パナソニック 空質空調社(以下、パナソニック)は、普及タイプから高級タイプまで、さまざまな家庭用ルームエアコン「エオリア」シリーズを生産しています。これまでエオリアは、一部の製品を除く約9割が中国工場で生産されていました。しかし、2023年からは高級機種が国内生産に切り替わり、2024年度からは中級機種も国内生産に移行する予定です。
生産拠点となるのは滋賀県の草津工場。中国から国内への設備移管にかかる費用はなんと約100億円! さらに、新工場と同じ敷地には、空質の研究開発施設も新設しています。気になる工場や新施設はどんなもの? まだ完全移行前ですが、記者会見と新工場を取材してきました。
新しい生産ラインは「自動化」がカギに?
パナソニックの国内エアコン工場は滋賀県の草津市(南草津)にあります。工場でエアコン生産に関わるのは約220名で、生産ラインでは室内機を100機種、室外機は40機種を生産しています。
従来は最上位機種のみをこの草津工場で生産していましたが、現在は最上位機種のLXシリーズ(室内機・室外機)に加えて、XシリーズとXSシリーズ(いずれも室内機、室外機は6.3Kw以上)、UXシリーズ(室内機)といったプレミアム機種も生産しています。
今回、実際にエアコンの生産現場を見学しましたが、中国からの生産拠点移管とともに組み立てや部品加工設備も今後どんどん入れ替わる予定です。現在は人の手が必要なロウ付け加工をはじめとした工程も、今後はロボットを導入することで自動化を進めます。
パナソニックによると、自動化・効率化によってエアコンの生産力は3割ほどアップする予定とのこと。また、日本は将来的に労働人口が減少する見込みですが、生産に従事する人数が減っても、自動化・効率化することで生産力を維持できるといいます。
とはいえ、エアコン工場で本格的な自動化設備の導入はこれから。今回は同じ施設内で自動化が進んでいる、ヒートポンプ式給湯器(エコキュート)の生産工場も見学しました。こちらは多くの作業がロボットの手により自動化されています。
今後の開発拠点となる「新棟」と国内生産の関係
一般的に、メーカーが海外で製品を生産する大きな理由はコスト。今回の施策も、エアコンの生産拠点を中国から日本国内に移すことで生産コストは上がってしまいます。そこでパナソニックは今後、エアコンの一部パーツを共通化、一部をモジュール化する予定です。
これによってエアコンの組み立て部品を3割ほど減らし、組み立て工数を大きく削減してコストを抑えることができるのです。ここで重要なのは部品の開発力。パナソニックは草津工場と同じ敷地内に新棟を建設し、エアコンの技術開発をはじめとしたR&D(研究開発)施設を稼働させます。
敷地内の新棟も見学しました。新棟は4階構造で、1階には複数の大型実験室を用意。パナソニックは以前から国内各所にさまざまな実験室をかかえていましたが、新しい実験室はより進化した仕様です。
たとえば、空調の性能評価を行う試験用のモデルハウスは、これまでは試験室内に断熱性能の高くない一般住宅環境を作っていました。しかし最近の住宅は断熱性能が高く、省エネなZEH(ゼロエネルギー住宅)も増えています。そんな住環境を再現するため、新しい試験室は周囲の温度を調整し、建物の断熱性能を変更できるようになっています。ひとつの試験室で「50年前の古いアパート」や「最新の高断熱ZEH」など多彩な検証ができるわけです。
パナソニックが日本生産にこだわる理由
最後に話を戻すと、パナソニックがエアコンの生産拠点を国内に移管する理由はいくつかあります。なかでも大きいのはリードタイムの短縮。国内生産なら、受注してから納品までのリードタイムは中国生産と比べて約4分の1まで減らせるそうです。もちろん、海外生産による地政学的リスクの回避も理由のひとつです。
パナソニック 空質空調社 社長の道浦正治氏は、生産場所が市場に近いことで流通在庫や欠品リスクを減らせるとし、製品在庫を最小限に抑えることで日本国内の需要変動にも柔軟に対応できると、国内生産のメリットを強調しました。
日本の夏は、ここ数年「猛暑」「酷暑」と評され、エアコンなしでは健康的な生活は困難です。いわばエアコンは生きるためのインフラ。エアコンの国内生産化で欠品(在庫切れ)などのリスクが抑えられるのは、消費者にとってもうれしい話題といえそうです。