教育費は年々値上がりし、大学の学費が出せずに、奨学金を借りる家庭は増えています。一方で、60歳以上の高齢者が日本の家計金融資産のうちの6割以上を保有しているという総務省のデータもあります。

高齢者が持っている資産を若者に手渡すことができれば、高齢者は相続税対策になり、若者は必要な資金が手に入ります。まさに“Win-Win"の制度が「教育資金の一括贈与に係わる贈与税の非課税措置」です。

  • 教育資金の一括贈与の非課税制度」が2026年3月末まで延長! 祖父母の相続税対策になるのか

    「教育資金の一括贈与の非課税制度」が2026年3月末まで延長!

2026年3月末まで延長された「教育資金の一括贈与に係わる贈与税の非課税措置」について、疑問・質問をQ&A形式でわかりやすく解説します。

■教育資金の一括贈与に係わる贈与税の非課税措置とは

父母や祖父母から30歳未満の子や孫に、教育資金に充てるための一括贈与を行うと1500万円まで非課税になる制度が「教育資金の一括贈与に係わる贈与税の非課税措置」です。

この場合の贈与者は父母や祖父母などの直系尊属であり、受贈者は30歳未満の子や孫となります。ただし、受贈者は前年の合計所得金額が1000万円以下という条件があります。

非課税の限度額は1500万円ですが、学校以外の費用(塾など)として支払われる場合は500万円が限度となります。制度を利用するには、金融機関と契約を結んで、教育資金口座を開設する必要があります。そこに金銭を預け入れ、払い出す際には、教育費に充てたことを証明する書類を金融機関に提出します。

受贈者が30歳に達したときに、まだ資金が残っている場合は、原則、その資金は贈与税の対象となります。

  • 【表】贈与できる相手や限度額って? 非課税制度わかりやすく解説

    出所:国税庁「祖父母などから教育資金の一括贈与を受けた場合の贈与税の非課税制度のあらまし」をもとに筆者作成

■もっと詳しく知りたい!

Q1: どこまでが教育資金に入りますか?

A1: 教育資金とは、(1)学校などに対して直接支払われる資金と、(2)学校以外に対して直接支払われる資金があります。このうち(2)については、500万円が限度となっています。

(1)学校などに対して直接支払われる資金
・入学金、授業料、入園料、保育料、施設設備費または入学試験の検定料など
・学用品費、修学旅行費、学校給食費など学校における教育に伴って必要な費用

(2)学校以外に対して直接支払われる資金(社会通念上相当と認められるもの)
・教育に関する習い事の費用(学習塾、そろばんなど)
・スポーツや文化芸術などの習い事の費用(水泳、野球、ピアノ、絵画など)
・習い事で必要な物品の購入費用
・通学定期券代
・留学渡航費、学校に入学するために必要となった転居の際の交通費

「学校など」には外国の学校も入るため、留学費用のうち、外国の学校に払う学費や渡航費(飛行機代など)は対象となります。ただし、原則として滞在費(ホームステイ代など)は対象となりません(※)。

※例外もあるので、文部科学省の「教育資金の一括贈与に係る贈与税非課税措置/「留学等」に関するQ&A」で確認してください。

なお、23歳以上の受贈者は、「学校などに支払われる費用」、「学校などに関連する費用」、「教育訓練給付金の支給対象となる教育訓練費用」に限定されています。

Q2: 祖父と祖母の2人から一括贈与を受けた場合、3000万円が非課税になりますか?

A2: なりません。受贈者1人につき1500万円が限度です。 2人から均等に非課税限度額まで一括贈与を受けるなら750万円ずつとなるでしょう。祖父母以外に直系尊属であれば、曽祖父母、父母も対象となります。

Q3: 30歳を過ぎても学校に通っている場合はどうなりますか?

A3: 原則、30歳で契約は終了しますが、30歳に達した日に、「学校に在学している」、「教育訓練給付金の支給対象となる教育訓練を受講している」場合は、契約を継続することができます。その際は金融機関に届出書を提出する必要があります。なお、受贈者が40歳に達した場合には、例外なく契約は終了となります。

Q4: 贈与者が死亡した場合はどうなりますか?

A4: その死亡日における残額が相続税の対象となります。ただし、死亡日において以下に該当する場合は、相続税は課税されません。

・受贈者が23歳未満
・受贈者が学校に在学している
・受贈者が教育訓練給付金の支給対象となる教育訓練を受講している

※2023年4月1日以後の贈与については、その贈与者に係る相続税の課税価格が5億円を超えるときは、上記に該当しても残額に相続税が課税されます。

Q5: 教育資金以外に使った場合はどうなりますか?

A5: 教育資金に充てられていなかった場合は課税されます。 課税される時期は契約が終了した年です。たとえば、教育資金として祖父母から1500万円の一括贈与を受けたけれど、そのうちの500万円で車を購入した場合、30歳になって契約が終了したときに、500万円に贈与税が課税されて48万5000円の贈与税を支払わなければなりません。

■教育資金の贈与はそもそも非課税である

「教育資金の一括贈与に係わる贈与税の非課税措置」のメリットは、1500万円という大金を一括で、非課税で贈与できる点です。贈与者が高齢であり、相続税の節税を考えている場合に有効な手段です。しかし、教育資金はその都度贈与するのであれば、元から非課税の対象となっています。

「夫婦や親子、兄弟姉妹などの扶養義務者から生活費や教育費に充てるために取得した財産で、通常必要と認められるもの」(国税庁「No.4405 贈与税がかからない場合」から抜粋)

前述の通り、祖父母も扶養義務者に含まれるので、非課税での贈与が可能です。ここで重要なのは、「都度贈与」である点です。教育費として必要な分を、その都度、直接充てる必要があります。したがって、教育費の名目で贈与を受けても、それをすぐに使わずに預金してしまうと贈与税がかかってしまいます。

これに該当するように贈与するには、祖父母が大学の入学金などを直接学校に振り込めば、都度贈与となるでしょう。直接振り込むのが難しい場合は、その都度負担したことがわかるように、専用の口座を作って、贈与額や贈与日の記録を残しておくといいでしょう。

ただこの方法は、大きな金額をまとめて渡すことができないため、相続税対策向きではありません。また、必要になったときに、必要なだけ直接贈与するので手間もかかります。しかし、金融機関を通して手続きをする必要がないので、気軽に行えることはメリットでしょう。

この都度贈与と教育資金の一括贈与に係わる非課税措置は併用することができるので、状況に応じて組み合わせて活用するのもいいでしょう。

そのまま資産を持ち続けたら相続税の課税対象となるものを、子や孫の教育資金として活用できれば、必要な時期に必要な人へ資金を渡すことができるので、制度の有意義な利用となるでしょう。