対処法を解説します。身近に慇懃無礼な人がいて対応に困っている人は、参考にしてください。
はっきりと直接伝える
もし慇懃無礼な相手との距離感をつかめないことで悩んでいるのであれば、本人に直接はっきりと伝えることで改善される可能性があります。
その際は、「敬語でなくても大丈夫ですよ」や「呼び捨てで構いません」など、相手への要望を明確に伝えるようにしましょう。
ただしその際は、「気を遣いすぎて疲れてしまうから」「信頼関係を築きたいから」など、背景にある気持ちを併せて伝えることが重要です。 そうすることで、誤解を招かずに済むでしょう。
受け流してみる
相手の態度を受け流すことも、対処法の一つです。相手が距離をとっているのであれば、こちらも距離を保てばいいのです。
学校や職場などの集団生活においては、慇懃無礼な人との関わりを避けられない状況もあるでしょう。しかし、自分としても相手との関係性を発展させるつもりがないのであれば、その場限りの対応で構いません。
そういう人なのだと割り切って深く考えないようにすることで、ストレスが軽減されるのではないでしょうか。
こちらも敬語で返す
自分も同じように敬語を徹底することも、対処法の一つです。会話の不自然さやよそよそしさが、近しい相手にとってはストレスになり得ることを、身をもって理解してもらうのです。
意図的に慇懃無礼な態度をとっている人にとっては、自分のふるまいを振り返る機会になります。もしそれで本人の態度が変わったとしたら、こちらの意図が伝わったということでしょう。
ただし、相手が無自覚なタイプであれば、この方法ではあまり効果が得られないかもしれません。その際は、前述の他の方法を試してみるといいでしょう。
慇懃無礼の類語・言い換え表現
ここでは、「慇懃無礼」の類語や言い換え表現について見ていきましょう。
慇懃尾籠
類語として、「慇懃尾籠」が挙げられます。「いんぎんびろう」と読み、「慇懃」と「尾籠」を組み合わせた言葉です。
前述の通り「慇懃」が礼儀正しさや丁寧さを表すのに対して、「尾籠(びろう)」は「無礼」と同じく礼儀のない様子、その他に不潔、わいせつであることなどを表します。
「慇懃無礼」と同じように、正反対の意味を持つ語句を合わせた表現です。
語句の意味の面でも、構造の面でも、「慇懃無礼」と類似した表現であると言えます。
礼も過ぐれば無礼になる
「礼も過ぐれば無礼になる」という表現も、「慇懃無礼」と同じ意味を持つ言葉です。
「慇懃無礼」が四字熟語であるのに対して、こちらはより口頭表現に近い、ストレートな言い方です。
ただしこの表現は基本的に、本人が無意識である場合に使われます。例えば、社長を前にして緊張している新人に対して、「礼も過ぐれば無礼になるよ」とアドバイスするような場面です。
かしこまり過ぎている相手にリラックスを促すような意味合いでよく使われます。
お為ごかし
「お為ごかし」も「慇懃無礼」に似ている表現です。「おためごかし」と読み、「御為ごかし」と表記することもあります。
「相手のために見せて、実は自分の利益のために相手に取り繕う」という意味です。
「慇懃無礼」が無自覚なケースでも使われるのに対して、これは明らかに作為的な態度に使われる言葉です。
具体的には、「お為ごかしに親切をする」「あの助言はお為ごかしだったのか」などのように使います。
馬鹿丁寧
「馬鹿丁寧」という表現も、「慇懃無礼」の類似表現であると言えます。
「馬鹿」という語句は、「程度が甚だしい様子」を表します。つまり、度を越した丁寧さ、礼儀正しさを言うときの表現です。
「馬鹿丁寧」には「かえって無礼」という意味や、「本心では見下している」という意味まではありません。しかし「馬鹿」が分かりやすいマイナス表現であるため、直接的に批判の意を表す言い方であると言えます。
「馬鹿丁寧に何度もお辞儀しなくていい」「馬鹿丁寧に熨斗(のし)なんてつけなくても」などのように使います。
慇懃無礼の対義語
ここでは「慇懃無礼」の対義語について詳しく見ていきましょう。
横柄親切
「横柄親切(おうへいしんせつ)」は、「横柄」と「親切」を組み合わせた言葉です。
「横柄」が威張った尊大な態度を、「親切」が相手のために尽くすことを表しています。つまり、「慇懃無礼」とは対照的に、態度自体には愛想がないけれど、内面は優しく丁寧であることを言う表現です。
「慇懃無礼」がネガティブな表現であるのに対し、「横柄親切」は相手の優しさや不器用さをポジティブに捉えているときに使われます。
言葉の焦点が相手の内面にあることを押さえておきましょう。
誠心誠意
「誠心誠意」も、「慇懃無礼」の対義語であると言えます。「誠心誠意」は「真心を持って取り組む」という意味で、態度と心が一致していることを表します。
そのため、見かけの態度と気持ちが矛盾していて不誠実な様子を表す「慇懃無礼」とは、対照的な表現であると言えるのです。
真剣さや熱意を伝える場面で使われ、特にビジネスシーンでよく耳にする言葉です。特に、決起の挨拶や謝罪の場面において多く登場します。
慇懃無礼の英語表現
「慇懃無礼」を英語で表現するときには、どのような言い方があるのでしょうか。
smarmy
「smarmy」は、「お世辞たらたらの」を意味する単語です。また、「口先ばかりの」という意味もあります。
そのため、日本語でいう「慇懃無礼」とほとんど同じ感覚を表せる表現です。
以下、例文を挙げます。
That old man is such a smarmy.
(あの年配の男は慇懃無礼だ)He was so smarmy.
(彼はとても慇懃無礼だった)
相手の様子を非難する言い方であることを押さえましょう。
sarcasm
「sarcasm」も、「慇懃無礼」に通じる英語表現です。「皮肉」「嫌み」などの意味を持ちます。
「皮肉」といえば「irony」という単語もありますが、「sarcasm」には相手を傷つけようとする悪意を含みます。
以下に例文を挙げます。
- Her sarcasm made me angry.
(彼女の皮肉は私を怒らせた)
hypocritical courtesy
「hypocritical courtesy」は、「うわべの丁寧さ」「空々しい親切」を言うときの英語表現です。
「hypocritical」が「偽善の」「空々しい」を、「courtesy」が「礼儀」「丁寧」「親切」などの意味を表します。
以下が使用例です。
in a hypocritical courtesy
(慇懃無礼な態度で)through the hypocritical courtesy of
(慇懃無礼な態度によって)
対照的な意味を持つ語を組み合わせている点においても、「慇懃無礼」と似た表現であるといえます。
慇懃無礼な人とはどんな人なのか覚えておこう
慇懃無礼な人はいつまでも他人行儀な態度であるため、対応の仕方に困ることがあるかもしれません。本心が見えづらく、信頼関係を築くことが難しいと感じる人もいるでしょう。
親交を深めたいのか、あるいはそのまま距離を保ちたいのかで、対処の方法は異なります。
また、慇懃無礼な態度が周囲に与える印象を理解して、自身のふるまいにも気を配りましょう。