自作PCではPCI Express 5.0やDDR5など新たな規格が登場しているが、電源における新規格と言えば12VHPWRが挙げられる。電源を購入する際、これに対応する製品を選ぶべきかまだ待つべきか……お悩みの方もいるだろう。この記事では、筆者がCOMPUTEX TAIPEI 2023で見てきた展示品を振り返りながら、2023年下半期~2024年の電源トレンドについて予想してみよう。

既存シリーズの12VHPWR対応が加速!

「12VHPWR」はPCI Express 5.0世代のビデオカード向けの規格で、電力供給用に12ピン、信号線として4ピンを用いた16ピンのコネクタが採用されている。

12VHPWRを採用するビデオカードはGeForce RTX 40シリーズの上位モデルで、当然消費電力が大きいこともあって12VHPWRネイティブ対応電源も定格出力850W超(一部750W)、そのクラスとなると80PLUS Gold以上、合わせて既存の電源よりも高価になりがちなラインナップだった。この点で「選択肢が少ない」と感じていた方も多いだろう。

COMPUTEX TAIPEI 2023では、まだ12VHPWR対応に置き換わっていない各社既存のシリーズの、12VHPWRネイティブ対応版が数多く展示されていた。2023年下半期~2024にかけては、12VHPWRネイティブ対応電源ラインナップがいっそう充実してくることだろう。中にはSeasnicのFOCUS GXシリーズのように人気もあり比較的コスパ寄りのモデルも見られたので、価格面でも選択肢が豊富になってきそうだ。

  • 2023年下半期~2024年のPC電源トレンドを予想してみる - COMPUTEX TAIPEI 2023振り返り
  • Seasonicの定番、FOCUS GX(80PLUS Gold)やFOCUS PX(80PLUS Platinum)、PRIME TX/PX(ハイエンド)など各シリーズに12VHPWRネイティブ対応モデル

次期GPUではエントリー~ミドルレンジも12VHPWR化?

一方、比較的小出力の550~750W帯電源にも12VHPWRネイティブ対応モデルが登場してきそうだ。そしてこのクラスになると性能(変換効率)よりも価格(が安い)を求めるニーズも高まる。たとえば80PLUS Bronze認証の12VHPWRネイティブ対応モデルも数多く展示されていた。

  • ThermaltakeのSmart BMシリーズは80PLUS Bronze認証で比較的小出力、コスパのよい電源シリーズだが、ここにもATX 3.0対応、12VHPWR対応が来る

ただ、よく考えてほしい。750WクラスはTGP 200W台のGeForce RTX 4070 Tiがあるから理解できても、650Wや550Wクラスとなると12VHPWRに対応していてもそれを必要とするGPU側は現状不在だ。つまり電源メーカーは次世代GPUではエントリー~ミドルレンジにも12VHPWRが採用されると考えていると捉えられる。まだ将来の話だが、PCの組み換えなどで電源が今必要となった時、古いモデルと12VHPWR対応の新モデルが並んでいたら、将来への備えとなる新モデルのほうを選ぶ方も多いだろう。当面の間はそうした備えのための製品だ。

ADATA&Deltaのコラボ電源に期待!

COMPUTEX TAIPEI 2023の展示の中でもとくに印象的だった製品を紹介しよう。それはADATA(XPG)の「Fusion 1600 TITANIUM Degital Power Supply」だ。PC DIYメーカーとしてのADATAの歴史は古いが、ゲーミング向け電源に参入したのは比較的最近(2020年頃)のこと。しかし、これまで80PLUS Bronze、Gold、Platinumと各シリーズを投入してきた。そして満を持して投入する80PLUS Titanium(Cybenetics認証もTitanium)モデルがFusion 1600 TITANIUM Degital Power Supplyになる。しかも電源開発メーカーにおける老舗中の老舗「Delta」とのコラボモデルである。実際、ADATA(XPG)ブースのほかDeltaブースにも同じものが展示されていた。

