グローバルGAPとは

グローバルGAPとは、食品安全、労働環境、環境保全に配慮した「持続的な生産活動」を実践する優良企業に与えられる認証で、世界120カ国以上に普及し、事実上の国際標準となっている。

これまでは、どんなに口頭で「うちは間違いない仕事や流通をしている」と言ったところで証明するものがなかったが、グローバルGAPを取得することで、トレーサビリティ担保によって取引先や消費者からの信頼を得ることにもつながるとされる。

欧米の大手小売をはじめ、近年では日本の小売でもグローバルGAPなどの国際認証を取得した生産者からの仕入れを優先しているケースもある。事実、イオンやコストコ、マクドナルドなどの誰しも名前を聞いたことがある大手企業も、仕入れをする際にグローバルGAP認証の有無を調達基準にしているほどだ。

レンコン農家として初めてグローバルGAPを取得

株式会社カワカミ蓮根代表取締役の川上さん

レンコン農家としては初めてグローバルGAPを取得したのが、株式会社カワカミ蓮根の川上大介(かわかみ・だいすけ)さんだ。同社は熊本県熊本市西区、玉名市の2拠点でレンコンを栽培している。

川上さんによると、グローバルGAPで得られる最大のメリットは、一定の品質を保てるような環境が整うことだそう。グローバルGAPでは、食品安全、トレーサビリティ(生産、消費または廃棄まで追跡可能な状態)、品質管理、労働安全と健康、土壌の管理、施肥の管理、総合的病害虫管理、農薬の管理、水の管理といった実践すべき項目が設けられており、分かりやすくチェックできるからだ。

例えば、言葉も文化も異なる海外の技能実習生への指導は、言葉だけではなかなか伝わりにくいことも多い。

しかし、文字や写真を用いてマニュアル化することで「ここではこうすればいいんだ」という指標が明確になる。それによって皆が一定の技量を得ることができ、ひいては事故防止にもなるのだとか。

また、工場内でも作業内容やチェック項目を可視化するなど、従業員の労力を軽減するためのマニュアル作成に取り組んでいる。こうすることで付きっきりで仕事を指導する必要がなくなり、その間に営業に回れるようになるなどの余裕が生まれた。

ここまで聞くと「販路拡大を目指すならグローバルGAPは絶対に取得したほうがいい」と思ってしまいそうだが、それに対して川上さんは「その考えならば僕は止めますね」と警鐘を鳴らす。

もともと川上さんは、農業セミナーで講師をしていた先輩から「今のうちに取得しておいたほうがいい」というアドバイスを受け、約10年前に認証を取得をした。それでも、「取得したのはいいんだけど、何度も今年こそ更新やめようと思ってましたね」と当時を振り返る。なぜか。

「今は、技能実習生もいますし、スタッフの数も30人超えたので必要不可欠です。ただ、取得した当時は完全なる家族経営だったんです。その程度の規模感、そして勝手知ったる家族間であれば僕はそんなに必要性はないと感じました。現在の規模感になって初めて恩恵を受けたと実感しています。話は変わりますが、今は取得に必要な費用は補助金として負担する自治体も増えてきているので、以前よりは取得のハードルも下がったといえるでしょう」(川上さん)

筆者:取得するには費用が発生するんですね。

川上社長:そうです。今は変わったかもしれませんが、私が認証を受けた当時は認証、分析費用などを含めて約200万円。そのあと毎年更新するのであれば年60万円必要でした。

営業を担当する、専務取締役の川上一歩(かわかみ・かずほ)さん(左)

筆者:年60万円はなかなかの金額ですね……。そこで目が届く家族経営ならば(必要ないのではないか)、という先ほどの言葉につながるんですね。コストが発生するならば、せめて認証シールを貼るなどして付加価値をつけたいなって考えてしまいます。

一歩さん:そういう方もおられるでしょうね。ただ、私たちはそうは思いません。なぜなら工場でいえばHACCPやISO認定のような、やって当たり前ということを可視化しているものに付加価値をつけるのは違うよねっていう認識があるからです。

川上さん:本当にそうだよね。よくグローバルGAP取得と商品価値向上をごちゃ混ぜに解釈したような問い合わせがくるけれども、全く別の話です。そもそも取得することはゴールではなく、あくまで安全に作業するための過程です。例えば、何かしらの不備があってリコールになった場合、対応策を知らないとどうしたらいいのか分からないですよね。そういった知識を経営者として知っておくことで未然に防げる可能性が生まれます。グローバルGAPを取得することで商品価値が生まれると考えている人がいるのならば、それはちょっと待てよと言いたい(笑)

熊本の豊富な地下水を守るためにレンコン農家ができること

熊本県にある世界一のカルデラ阿蘇山から流れ出る豊富な地下水。特に熊本市の地下水は水道水を100%賄うほどである。

「蛇口をひねればミネラルウォーター」と比喩されるほど上質な水質で、カワカミ蓮根が使用しているのも、もちろん地下水だ。

川上さんいわく、水次第で味が大きく変わるのだそう。

味を左右するほど重要な地下水だが、もちろん無限に使用しているわけではない。

蓮根田は止水板で仕切り、蒸散した分をつぎ足すスタイル。おおよそ10アールあたり20分の入水で地下水保全に取り組んでいる。

これもグローバルGAPの項目の一つである持続的生産活動のための水の管理だ。

グローバルGAP取得はゴールではない

「グローバルGAP取得はゴールではない」。終始この言葉を口にしていたのは、家族そして従業員のことを誰よりも真剣に考えているからこそであることは想像に難くない。

今後もたくさんの人においしいレンコンを食べて欲しい。株式会社カワカミ蓮根がその願いを叶えるための一つの手段がグローバルGAPなのだと思う。

情報があふれている昨今だからこそ、自分の経営スタイルにあっているのか否かをしっかりと見極めることが必要であろう。