やさいバスが北海道に進出
やさいバスは、やさいバス株式会社(静岡県牧之原市)が運営する青果流通プラットフォームです。農産物を新鮮なうちにレストランやお店へ届けるため、生産者がECと物流を一体で使える仕組みを作りました。その後全国14都道府県へ広がり、各地の利用者がECサイト「やさいバス」上で取引をしています。
北海道では2022年5月、北海道コカ・コーラボトリング株式会社が運営をスタート。担当する新領域デザイン室長の三浦世子(みうら・せいこ)さんによれば、物流はグループ会社の幸楽輸送株式会社が担い、加えてヤマト運輸も活用。農家への声がけや説明会を経て、2023年は札幌を軸に5つのルートで運行中です。
野菜の取引の流れは、以下の通りです。農家と購入者は「やさいバス」ECサイトに事前登録しておきます。まず、農家がECサイトに出品します。購入者がサイトで注文(購入)すると、農家はコンテナに品物を入れてやさいバスの最寄りの“バス停”へ届けます。そのコンテナを、定期運行しているやさいバスが購入者の指定した“バス停”に配送、購入者は野菜を受け取ります。代金と輸送手数料の支払いはサイト上で後日、代金の85%は農家が受け取り、残り15%を運営側と本部が受け取ります。
顔の見えるこだわり野菜を少量多品種仕入れたい
病院内にあるコンビニエンスストアは患者さんや医療スタッフにとって何かと助かる存在ですが、ファミリーマート札幌医大病院店で特に売れ筋なのが新鮮野菜。スーパーでもあまり見かけない新品種の野菜なども並び、農園名、栽培方法、食べ方などのPOPも目を引きます。一般財団法人弘仁(こうじん)会販売課長で同店店長の中上修司(なかがみ・しゅうじ)さんは、「健康意識の高い方が利用されるので、新鮮な野菜の取り扱いは念願でした」といい、やさいバスが産地から直接届ける野菜の鮮度のよさと、作った人の顔が見える信頼感が顧客満足につながっているといいます。同店は、北海道のファミリーマートの青果売り上げ第1位。本部やフランチャイジーの視察先になるなど、やさいバスとの売り場づくりは経営的にも注目されています。
農家の使い勝手を聞いてみた
発足当初からやさいバス北海道を利用している農家さんに、感想を聞いてみました。
「送料が魅力。販路も増えました」Ambitious farm
江別市にある農業生産法人Ambitious Farm(アンビシャスファーム)株式会社は2014年設立。代表の柏村章夫(かしわむら・あきお)さんと従業員6人で、年間100品種以上の野菜を栽培し、自社のECサイトで販売し、江別市と札幌市内の注文であれば当日に届けるというサービスを展開しています。また、5~10月の週末限定直売所「ふたりのマルシェ」での直販も行っていて、食べる人との丁寧なコミュニケーションでリピーターが多いといいます。
代表の柏村さんは2022年5月の説明会で参加を決めた、やさいバス北海道の初期メンバー。現在Ambitious Farmは、札幌市周辺を循環するやさいバスのバス停にもなっています。参加を決めたのは飲食店や小売店向けで“朝どれ”を届けられるサービスの形態に引かれたからだそう。「ここ数年、外部の直売所などの委託販売を買い取りへシフトしたいと考えていたので、受注時点で売り上げが確定する点が決め手になりました」(柏村さん)
実際の売り上げも順調に伸びていて、3月の決算期までの約半年で新規取引先が18件増え、やさいバス経由の売り上げが約200万円になったといいます。「隣の札幌であれば1コンテナ数百円で当日中に運べるという点もわかりやすく、私の方からやさいバスを利用しての購入を提案することもあります」と、柏村さんは売り上げに直結しやすい仕組みを評価します。
システムの使い勝手などについては「商品説明と野菜の画像をサイトに登録し、受注したら客先ごとに仕分けてバス停に運びます。既にECや直販の経験があればスムーズだと思います」と、一手間はあるものの、負担ではないよう。メリットは、他のBtoBと違い一つのコンテナ料金でいろいろ詰め合わせができる点で、「旬のおまかせセットを出品するなど、お客様への提案や相談のような使い方もしています」と販促にも利用しているとのことでした。
