研究チームではその実現に向けて、ガラスの結晶化により得られる複合材料「結晶化ガラス」に着目して研究開発を行ってきたという。これまで、ケイ酸塩ガラスの熱処理によりストロンチウム(Sr)・チタン(Ti)・シリコン(Si)の複合酸化物である「Sr2TiSi2O8結晶」がガラス全体に渡って緻密かつ一方向に整列して析出する「完全表面結晶化ガラス」を開発済みで、Sr2TiSi2O8結晶に由来する二次非線形光学効果の発現にも成功している。しかし、結晶化に伴う割れや空孔の発生を免れることができず、完全表面結晶化ガラスのファイバ化に重要な透明性の確保が大きな課題として残されていたという。
完全表面結晶化ガラスは、Sr2TiSi2O8結晶の組成に対してTiO2とSiO2を過剰に加えた前駆体ガラスから得られるといい、表面にSr2TiSi2O8結晶が形成された後、前駆体ガラス中の余剰となった成分は、Sr2TiSi2O8結晶ドメイン(領域)の内部およびドメイン間にガラス状態で閉じ込められることになる。そこで今回の研究では、この特徴的な組織構造を適切な熱処理によって制御し、割れや空孔が一切ない完全表面結晶化ガラスファイバの創製に挑んだとする。
そして開発された完全表面結晶化ガラスファイバを調べたところ、その断面は単結晶材料には見られない「放射状の配向結晶構造」を有していることが確認されたという。
また透過型電子顕微鏡などにより、試料中心に生じるはずの空孔が余剰のガラス成分で補填されるという空孔抑制機構が明らかになった。余剰成分のガラスの屈折率はSr2TiSi2O8結晶のそれと非常に近く、空間的かつ光学的に均一に近いことから、ファイバの透明性が確保されているとする。さらに、光通信波長1550nmでの光損失測定の結果、従来の透明セラミックス材料(1cm厚で80%未満の透過率)を凌駕し、かつ光学単結晶級の値(1cm厚で90%以上の透過率)を達成したとのことだ。
完全表面結晶化ガラスファイバは、結晶化熱処理のみのシンプルな行程で得られるため、生産性に優れる点も特徴だ。しかし、真の意味で光ファイバ網との親和性を確保するには、ファイバ化するのみでは不十分だという。だがその一方で、透明性という大きなハードルを乗り越えた研究チームは、同ファイバの放射状の配向結晶構造を利用した新規光制御方式を考案しており、光ファイバ通信システムのさらなる大容量化への貢献が期待されるとしている。