花巻を宇宙の町として活性化させる「UP花巻」プロジェクト
今回の冒険型宇宙謎解きゲーム「銀河鉄道の落とし物」は、SPACE VALUEとSpace BDの2社が展開する「花巻スペースプロジェクト UP花巻」によって企画された。
SPACE VALUEは、“宇宙で花巻をワクワクさせる”をミッションに掲げ、宇宙をテーマとしながら花巻の魅力を発信する地元発の合同会社。『銀河鉄道の夜』を著した宮沢賢治の故郷を舞台として宇宙業界を盛り上げるため、人工衛星開発プログラムと地場産業の開発プログラムを推進するUP花巻を企画し、2024年の人工衛星打ち上げを目指して活動している。
一方のSpace BDは、日本の宇宙ビジネスを、世界を代表する産業に発展させることを目指す“宇宙商社”で、宇宙航空研究開発機構(JAXA)やSpaceXのロケットを利用した宇宙への物品輸送機会の提供、および国際宇宙ステーション(ISS)での宇宙空間の利活用など、宇宙を利用した実験・ビジネスに関する包括的なサービスを提供する。またSpace BDもUP花巻の運営企業として、さまざまなプログラムを展開している。
UP花巻においてはこれまで、打ち上げ予定の人工衛星が目指すミッションを、花巻北高校の生徒とともに決定する取り組みや、同高校での空き缶サイズの模擬衛星製作を通じたワークショップなど、学生向けの取り組みを実施してきたとのこと。
しかしSpace BDの担当者によると、「高校における取り組みは将来の宇宙業界に向けて大きな意味合いを持つが、他の学校や学生以外の市民を巻き込んで宇宙に関するメッセージを届ける取り組みは、あまりできていなかった」という。
そこで今回は、宇宙に興味を持つ人を増やすイベントとして、あえて宇宙産業に興味を持たない層が多く注目することが予想される“謎解き”と掛け合わせることを画策。これまで関心の無かった人々に対して、宇宙に触れる機会をもたらすことを狙ったとのことだ。
ゴールの映像はStarlink衛星から届いていた
今回の謎解きと宇宙との関係は、単に宇宙を舞台にしたストーリーであることに限らない。冒頭にも述べたように、ゴールに用意された映像は宇宙から降り注いでいる。
どういうことかというと、ゴールした際に映像を見るために手渡されるタブレットは、SpaceXが展開する通信用人工衛星コンステレーション「Starlink」と接続されている。つまり最後の映像は、宇宙空間にいる人工衛星から花巻のタブレットへと、文字通り“宇宙から地上へ”送り届けられているのだ。
ゴールとなるマルカンビルの7階から外に出ると、受信用のアンテナが設置されている。そのアンテナとつながれたルーターを介して、タブレットが通信を行う仕組みだ。宇宙を介した通信を実感するには、抜群のシステムなのではないだろうか。
日本におけるStarlinkを利用した通信は、国内唯一のStarlinkインテグレータであるKDDIが行っている。今回のイベント開催にあたっては、同社のもとにSpace BD代表の永崎将利氏から相談があったといい、KDDIによるStarlink通信の紹介展示を行うとともに、通信面での協力を行ったとする。
拡大の可能性を感じさせた第1弾の“宇宙謎解き”
今回開催されたStand up 花巻は、老若男女問わずさまざまな人々が参加し、大成功に終わった。JCI花巻の理事長を務める佐藤貴哉氏は、「100年近く前に宇宙が舞台の『銀河鉄道の夜』を書いた宮沢賢治の地元である花巻市は、宇宙との縁や将来的な可能性を秘めているかもしれない」としたうえで、「今回のような町を歩き回る謎解きを通して、普段なかなか外に出ない地元の子どもたちにも地元の町並みに触れてほしい」と話すなど、地域活性化を目指す姿勢を強調した。
また企画したSpace BDにとっても、大きな手ごたえがあったようだ。同社のエンジニアの知人に、謎解きを製作した謎杜プロジェクトのメンバーがいるという偶然から企画が加速したというこのイベント。同社担当者は「宇宙をテーマにした謎解きプログラムは、今後いろいろな地域に展開できるかもしれない」と話しており、今回のように企業や自治体などを巻き込みながら、さまざまなイベントを盛り上げる新たな方法として、期待をのぞかせる。
その一方で、今後も花巻の宇宙産業活性化に注力していくことに変わりはない。同社が提供するISSを活用した宇宙空間利活用サービスを通じ、花巻北高校との連携のもと宇宙を介した教育機会の創出が行われており、今後宇宙からの帰還が予定される同高校の搭載品をモチーフに、記念グッズを製作・販売することも企画中だという。
SPACE VALUEとSpace BDがともに推進するUP花巻を通じて、これからの花巻は、新たな宇宙の町としてどのような発展を遂げていくのだろうか。