「輸送の悩み解決に期待」Nishio Farm
Nishio Farm(上富良野町)は6年前に新規就農した西尾菜緒(にしお・なお)さん夫妻の有機JAS認定農場。露地栽培のニンニク、ニンジン、ジャガイモ、カボチャ、タマネギ、ハーブ各種を直販とEC(BASE店)で販売しています。
西尾さんは動画メディアで静岡のやさいバスの取り組みを知って、以前から注目していたそう。それが北海道でも始まると知って、2021年冬の立ち上げの際に手を挙げました。その理由について「富良野エリアはホテルやレストランが点在しているので、配達が大変でお取引が続けられなくなることもあります」と話します。やさいバスの運営サイドとは、こうした地域の事情についての情報共有もしています。
「やさいバスで、品物が札幌に当日届くようになり、他のクール便より少し安くなりました。それと、伝票業務がない。これは大きいです!」と、西尾さんは経費削減や業務負担軽減に役立っているといいます。さらに、「もともと走っているトラックや人手を活用したり、何度も使えるリターナブルコンテナを使うなど、無駄を減らしているのがいいですね」とサステナブルな仕組みにも共感しています。
ただ現状、富良野エリアにはバス停がまだ一つのみ。さらに旭川〜富良野エリア〜札幌を結ぶルートは今、20トントラックで週1便しかないのが出品のネックなのだそう。「これから物量が増えることで、便数も増えていくとうれしいですね」と話してくれました。
購入する側のメリットは?
購入者の側で目立つのは、冒頭のコンビニやスーパー、青果店などの小売業です。札幌市営地下鉄の白石駅構内に2023年2月に開店したデリカテッセン(そうざい店)「SA-LABO(サラボ)」白石店の小寺幸一(こでら・こういち)さんは、もとはホテル勤務の料理人です。仕事上、余った食材や料理を捨てることに疑問を感じていた小寺さんは、余剰野菜を買い取って料理するお弁当を開発。もう一人の共同オーナーとともにSA-LABOを開店してまもなく、取引先の農家さんからやさいバスを紹介されました。
「やさいバスの魅力は、たくさんの農家さんとつながれることです。今では僕らが農家さんにやさいバスを紹介することもあり、冬以外は野菜の仕入れのほとんどに、やさいバスを使っています」(小寺さん)
時には出荷者と連絡をとり、コンテナに空きがあれば他の品物を追加してもらうなど、仕組みを上手に活用しています。
運ぶだけじゃない。地域の困りごとを解決するコミュニティービジネスへ
北海道でやさいバスの運営を担当する北海道コカ・コーラボトリングの三浦世子さんは、やさいバス北海道を立ち上げた思いについて次のように語ります。
「やさいバスは、地域の方々が自ら問題解決できる仕組みです。そこに当社の物流網と小売店・飲食店とのネットワークも生かすことができます。野菜の流通を早く、短く、コストカットすることで、農家さんの手取りアップが可能になると同時に、環境負荷を減らす仕組みづくりにもなっています」
同社は、農家に参加を勧めるだけでなく、マッチしそうな購入者をつないだり、6次化に取り組む農家へ商品開発の加工業者をつなぐなど、やさいバスに関わる人の輪を育てようとしています。「農家さんたちを取り巻く状況はどんどん変わっています。農家の方と購入者の方が今抱えていらっしゃる課題を拾い上げ、ていねいにお聞きしながら、企業だからこその情報や人脈も使って一つ一つ解決しています」(三浦さん)と、地域の課題解決にも意欲を見せています。
今後やさいバス北海道の目指すところについては、「創始者である加藤百合子さんの、『おいしく無理なくやれる仕組みをつくりたい』という言葉通りですね。地域の人どうしで困りごとを解決できるコミュニティービジネスになることを目指しています。そして、ここから得る学びが新しい事業のヒントになる可能性も感じています」と、さらなる発展を見据えていました。
物流業界の2024年問題が危ぶまれる中、地域の物流に悩む農家さんの声に耳を傾け、一歩踏み出す人を増やす。大きな課題に対する解決法は、意外にも細やかな人と人のつながりから始まっていました。今後のやさいバス北海道の可能性に注目です。