次に、造影CTや蛍光標識したハイドロゲルをラットに導入し、延髄における間質液の流速や経路の構造・配向性・サイズを調査。すると、頭部への1Gの上下方向の衝撃は、局所の細胞に1Paを少し下回る程度の流体せん断力をもたらすことが判明したとする。その流体せん断力を培養アストロサイトに加えたところ、アンジオテンシンII1型受容体の発現が低下し、アンジオテンシンIIに対する応答性が低下することがわかったとした。
ラットの吻側延髄腹外側野にハイドロゲルを導入すると、組織液の流動が阻害される。そのため、ハイドロゲルが導入された高血圧ラットでは、定速走行や受動的頭部上下動による血圧下降効果、アストロサイトにおけるアンジオテンシンII1型受容体発現低下、尿中ノルエピネフリン排出量減少の効果が消失したという。これは、運動や受動的頭部上下動の効果が間質液の流動を介していることを示すとしている。
続いて、ヒトの軽いジョギングあるいは速歩き(時速7km)の際の、足の着地時における頭部への衝撃を計測したところ、これも約1Gであることが確認された。そこで研究チームは、頭部に1Gの上下方向の衝撃を与える座面上下動椅子を用意し、高血圧症を有するヒト成人に対し、1日30分間・週に3日・1か月間(4.5週間)の搭乗が実施した。その結果、被験者は高血圧が改善され、交感神経活性が抑制されたとする。
また、1か月の搭乗期間の終了後も、およそ1か月間は高血圧改善効果の持続が観察されたという。なお、過度の血圧低下(低血圧症状)を含め、搭乗による明らかな有害事象は認められなかったとのことだ。
今回の研究成果により、高血圧症に対する適度な運動の効果において、身体への物理的衝撃で生じる間質液流動の促進が重要な役割を果たすことが、ヒトでも示された。なお適度な運動の効果は、今回対象とされた脳だけでなく、骨・関節、筋肉はもちろん、腹腔内臓器や内分泌器官にも好影響を与えることが明らかだとされている。
また今回の研究成果は、「運動とは何か?」という問いへの答えにつながると同時に、病気や怪我などにより、運動したくても運動できない寝たきりの高齢者や肢体不自由障害者などにも適用可能な、擬似運動治療法の開発につながる可能性があるとしている。