  • ADATA(XPG)の「Fusion 1600 TITANIUM Degital Power Supply」と、Deltaブースに展示されていた同モデル

Fusion 1600 TITANIUM Degital Power Supplyは最大出力1,600Wでフルプラグイン方式。12VHPWRは2系統備えている。カバーを外して内部を見せる展示もあったが、なかなか見たことのないレイアウトだった。ほぼ中央に1次側の電解コンデンサを2つ置き周囲は比較的背の低い部品でエアフローが抜けそうなデザイン。2次側はプラグインコネクタ裏の垂直のサブ基板にまとめているようで、この部分の部品密度はかなり高い。グレーの半導体2枚にサンドイッチされた基板は「平面トランス」とのこと。そして説明には窒化ガリウム(GaN)FETを採用しているとある。専用ケーブルでマザーボード上のUSBピンヘッダと接続してステータスを監視するモニタリング機能も備えている。

  • フルプラグインで12VHPWRは2系統。内部も独特のデザインだ

そしてデモも行なわれていたが、そのシステムはGeForce RTX 4090を4基搭載するといった過激なもので、先のモニタリング画面上では製品定格の1,600Wを超える1,800W台の出力が一般的にピーク出力(通常は一瞬~数秒程度)と言われる時間を超えるほど続いていた。もちろん説明員にこれは大丈夫なのかと確認したが、「問題ない」と答えるだけだった。定格出力1,600Wはあくまで同社のサポートでの話とでも言うのだろうか。まあ、このように新参とはいえADATAは電源に本気だ。そしてこのDeltaとのコラボモデルは、エンスージアスト向けのCPU&GPUを搭載するユーザーにとってかなり注目に値する製品になりそうだ。

  • GeForce RTX 4090×4枚を使ってのデモ。「XPG PRIME」ソフトウェア上では入力がAC112.5Vで出力は1,802Wと表示されていた

ATX12VO電源も徐々に増えてくる?

最後に、ATX12VOを覚えていらっしゃるだろうか。現在のATX/SFX電源はACからDC 3.3/5/12Vを生成しているが、ATX12VOはACから12Vを生成し、それ以外の電圧は必要に応じてマザーボード上で生成するといった仕様だ。電源が+12Vしか生成しないでよいのであれば、回路はシンプルになり、電源内部にかぎれば変換ロスを抑えることにつながる可能性がある。COMPUTEX TAIPEI 2023では、少なくともEnermaxとFSPがATX12VO製品を展示していた。

  • 別記事でEnermax製ATX12VO電源も紹介しているが、こちらはFSPのATX12VO電源「DAGGER PRO 12VO」

こうしたATX12VOだが、自作PCに関していればまだ関係のないところである。ただし、ATX12VOを採用している完成PC(あるいはベアボーンなど)はすでにある。FSPブースではATX12VO電源「DAGGER PRO 12VO」の横にIntel「NUC13 Extreme」が展示されていた。NUC13 Extremeの電源は出力が750Wと公開されており、製品リリースの際、内部のレビューなどからもそれが12VHPWR電源であることが知られていた。当時からDAGGER PRO 12VO 750が採用されていた、ということなのかもしれない。

  • DAGGER PRO 12VOの横にはIntel NUC13 Extreme

  • ATX12VO対応マザーボードも展示されていた

今後は12VHPWR対応が当たり前の時代に

以上がCOMPUTEX TAIPEI 2023で筆者が見てきた電源と、そこから予想される2023年下半期~2024年の動向だ。COMPUTEX TAIPEI 2023で展示された製品は、およそ6月下旬から2023年下半期にかけ、一部のモデルが翌2024年の販売スケジュールとなるのが一般的だ。

12VHPWR対応電源は今後もっと増え、選択肢豊富になる。現在8ピン補助電源に非対応の電源がほとんどないのと同様に。ハイエンドでは現在お使いの、モデルの後継モデルが出るため、その電源の設計に信頼を置いている方はより選びやすくなるだろう。また、Fusion 1600 TITANIUM Degitalのように凝ったモデルも登場する。

一方、現在の12VHPWRを必要とするGPUがNVIDIAのハイエンド以上に限られる状況でも、次に買う新電源は12VHPWR対応にしておこうという考え方が生まれてくるのではないだろうか。今のように、将来に備えようと思っても一気に予算が上がるといった状況からは変わってきそうだ。