マネ―スクエアのチーフエコノミスト西田明弘氏が、投資についてお話しします。今回は、米ドル/円の状況について解説していただきます。


米ドル/円は6月30日に昨年11月以来となる145円台を示現しましたが、その後は下げに転じて7月14日には137円ちょうど近辺まで下落しました。

米ドル/円が下落した背景には、米国の中央銀行にあたるFRB(連邦準備制度理事会)の利上げ観測が後退したこと、さらには日銀の大規模金融緩和が修正されるとの思惑が再浮上したことがあります(後述)。

インフレ鈍化と長期金利の低下

7月12日に発表された米国の6月CPI(消費者物価指数)は、事前に弱めになるとの思惑が台頭、実際に市場予想を下回りました。また、同日公表されたベージュブック(地区連銀経済報告)でも、労働需給の緩和や物価上昇圧力の低下の兆候が報告されました。

米ドル/円との連動性が高い米国の長期金利(10年物国債利回り)は7月6日に、シリコンバレー銀行(SVB)の破たんによって金融不安が発生する前の3月上旬以来となる4%台を示現していました。しかし、その後は軟調となり、6月CPIが市場予想を下回ると大幅に低下しました。

FRBは7月で利上げ打ち止め?

OIS(翌日物金利スワップ)という指標に基づけば、7月13日時点で金融市場が織り込むメインシナリオ(確率50%超)は、7月25—26日のFOMC(連邦公開市場委員会)で0.25%の利上げが実施され、そこで打ち止め。そして、早ければ24年1月から断続的に利下げが実施されるというものです。仮に金融市場のメインシナリオが実現するなら、米ドル/円は日米金利差の拡大という従来の推進力を完全に失うことになるでしょう。

利回り曲線が示唆する景気後退

米国の債券市場では、短期金利(2年物国債利回り)が長期金利(10年物国債利回り)を上回るという「イールドカーブ(利回り曲線)の逆転」、あるいは「逆イールド」と呼ばれる現象がちょうど1年前から続いています。経験的には、逆イールドが始まって1~2年、平均して1年半程度で米国はリセッション(景気後退)に陥ってきました。したがって、経験則通りとなれば、米国景気は早ければ今年中に、遅くとも来年半ばぐらいまでにリセッションとなる計算です。そうであれば、FRBが利上げを打ち止め、早晩利下げに転換するとの金融市場の見通しは現実のものとなりそうです。

4—6月期GDPは4期連続でプラスか

もっとも、米国景気は現在までのところ、スローペースながらも底堅く推移しており、7月27日に発表される4—6月期GDPは4期連続でプラスとなりそうです。アトランタ連銀のGDPNowという短期予測モデルは7月10日時点で前期比年率2.3%と予測しています。また、前FRB副議長で、バイデン政権のNEC(国家経済会議)の委員長を務めるブレイナード氏は7月12日の講演で、「リセッションが近いとの予想が繰り返されてきたが、雇用は強く景気は堅調だ」と述べました。

燻るYCC修正観測

一方、日銀が大規模金融緩和を修正する、とりわけYCC(イールドカーブ・コントロール)を修正・廃止するとの観測が改めて浮上しています。植田日銀総裁は金融緩和を継続する意向を表明していますが、日本のインフレ率が高まっているためでしょう。7月の金融政策決定会合で公表される「経済・物価情勢の展望(展望レポート)」で物価見通しが上方修正され、それに合わせて大規模金融緩和が修正されるとの見方が少数派ながら存在します。

FOMCや日銀の会合でどんなメッセージが発せられるか

7月24日の週には、主要中央銀行の政策会合が集中します。25—26日に米FOMC(結果判明は日本時間27日午前3時)、27日にユーロ圏の中央銀行であるECBの理事会(同午後9時15分)、28日には日銀の金融政策決定会合(同正午ごろ)があります。それらの結果を受けて、金融市場の金融政策見通しがどう変化するか、大いに注目でしょう。