一般社団法人WebDINO Japanが創立20年を迎え、7月10日に記念パーティが開催された。当日はWebDINO Japanが前身のMozilla Japanとして活動してきた頃から連携するWebやオープンソース関連のエンジニアコミュニティーを含め、産業界、学術界、行政関係者、デザイナー、メディア関係者など、幅広い領域から約200名の招待者が集まった。本稿では、その一部をレポートしたい。

  • 「これからも繋がり続ける」 WebDINO Japanが創立20年記念、関係者が結集

    図1 WebDINO JAPAN 20年記念パーティ

当日は、記念のケーキも用意されていた。

  • 図2 用意されたケーキ

代表理事の瀧田佐登子氏の挨拶から

まず、登壇したのは、代表理事の瀧田佐登子氏である。

  • 図3 瀧田佐登子氏

多くの方々の協力によって20年間継続できたことへの感謝から始まり、これまで共に活動を続けてきた理事の紹介を行った。最初に紹介されたのは、喜多伸夫氏(サイオス株式会社代表取締役社長)である。Netscape社のエンジニアだった瀧田氏が、「ここで引退も」と頭をよぎった時期、声をかけてくれたのが喜多氏であり、その言葉がなければ、本当に今の自分は存在していなかったかもしれないという感謝の言葉が語られた。

続いて、理事の伊藤穰一氏(千葉工業大学学長)、中村素典氏(京都大学情報環境機構教授)、砂原秀樹氏(慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授)が理事として紹介された。

そして、インターネットとブラウザといえばこの方として、WebDINOのアドバイザーを担当する村井純氏(慶應義塾大学教授)が紹介され、乾杯となった。

今日、集まった多様性に富んだゲストの皆さん同士でどういった化学反応が起きるか楽しみなので、参加者の方々には交流を深めていってほしいとの瀧田氏の言葉に続き、村井氏からは、これからは若い人と経験を積んだ人が力を合わせて未来を創る、これがとても重要であり、そのために今、我々は集まっている。その志を1つにして、20年がんばってきたMozilla Japan、そしてWebDINOと時代を築いてきた方々への感謝とお祝いの心をこめて乾杯したいと、音頭をとった。

  • 図4 村井純氏(右)

Fireside Chatでは

パーティの後半、「Fireside Chat」と題したトークセッションが開催された。瀧田氏とWebDINO Japan CTOの浅井智也氏、さらにはゲストを加え、炎の側でリラックスして語り合うというものでステージ上には暖炉の炎が揺らめく演出が施され、過去・現在・未来の3つのテーマで進められた。

過去のパートでは、ブラウザ戦争がテーマとなった。ステージ上には、当時、MicrosoftでIE(Internet Explore)の開発に参加していた五寳 匡郎 (ごほうまさお) 氏 (コニカミノルタ株式会社) が呼び込まれた。当時はActiveXなどの技術を応用し、Microsoft独自のエコシステム的な環境を目指した時代でもあった。ブラウザ戦争で注目されたのは、なんといってもそのシェアであろう。事実、国内ではIEのシェアは90%近くとなった。結果は、IEの勝利といったところであった。ただし、戦争という言葉とはうらはらに、IEとNetscapeでの開発者間では、新バージョンのリリースの際、リリース記念に自社ブラウザロゴの立派なケーキを相手に送っていたエピソードが紹介された。瀧田氏は、一見すると、コンペティタ同士であるが、エンジニアとして相互に認めあっており、その切磋琢磨が技術進歩をもたらしたのではと語った。

  • 図5 Fireside Chat(左から、瀧田氏、クロサカ氏、浅井氏)

現在については、今、まさにWebDINOも参画しているTrusted Webについてクロサカ タツヤ 氏 (株式会社 企 代表取締役) がトークに加わった。まず、ニュース記事や広告に発信者情報を記載した OP(オリジネータープロファイル)を紐付ける。例えば、新聞社の記事が本物であるかどう判断するか。フィッシング詐欺などでは、本当のサイトを完璧にまねて偽のニュースを流し、Google検索の最初の項目からリンクされることもある。この状態で、何を見れば本物か偽物かを判断することは難しい。この技術は、本当にその新聞社が書いた記事なのか分かるようにするものだ。ブラウザでOPを確認すれば、ページ中のどの部分をどこの誰が書いた記事なのか、そのメディアは信頼できるか判断に役立つ情報が表示される。透明性と信頼性をもたらすインフラを世界中に整備することが目的とのことだ。浅井氏によれば、Netscape当初のビジネスモデルはWebで安全なECを実現することだった。当初のSSLにはサイトの信頼性を証明する役割があったが、それは失われてしまった。Webに再度トラストを作る、それを支える仕組みが必要である。そういった動きは日本政府などではTrusted Webとして推進していると語っていた。

最後、未来のパートでは、村井純氏、伊藤穰一氏の2名がステージ上に招かれた。時代ごとにバズワードが激しく移り変わる中、技術の進化は、じりじりとしたペースで進んでいるが、今注目される技術の中ではAIやVRが、Web誕生の頃の夢であったことなどが振り返られた。また、技術のわかる若い技術者が国を動かしていくことが未来を創るという話には、会場からも大きな拍手が起きていた。

未来を創る注目の技術については、Webを通じた自律分散ロボット制御や、IoTデバイスの計算資源を活かして連携するシステムもおもしろいといった議論もあり、One Webや “The” Internetが当たり前となった2023年から見た次の10年は「地球全体をデザインし直す、ガバナンスをテクノロジーにすることを考えること」であると締めくくられた。

これからも繋がり続ける

さて、パーティもラストを迎えることとなった。瀧田氏は、古くからのスタッフを紹介しつつ、改めて繋がることの重要性を強調していた。WebDINOはインターカンパニー、ハブとして今後も多くの人々や組織を繋げていく。それがWebDINOの役割であると語り、お開きとなった。冒頭、瀧田氏が触れたたように、この集まりから何かが生まれることを期待したい。