実験では、野外のヤマトシロアリのコロニーから王と女王が採集され、行動観察とロイヤルフードの採取のために開発されたガラス製の容器で飼育が行われた。その後の働きアリによる王・女王への給餌過程の行動分析により、働きアリが王と女王を識別し、食べ物を選択的に与えていることが判明。王・女王それぞれに給餌中のワーカーから直接ロイヤルフードを採取することに成功し、この直接給餌物と中腸内容物の液体クロマトグラフ質量分析により、シロアリの王と女王の食べ物が異なる成分組成であることが突き止められた。

ロイヤルフードの成分には、スフィンゴ脂質・ジアシルグリセロール・短鎖ペプチド・タンパク質などが含まれていたとのこと。炭素の安定同位体13Cを用いて標識したセルロースを働きアリに食べさせ、脱離エレクトロスプレーイオン化-質量分析イメージングにより、13C標識物質の追跡を行ったところ、セルロースからロイヤルフード成分である「ホスファチジルイノシトール」と「アセチル-L-カルニチン」が作られ、働きアリの経口給餌によって女王の体内に移行することが確認されたという。

  • (左)働きアリが食べた安定同位体標識セルロースの13Cがロイヤルフード成分の1つアセチル-L-カルニチンに取り込まれる過程。(右)経口給餌によって与えられた13Cをもつアセチル-L-カルニチンの女王体内における局在。

    (左)働きアリが食べた安定同位体標識セルロースの13Cがロイヤルフード成分の1つアセチル-L-カルニチンに取り込まれる過程。(右)経口給餌によって与えられた13Cをもつアセチル-L-カルニチンの女王体内における局在。(出所:共同プレスリリースPDF)

またマイクロCTを用いた消化管の構造比較では、王・女王と働きアリの間で中腸と後腸の体積比に顕著な違いがあり、働きアリは共生微生物を保有して木の分解を行う場である後腸が大きな割合を占め、一方の王・女王は栄養吸収器官である中腸が大きいことが明らかになった。このことから、採餌と消化の役割分担が基盤となり、労働と繁殖の分業システムを支えていることがわかったのである。

  • (上段)腸の構造のマイクロCT画像。前腸(黄)、中腸(赤)、後腸(灰色)。(下段)解剖画像。mg:中腸、hg:後腸。王・女王は栄養の吸収器官である中腸が大きく、働きアリは共生微生物を保有する後腸が大きい。

    (上段)腸の構造のマイクロCT画像。前腸(黄)、中腸(赤)、後腸(灰色)。(下段)解剖画像。mg:中腸、hg:後腸。王・女王は栄養の吸収器官である中腸が大きく、働きアリは共生微生物を保有する後腸が大きい。(出所:共同プレスリリースPDF)

ミツバチの女王蜂になる幼虫に与えられるロイヤルゼリーなど、高い活動性と長寿を実現している社会性昆虫の繁殖虫の食べ物は、機能性成分の宝庫だ。これらに関する研究は、それら昆虫に関する生物学だけでなく、ヒトの医学や健康科学にも重要な知見を提供し、現在では食品や化粧品にも応用されている。

今回の研究によって、シロアリのロイヤルフードという新たな研究領域が開かれた。研究チームが構築したロイヤルフードの採取・分析技術や化学成分データベースを用いてさらに研究を進めることにより、ヒトの健康長寿にも貢献する新たな機能性成分や情報を得ることが期待されるとしている。